24・初めまして盗賊さん
「……見つかった。仕方ないね」
ガサリ、と草むらから出てきたのは三人組の人間。猫耳を持つ獣人の少女。弓を持ったエルフの青年。杖を持った小太りのドワーフの青年。全員動きやすそうな服装で盗賊のよう……そんな三人ですね。
「こんな所でも人に出会うとは……ポーションがあれば売ってあげられたと言うのに」
「ポーション売りさんご心配なさらずに。オレらの目的はポーションじゃありませんので」
エルフらしく耳が長く華奢な印象を受ける青年。その見た目に反して軽い口調で話しかけてきます。この森でポーションを売っていた私の存在は、攻略プレイヤー達の間で知られていました。なのでポーション目当てで私に声をかけてくる人もいたんです。ですが今回は違うようですね。
「それでは何が目的と?」
「そりゃあもちろん……あ~何が目的だったっけ?」
堂々と話そうとした少女が途中で困った表情をすると後ろを振り返りました。
「おい、何やってんだよ。いつもと同じでいいだろ」
「うん、僕もそう思う。いつもと同じ感じで」
「あ~そう? それではゴホン……え~私たちはえっと、あんたの金が欲しい、です! 以上!」
そうたどたどしく宣言した彼女を見て後ろの二人があきれた顔をします。エルフの青年なんて額に手を当てていますね。
「いつになったらきちんとできるかなぁ」
「う、うっさい! まだ慣れてないんだから仕方ないでしょ!」
「慣れてないって言ったってな、お前これで何回目だと思ってるんだ?」
「二人とも落ち着いて。今この場面で言い争わないで」
言い争う二人とそれをなだめるドワーフの青年。さて彼らの様子が落ち着いた所でまた私の方に向き直ります。
「まぁ、そういうわけだ。別に詳しく言わなくても分かるだろ。オレらが盗賊で、あんたは獲物というわけさ。命が惜しけりゃ金を置いていけってことだよ」
まぁなんて分かりやすい。いや最初からそうなんだろうとは思っていましたけど、こうやって直に言われるとあぁやっぱりそうなんですねと思えますね。事実確認は必要です。もしかしたら道を聞きに来た人達だったかもしれませんからね。
「そーそー! よく言った私の下僕よ!」
「……なんでそういう所はうまく出来てんだよ!」
「意識してない方がうまく出来てるよね」
「それだと無意識に下僕扱いされてるじゃないか、オレ!」
隣のドワーフの言葉にさらに頭を抱えるエルフ。
「ふ、ふはは! そういうわけだからえっと……そうそう、お金を置いていけば命は見逃してあげよう! えーと次はなんて言おう……さぁどうする? お金置いてくよね? それとも命置いてく? ねぇ! どっちでもいいから置いていってくださいよー! お願いしますー!」
なんで盗賊がこちらに懇願しているんですか。どちらも置いていかないですよ。そしてエルフの青年がまた頭を抱えています。なんとなくあなたの気持ちが分かりますよ。
さてと……このままだとエルフの青年くんの頭痛が止みません。なのでこちらの答えを言ってあげましょう。
「結論から言えば、私はあなた達にお金を渡しませんよ」
「……じゃあ命が惜しくないんですか」
ドワーフの青年が聞いてきます。エルフの青年は猫耳少女と何やら会話をしていますね。口が動いているけど会話は聞こえないのでパーティチャットで話しているのでしょう。
「まさか……」
戦闘になれば三対一。こちらが圧倒的に不利です。しかも今は夕刻。状況的に不利すぎます。夜になったとしてその人数的不利は覆らない。だからといって素直にお金なんて渡せません。死にたくもありません。
ここは逃げましょう。戦闘は無理でも逃げることの方がまだできる気がします。それに私はこの森を熟知している。たとえ逃げ切れなくても今は西の外れにいますが、プレイヤーの多い南まで行けば誰かしらに助けを求められると考えます。
「そこを退いていただきましょう」
その為には彼らが阻んでいる道を通らなければなりません。上空に待機していたニルが私の声に合わせて彼らに【ダークミスト】を放ちます。目を闇に奪われている間に彼らの間を抜けて、そのまま南に向けて突っ走りましょう。
「おいおい、まじかよ」
「……ッ!?」
風を切る音が聞こえました。とっさに真横に体を避けます。私が元いた場所を矢が通過していきました。
驚いて振り返ると弓を構えたエルフの青年。おかしい、彼らはニルの放った【ダークミスト】の効果で視界を奪われていたはずです。まだ効果も続いているはずでした。
なのに彼ら三人はしっかりとこちらを見ている。そして終了したであろう何かしらのスキルのエフェクトが彼らの辺りをキラキラ舞っています。
答えなんてすぐ分かる事でした。ドワーフの青年です。彼は杖を持っていました。最初は私と同じ魔法使いだと思ってしまいましたが……どうやら彼は同じ魔法でも回復系の魔法を扱う神官のほうだったようですね。
「三人相手に戦闘を挑むとは……正直びっくりしたぜ」
「まぁこういうことは何度もあることだしね」
あれ? 私は宣戦布告をした覚えはありませんよ。退いてくださいとしか言っていませんが……。それがそう受け取られたのでしょうか。
「えっーなんでお金渡さないの!?」
「それはお前くらいだ。アジーさっさと戦闘準備しろ」
「えっ?」
「アジー!」
「あ、ああ、そうだ! そうだったね! ごめんよユ……じゃないサヴァール!」
「……お前なぁ! ――――!」
そこから先はチャットを切り替えたのか声が聞こえてきません。まぁなんとなく会話内容は分かります。苦労が絶えませんね。
「……こんな僕らに襲われる貴方も災難でしたね」
「ええ、まったくです」
「正直ですね。それにしても返り討ちにするようなので、こちらも卑怯と罵られようと三対一でいきますからご覚悟ください」
だから私は……まぁいいでしょう。しかしまぁ本当に三対一とは卑怯です。やられる覚悟をしておいたほうが良さそうですね。
「ふふ、覚悟などとうにできています。覚悟をするのはそちらではなくて?」
クロエさん的には虚勢を張りましょう。……むしろ逃げるという選択肢は彼女には似合わなかったのかもしれません。背を見せて逃げるのは似合いませんでした。はぁ……仕方ないですね、たとえ不利だと分かっていても足掻いてやりますか。
そう決めたからにはさっさと夜になって欲しいところですね。




