21・他人の考えも同じこと
「ありがとうございましたー」
ポーションを買った人に感謝を込めて笑顔で見送ります。【黄昏の森】の入り口にてポーションを売り出して数十分。私の見込み通り、ポーションは飛ぶように売れていきました。やはり皆さんポーション不足に悩んでいたのでしょう。ちなみに価格は街で買えるポーションと同じ値段です。普通は店がない場所で営業しているのでぼったくっても良いのかもしれませんが、きっとプレイヤーからの印象は悪くなるでしょう。
私もぼったくられた経験がありますから。そんな事をしたら変に目をつけられてしまうかもしれません。PVPは常にどこだって起きるんですから。……このゲーム、街だろうがどこだろうがプレイヤーを攻撃できてしまうのです。まぁ街の方はまだ兵士などがいるので襲った瞬間に捕まる恐れがありますから、安全といえば安全ですが……。だからといって安全な場所がないかといえばそうではありません。宿屋や重要な拠点には設定されています。
ならPVPが盛んかといえば……普通でしょうか? 今のところそういう類の人にはまだ会っていません。まだ序盤の地域だからでしょうか?
……いや、もしかしたら気づかぬ内にPVPをやっていたかもしれません。このゲームはプレイヤーとNPCの区別がつきません。そしてプレイヤーは何にでもなれる。実際に種族選択にはモンスター側も入っていました。つまりは……今まで戦ってきた存在の中に、もしかしたらプレイヤーがいるかもしれません。モンスターまでは流石に分かりませんが、可能性が高いのはあの村の村長とかあの悪魔ちゃんくらいでしょうか……まぁ真相は分かりません。
とにかく、無意味なトラブルを避ける方がお互いに良いこと。一応、ミランダさんの所に売るよりは利益が出ているのでいいでしょう。
そしてすぐに売り物は無くなってしまいました。全て売って三万三千五百G。なんということでしょうか。もう三万G以上も稼いでしまいました。新しい杖が買えてしまいます。
こうしてはいられません。さっさと杖を買いに行きましょう。またポーションを作って売るという考えもありますがそんなことより杖です。あの黒い杖です。今の所装備できてさらにデザインが良いあの杖。早く行かないと前の防具みたい誰かに買われてしまう可能性だってあるんですよ? という事で急いで街に向かいましょう。
*****
「フフフ……」
にやけ顔が止まりません。あぁ、この少し紫の掛かった黒い色がいいですね。先端に付けられた青色の石が光を反射して輝いています。美しい……。
【黒い魔術師の杖:魔法攻撃力+50:魔力を蓄えた枝と石から作られた標準的な魔術師の杖。一般的な魔術師の杖と違い色が黒い】
さすが三万Gするだけあります。やはり買ってよかったですね。あの後、真っ先に武器屋に駆け込み無事に武器を手に入れることができました。これでまた一歩魔女らしさを手に入れたような気がします。
「ニル、見てください。今度は新しく杖を新調したんですよ」
ニルは相変わらず私の肩の上で眠っていました。私の呼びかけで目を開いた後、新しくなった杖を見ます。そして肩から飛んでいったかと思うと、杖の先端に乗ろうとしました。ですが、杖の装飾が邪魔をしており少し乗り辛そうです。
「……替えませんよ。せっかく新しくしたのですから替えません」
だからニル、そんな不満そうな目で見ないでください。肩を貸してあげますから。
さて、せっかく杖を新調しました。なのでちょっと試し撃ちをしに行きたいですね。丁度夜ですから戦闘するならとても良い。そうと決まったら外に出て……
「ニャー」
猫。猫の鳴き声が聞こえて来ました。思わず振り返ると、路地裏に続く道の先に黒猫が一匹。しばらく互いに見つめあっていましたが、猫の方が先に動くと路地裏の奥に行ってしまいます。
「ま、待って!」
急いで追っ掛けますがやはり猫の方が素早い。すぐに姿が見えなくなってしまいます。
「ニル、お願いします」
私では追いつけません。ですがニルなら空を飛べます。しかも召喚スキルが上がった影響か、ニルが見えている視界が私にも見えるようになりました。
ニルが見えている視界が私の視界画面に現れたウインドウを通して見える形ですね。もちろん私の視界をニルの視界に切り替える事もできます。そのお陰で上空からすぐに猫の姿を見つける事ができました。
「今度こそ……今度こそ契約を」
黒猫の使い魔は私の目指す魔女の次なる一歩に必要なのです。
……散々街中を駆け巡っていましたが、結局黒猫を捕まえることはできませんでした。あの黒猫、すばしっこい。だからこそ余計に使い魔として欲しくなってしまう。
「…………」
ニル、なんですか。また冷たい目線を……なんだか今回の目線は違う? ちょっと寂しそうな目線。あぁもしかして――
「新しい使い魔を迎えるのは嫌ですか?」
そう聞いたら首を真後ろに回してそっぽを向いてしまいます。
「別にあなたが頼りないから、新しく使い魔を迎えようと言うわけではありませんから」
これは私の魔女の理想を目指す目的のせいですね。演技をするのも大事ですが、形から入るというのもいいでしょう。だから魔女の要素となりそうなものには反応してしまうのです。
ニルは確かに寝られる時は寝ていますが、きちんと仕事をしてくれます。そんな事を伝えたら首を元に戻しました。そして寝ます。……安心したからってすぐに寝ないでください。まぁそこがニルらしいとも言えますか。
さてと……黒猫を追っかけまわしていたのですっかり夜が明けてしまいました。これでは戦闘は無理ですね。まだ【黄昏の森】の方はポーション不足で悩んでいるのでしょうか? でしたらまた商売のチャンスです。なのでさっそく【黄昏の森】の方に行きましょう。
*****
考えが甘かったというべきでしょうか。いえ、私のような考えに至るのは他人も同じことです。なのでこの状況は必然でしょう。
私は今【黄昏の森】にいます。また売り物にしようとポーションを作っていざ売り出そうとした時に、気付いてしまった。どうやら他にもポーション売りの商人がいたようです。その人はぼったくっていたようですが、私の登場で客がこちらに流れました。他の商人はいません。私が最初に売っていた時より時間が経ちましたが、あのぼったくり商人しかいなかったようです。
そう思っているとまた新しいポーション売りが現れました。時間が経つにつれてその人数は増えていきます。そのどれもが皆商人と言うよりはポーションを生産できる人ぽいですね。なるほど、商品を用意していた時間を考えれば、ぼったくり商人しか居なかったことにも頷けます。他の生産職は私の持つ【野宿】のような外で生産活動ができるスキルを持たないと、一旦街に戻らなければ生産ができませんからね。ぼったくり商人は街で売られていたポーションを転売したのでしょう。
さて、このように店がたくさんいる市場で何が起こるのか。それはもちろん値下げ合戦です。
どんどん値下げがされていき、いつしかポーションが百Gで買えてしまう事態に。今では街より安いとして【黄昏の森】攻略をしていない人もこちらに流れてきていました。
それでも私の所はまだ良かった。それは毒消しポーションを売っていたからでしょう。しかし、どこから聞きつけたのか、ポーションだけでなく毒消し麻痺消し眠気覚ましまで揃えた店が出来た。多分、高レベルプレイヤーかと思われるこの店には勝てる訳ありません。私も、向かい側で私とにらみ合いながらポーションを売っていた人も……。
以上、【黄昏の森】で回っていた小さな経済の顛末でした。
とりあえず目的であった武器の買い替えはできたので良しとしましょう。ただ問題は残ってしまったポーションの在庫をどうするべきかですね……。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV17 残りSP21
基本スキル
【両手杖LV13】
【闇魔法LV14】【風魔法LV12】
【魔法知識LV14】【魔力LV14】
【月光LV9】【下克上LV7】
【召喚:ファミリアLV15】
【命令LV9】
【味覚LV11】【暗視LV15】
【鑑定:植物LV15】
【採取LV15】【調合LV15】
【毒耐性LV6】【麻痺耐性LV5】【睡眠耐性LV4】
【言語:スワロ王国語LV9】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
称号
【ベリー村の救世主】
名前:ニル
種族:使い魔
性別:オス
LV13
基本スキル
【闇の知恵LV13】【ダークミストLV6】
【看破LV4】【冷たい視線LV5】
ユニークスキル
【森の賢者】【夜行性】




