19・ロールプレイヤーの性
「いらっしゃいませ」
いつもの雑貨屋に入るといつもの声が出迎え……あれ? 違いますね。今の声はあのふわふわ店主の声ではなく男の子の声でした。声変わりでもしたのでしょうか? カウンターを見るといつものあの店主の姿はなく、代わりに少年がいました。
「……あれ、ミランダさんは?」
「店長なら今出かけていますよ」
この雑貨屋の店主ことミランダさんは今外出中のようですね。いつもカウンターにいるのは彼女だったので、少し戸惑ってしまいました。
「何か店長に用事でも?」
「いえ……あの買い取りをお願いしたいのですができますか?」
「はい、大丈夫です」
代わりに店番をしている少年くんが笑顔で答えます。その少年くんにこの前のエピッククエスト関連で手に入れたアイテムを売っていきます。主にゴブリンとかオークからのドロップ品ですね。
すべて売り払うと二万三千Gになりました。……よし、これで装備を新調できます。
「ただいま~今帰ったよ~。あっクロエちゃんいらっしゃい~」
店のドアが開けて入ってきたのは店主でした。そして店番をしていた少年くんと入れ替わるようにカウンターに立ちます。少年くんは店の奥に引っ込んでいきますね。
「あの子はここの店員ですか?」
「……テンテン?」
……忘れた頃にやってくる言葉の壁。言語スキル仕事してください。もう一度言い直したら伝わりました。いつになったら不自由なく喋れるのでしょうか。
「あぁ、確かにあの子はうちの店員だよ~。まぁ正確には従者だけどね~」
「従者? じゃあ彼は執事なんですか?」
従者って聞くとなんだかそんなイメージがあります。元貴族なクロエ的に見ても彼らの存在はそういうものだと認識できそうですね。
「あはは~わたしが貴族令嬢に見える?」
「まったく見えません」
「そんなきっぱり言わなくてもいいのにな~」
残念そうに……という風には見えない感じで彼女は続けて言いました。
「あの子は執事じゃないよ~。【従者契約書】で雇える労働者。契約の内容によってはクロエちゃんの言う通り執事をやっている従者もいると思うよ。でもうちのあの子はここの店の手伝いって感じで雇ってる子」
「なるほど」
ただのアルバイトってことですね。ただ人を雇うというものですが、それをゲームシステムとして実装したら、このような形になったのでしょう。
「クロエちゃんも従者欲しい? わたしと違ってクロエちゃんはどこぞの女王様に見えるし~」
また言語スキルがミスをしています。女王様ってなんですか。ミスするならそこは魔女さまにしておいてください。
「……まぁ居て悪いことはありませんからね」
貴族のお嬢様だったクロエが今はこんな遠い地方にいるくらいです。そうとう苦労して来ていると思うので、今更メイドがいなければ何もできないような子ではないと思います。ですが貴族として過ごしていた時期を思うと、やはりメイドの一人くらいは欲しいと考えそうですね。
「【従者契約書】は三千Gだよ~」
ふわふわとした笑顔でそう言います。……ミランダさん、商売上手ですね。
*****
さて雑貨屋を後にして次に向かう場所は防具屋ですね。道はしっかりと覚えているので大丈夫です。そうでなくても、【土地鑑】スキルがありますからね。
防具屋の扉を開けるとカランカランとベルが鳴りました。カウンターにいたあの寡黙そうな店主がこちらをちらりと見ただけで、あいさつもありません。
とりあえず目を付けておいた防具を探しましょう。相変わらず客がいない店内を歩きます。ここは儲かっているのでしょうか? 少し心配です。
「あった! とんがり帽子!」
真っ先に手に取ったのはとんがり帽子。これですよ。魔女と言えばとんがり帽子です。フード付きのローブを羽織った魔女もそれはそれで魅力がありますが、このとんがり帽子もまた良いものですからね。あとは防具ですね。目を付けていた物を探しましょう。
……おかしいですね。前回来た時はあったのですが、見当たりません。この場所ではないのでしょうか。別の場所を探しましょう。
「……何してやがる」
「ひっ」
あの店主に声をかけられてしまいました。あぁ確かに店の中で探しものをしている私は、泥棒か何かに見えてしまったかもしれません。
「あの……ここにあった魔術師用の防具を知りませんか? 黒色で裾長の……」
「売れたな」
「じゃあ同じ物はありませんか?」
「ない」
そんな! まさかこの防具屋に私以外の客が来ていたなんて! あぁ、失礼しました。どうやらこの防具屋は意外と儲かっているようですね。ですが私の狙っていた装備を先に買われてしまいました。もしや私以外にも魔女を目指す人がいたんですか?
「……そいつを買うのか」
店主がとんがり帽子を指差しました。
「はい」
「予算は?」
「大丈夫です。一万Gありますから」
「違う、全身の予算だ」
「えっ? この帽子を入れて二万Gで考えていましたが……」
そう答えると店主は店の中を歩き出しました。商品として置かれた防具の山から、いくつか手に持ってやって来ます。そしてそれを私に押し付けるように渡しました。
「試着ならあっちだ」
「は、はい……」
意外にも巨漢な男性だった店主に睨まれて、私は逃げるように試着室に行きます。これはどういうことでしょうか……。とりあえず渡された装備を試着。
「……これは」
鏡に映る私はまさに魔女の姿。とんがり帽子とぴったり合わさった黒と白のゴスロリに近いドレス。
「でも……これは……」
貴族令嬢のドレスと違い、この衣装のスカートは短めです。スカートとニーソの間の絶対領域が眩しい。カーテンを開けて試着室を出るとカウンターの向こう側に店主が戻っていました。
「着替えたか?」
「はい。でも……」
けしてこの衣装は嫌ではありません。ですがこの衣装のスカートは短め……私はあまり進んで着たいとは思わない。若い頃は着ていたのですが……。
「……似合うと思ったんだが」
小さな声で店主が言いました。……そう、その通り。似合っています。この店主、なかなかファッションセンスが良いようです。この衣装、クロエに似合っていて魔女的にも可愛らしくて良いんですよ。――クロエなら着る、確実にそう思えます。……仕方ありません。
「あの、コレを買います」
クロエに似合っていて買うと思うのなら買わなくては……だって私は魔女であり、クロエですからね。




