18・村長の願い
「いやはや、まさかゴブリン退治をすぐに終わらせてしまうとは。しかも私の依頼した薬草まで……本当にありがとうございます」
村長さんは私達の報告を聞いて嬉しそうにしています。だからこそ少し疑いを持ってしまいますね。カイルさんがこちらをチラリと見てきました。それに答えるように静かに頷いて、村長さんに話しかけます。
「……失礼ですが、この薬草は何の薬に使われるのですか?」
「あぁこの植物は調合すると万能薬になるんだよ」
「この薬草には毒が含まれているようですが……」
「確かにこれは毒を持つ。だが正しく調合すれば薬にもなるのだよ」
「そうですか」
確かに毒は薬にもなる。これ以上は聞けないと判断して私は口を閉ざします。
「本当にありがとうございました。できればまたゴブリン退治などを受けに来てくれるとありがたい」
《クエストをクリアしました》
《報酬1500Gを獲得》
《報酬1500Gを獲得》
どうやらシステム的にもクエストはクリア扱いとなったようです。ゴブリン退治と薬草採取で三千Gを貰えました。
「いえいえ。困ったときはお互い様ですから。それでは僕たちはこれで、また近々様子を見に来ますよ」
報酬も貰ってしまったので、仕方なく私たちは村長の家を後にしました。
「……どう思いますか、クロエさん」
村長さんの家から十分離れた時、またカイルさんに声をかけられます。
「どうとは?」
「これで依頼は終わりですが……本当にこれだけで終わるのでしょうか?」
通常のゴブリンの依頼に、少し特殊な薬草採取の依頼。それだけを見れば依頼が増えただけのように思えます。ただ今回は薬草の種類とそれを依頼した相手が悪かった。
「あの薬草は本当に渡して良かったのでしょうか……もしあの薬草で毒薬を作って……」
「それで村長さんが自殺するとでも思っているのですか? ないですね。自殺するだけならナイフ一本で事足ります」
娘に先立たれた悲しさから後を追う……なんてことはすぐに思いつきます。ですが先程も言ったように、それだけが理由ならもうこの世にはいません。苦しまずに死ぬなら毒殺なんて、一番苦しい方法は選ばない。その毒が苦しまない方法だったら分かりませんけど。
「……確かにそうですが」
カイルさんは納得がいかないようです。
「……貴方の気持ちはわかりますよ。ねぇニルもそう思うでしょう?」
先程からニルが少し複雑そうに村長宅を見ています。今は昼間なのに起きているんですよ。いや今はそこが重要ではありませんね。ニルはなんだが人を見る目があるようです。だからやはり気になるんですよ。あの村長は。
「あの村長さんは何か起こしそうです。……気になりますからもう少しここに居ますか?」
「……そうですね。では交代で村長の家を見張るのはどうでしょうか?」
カイルさんの提案に頷きます。これで本当に何も起きなかったら……面白くないですね。
******
さて、カイルさんに村長さんの見張りを頼んでしまいました。つまり今の私は暇なんですよ。そうですね……ついでに拾ってきた薬草がいくつかあるのでポーション作りでもしましょうか。
ならついでに実験もしてみたいので……
「……どこかに井戸はないでしょうか?」
そうです。水が必要なんですよ。湧いてくる不思議な水はあまりおいしくありませんでしたから。住人に聞いてみた所、すぐ見つかりました。
井戸から水を汲み上げる。綺麗で澄んだ水が取れました。アイテム的には井戸水というそのままの名前のようですね。一口飲んでみるとおいしい。あの変な水のような味ではありません。これは期待できそうです。
さっそく地下水を鍋に入れて、すり潰した薬草を入れて煮込みます。中級者用のいい鍋で煮込むこと数分。甘くいい匂いが辺りを漂います。味見をしてみると薬草の時そのままに甘い味。どうやら味が悪くなった原因はやはり水のようです。
煮込み時間に気をつけつつ、無事に完成。
【おいしい初心者回復ポーション:☆☆☆】×10個
名前においしいが付きました。完成したポーションを試しに味見してみましたが、確かにおいしいです。以前のような吐き出してしまいそうな程に苦い味ではありません。それから中級者用で作った影響か知りませんが三ツ星になりました。
「ニル、見てください。おいしいポーションが完成しましたよ!」
そう言ってニルに自慢しますが、ニルは興味がないようで寝たままです。おいしいんですよ。確かにかけることが主流のポーションに味は関係ないかもしれませんけど。
「…………?」
その時でした。なんだか視線を感じてそちらを見ます。建物の影が見えるだけで何も見えません。
「気のせい……?」
なんだか違いますね。寝ていたニルもそこをじっと見つめていました。ですがまた寝る体勢に戻っていきます。
あれこれ考えても解決しなさそうですね。これは放って置いて、私は今後の為に地下水を大量に汲み上げておきましょう。
あ、住民の方が水を汲みに来たので譲ります。ここは村の井戸ですからね。聞いた話によると村で唯一の井戸で、この村の人達は全員この井戸を使っているようです。小さな村なので一つの井戸で足りるのでしょう。
「…………」
……一つだけの井戸ですか。
「ねぇニル。もしもこの井戸に毒でも流し込んだら……村人全員を殺せそうですね」
私の物騒な言葉にニルが驚いたように目を開けました。
とりあえずカイルさんに連絡をとりましょうか。カイルさんとはフレンド登録したので、いつでも通信可能ですよ。
*****
さて、あれから随分と時間が経ちました。あぁ随分ととはいいましたがゲーム内での時間が、という意味です。昼間から日が暮れて夜になったんですよ。
「僕はできれば来て欲しくないなぁ……」
隣に立つカイルさんがそんなことをいいます。まぁキャラ的にはそう言うしかないでしょう。そんなカイルさんは遠くに見える井戸をじっと見つめています。
「まぁあくまで憶測ですからね」
村長さんがそんな人ではなかったらここには来ません。ですが来た場合は……。
「……どうやら君の予想通りだね」
暗闇の中で動く人影が見えます。その人影はまるでコソコソするように慎重に歩いており、まっすぐに井戸の方へと動いていました。
カイルさんが光魔法を出しました。照明となる光は暗がりにいた人の姿をくっきりと照らし出します。
「こんばんは、村長さん」
驚く村長さんに向けて私はあいさつをしておきましょう。スカートを広げてしっかりと礼をしますよ。
「な、なんじゃお前ら、なぜここに!?」
「そう言う村長さんこそ、なぜここにいるんですか?」
「水を飲みに来ただけじゃ」
「じゃあその手に持った瓶はなんですか? 液体が入っているようですが……」
カイルさんの言葉に村長さんは慌てて手に持っていた物を隠します。見えていた物はポーションのような物。液体は紫色ですね。
「喉が渇いたならそれを飲めばよろしいのでは? まぁ飲めないですよね、それって毒薬ですから」
「……チッ! やはり他人に頼むべきじゃなかったか」
聞こえるほどの舌打ちが聞こえてきて、あぁやっぱりという気持ちになります。どうやらこの村長さん、毒を井戸に流し込んで村を壊滅させる予定だったようですね。
「村人を殺すつもりでしたか?」
「…………」
村長さんが顔を反らします。確認の為に聞いてみましたがやはりそうだったようです。さて次に疑問に思うのはその動機。考えられる理由としては二つくらい思い当たりますがどちらでしょうか。
「なぜそんな事をするんだ?」
「…………そんなもの、娘の為に決まっておる!」
……なるほど、娘の為でしたか。もしも村の壊滅が目的だったら、前回のゴブリン襲撃にも村長さんが一枚噛んでいると思ったのですか……どうやら前回は関係なしのようですね。
「娘の為? この行為が一体どうやったら娘の為になるのですか?」
「そんなこと……娘を生き返らせる為だ!」
村長さんから攻撃が飛んできます。どうやら魔法が使えるようで火球が飛んできました。
「大丈夫ですか、クロエさん!」
「ええ、ありがとうございます」
カイルさんが魔法を受け止めてくれたみたいです。とっさの事だったので盾も持たずに身一つで。ありがとうございます。とりあえずポーションを投げて回復させておきましょう。
「生き返らせるため……ですか」
村人を殺そうとするのは生贄でしょうか。だんだんとこの事件の真相が分かってきました。
「村長さん、落ち着いてください!」
「邪魔をするな貴様ら!」
カイルさんの声は村長さんには届きません。どうやら目撃者である私たちは消し去るつもりですね。また村長さんが攻撃を仕掛けてこようとしています。私も杖を手に持ちます。
「……クロエさんは手を出さないでください」
「どうしてですか?」
「クロエさんの魔法は高火力すぎです。きっと村長さんを殺してしまいます」
……そうでしょうね。しかも今は夜です。どんな魔法であれ、【月光】効果で強化された魔法は手加減なしに敵を倒してくれるでしょう。村長さんは魔法を扱えますが、たぶんゴブリンよりも弱いです。カイルさんでも簡単に倒せますね。
「ではどうするのですか?」
「村長さんを説得します」
また飛んできた火球をカイルさんが受け止めます。今度は盾で防いでるのでHPは減りません。ですがいつまでも耐えることはできないでしょう。
「面倒なので一撃で終わらせてはダメですか?」
「クロエさん!? ダメですよ!」
確かにここは村長さんを説得する場面。ですが、すみませんカイルさん。貴方のように正義感溢れる方なら別ですが、クロエがそんなことをするようなキャラには思えなくて……。クロエは単純に良い人とは言えないんですよ。
今回の件も正義感から村長を止めにいったのではなく、興味を惹かれて村に残った形ですね。
「……なら説得してください。ダメそうなら魔法で終わらせますので」
ですが私としてはここは説得する場面に持っていきたい。なのでカイルさんに任せます。
「……任されました。きっと説得してみせますよ」
カイルさんがニッコリと笑って返事をします。やっぱり良い魔女に転向しましょうか?
「村長さん、この村の人を犠牲にして娘さんを蘇らせたとして、それが本当に娘さんの為になるんですか!」
「うるさい! わしにはもうあの子しか…」
「そんな事をして娘さんが喜ぶと思うのですか!」
カイルさんのまっすぐな言葉に、村長さんの顔が苦しそうに歪みます。きっと村長さんは迷っているんですね。これは説得できそうです。
「あれ……娘さんを捨てちゃうの? せっかく生き返らせるチャンスなのに」
その時、声が聞こえてきました。村長さんの背後に何かが突如として現れます。
「こんばんはーお邪魔なお兄さんたち~」
目に痛いピンクの髪を持つ、小さな子供。その愛らしい容姿に似合わない黒いヤギのツノのような物が二本頭に生えており、コウモリの翼と尻尾も見えます。露出度が高いビキニのような服を着た、悪魔のような子がそこにいました。
「お前は誰だ」
「村長さんのぉ、願いを叶えに来た親切な幼女でーす!」
「ふざけないでくれ」
「やだー怖い~そんなに怒んないでよお兄さぁん?」
カイルさんが村長さんに寄り添うように立つ悪魔ちゃんを睨みます。美形の睨みってわりと怖いですね。いや、それにしてはこの迫力は容姿だけではありません。そんな悪魔ちゃんを先ほどからニルも睨んでいました。
「さぁおじいさま、この二人は私が相手をしておくので、さっさとそれを井戸にぽいしてください。そしたら娘さんは生き返りますよ?」
「あ、ああ」
悪魔ちゃんの声に従い村長が走ります。向かう先は井戸。
「待て!」
「お兄さんの相手はリリがしてあげるって言ったでしょ!」
カイルさんが追いかけますが、悪魔ちゃんに邪魔をされてしまいます。
「どけぇ貴様!」
「お兄さん、さっきと雰囲気ちがーうよ~怖いよ~!」
……あ、それについては同意です。どこから出したのか分からない大きな鎌を手に持った悪魔ちゃんと戦うカイルさんの表情は、とても正義の味方がしていい表情ではありませんね。
「あっ違った……そ、そこを退いてくださいお嬢さん!」
カイルさんが元の爽やかスタイルに戻ります。今のはなんでしたか? あれって中身でしたか?
と、そんなことより村長です。カイルさんでは間に合いそうにありません。……仕方ありませんね。
「止まりなさい!」
私は村長さんを見据えて声を張り上げます。その声に村長さんは止まりました。【命令】スキルが効果を発揮してくれたようです。
「ニル!」
ニルが村長さんを妨害します。持っていた毒薬をニルが奪いました。
「あーひどい! それおじいさまが必死で作ったのに……おばさん邪魔しないでよ!」
おばさん。おばさんですか。そうですか。クロエって見た目若いですよ? 設定的に十七歳くらいです。それをおばさん呼ばわり……あーこれはちょっと怒りますね。ということで……
「できればお姉さんと呼んでほしいですね」
にっこりと笑いながら闇魔法撃っておきましょう。ほら、クロエはあまりいい人ではありませんからね。
「ひっこわっ! なにこの魔法怖い!」
直撃した【シャドウアロー】の威力に悪魔ちゃんが驚いています。慌ててポーションを使って体力を回復させていました。【月光】+【下克上】+【闇の知恵】+闇魔法の夜間の高火力ですから。月の満ち欠けの具合でさらに高火力になりますよ?
それにしても相手のHPバーが見えません。どうやら相手の方がレベルが上そうですね。下克上が発動していましたし。村長さんは問題なく見えています。……ちょっと見える情報が多くなっている気がします。
「返してよ! それ!」
「嫌ですよ」
毒薬を持つニルを守るように【ウインドカッター】で悪魔ちゃんの進路を阻みます。こちらの魔法を警戒していたようで、かわされてしまいました。そこにさらにカイルさんが立ちふさがります。
「お兄さんどいてよ!」
「フンッ小娘にこれはやれんなぁ! ってまた間違えた……」
さっきからロールプレイの調子がおかしいカイルさん。ですがさっきの悪人面は良かったですよ? 騎士と魔女の相性はダメだと思いましたが、あのカイルさんとだったら村の一つや二つ落としにいけそうですね。まぁ今は村を落とすどころか、全力で守っていますけど。
「む~! これはちょっと無理な気がしてきたよぉ~!」
カイルさんが全ての攻撃を受け止めて、後ろから当たれば瀕死級の魔法が飛んでくる。カイルさんの体力はこちらがポーションを投げつけて回復させています。ポーションのリキャストタイム中に倒せればいいのですが、悪魔ちゃんと村長のコンビではなかなか削りきれないようですね。それに村長の方は先程の説得効果であまり役に立ちません。
そしてそれはこちらも同じ。村長さんは倒せませんが、悪魔ちゃんもなかなかしぶとい。カイルさんの攻撃は当たるのですが私の魔法は必死で回避してきます。当たってもポーションで回復されてしまうようですね。
しかも悪魔ちゃんは二体ほどのモンスターぽいのまで出してきています。召喚ですかね? それ自体は弱いのですが、目障りこの上ない。【ダークバインド】や【ダークバースト】を撃ちたい。でも村長さんを巻き込んでしまいます。
「小娘、殺され……じゃなくて、お嬢さんもう諦めて引いてください。僕達も無駄な争いはしたくありません」
今物騒な言葉が聞こえた気がしますけど、気のせいですかカイルさん?
しかし、この提案には悪魔ちゃんも聞き入れてくれるようです。拮抗しているように見えますが、悪魔ちゃんの方が不利ですからね。
「うぐぐ……この借りはいつか返すからね! 覚えてなさいよーだ!」
とても悔しそうな表情でお決まりの捨て台詞を残して、悪魔ちゃんは暗闇に包まれたかと思うと消えてしまいました。残されたのは魔女と騎士と、そして村長さんですね。
「……あーあーゴホン。村長さん、どうやら貴方は悪魔に魅入られてしまったようですね……」
カイルさんがいつもの調子に戻って村長さんに話しかけに行きました。村長さんの方はもうこれ以上戦うつもりもないのか、カイルさんの言葉を静かに聞いています。説得は任せますか。
「ニル、お疲れ様でした。よく頑張りましたね」
飛んで逃げ回っていたニルを撫でてあげます。疲れたのか眠そうにしながらも、褒められて嬉しそうですね。ニルと共に休憩しつつ軽く軽食を食べながら、村長さんとの話し合いが終わるのを待ちます。そうしていると、気づけば夜が明けて朝日が差し込んできました。
*****
「今回の件に関しては本当に迷惑をかけた……じゃがお主らのお陰でわしは道を踏み外さずに済んだ」
村長さんの宅にまた招かれた私達。そこですっかり目を覚ました村長さんから謝罪と感謝の言葉を貰いました。
「村長さん、あなたは愛する娘さんにもう一度会いたいという心を利用されてしまったのです。確かにその誘いに乗ってしまった弱き心もありますが、全てはあの悪魔が悪いのですよ」
キラッと優しく微笑むカイルさん。……あれですね、聖なる騎士ってやつですね。さっきまでの暗黒騎士なカイルさんはどこですか。私はあっちがいいです。でもあのカイルさんはもう見れなさそうですね。残念です。しかし、あのカイルさんは本当なんだったのでしょうか。あとで聞いてみましょう。
「これは少ないが迷惑をかけたお詫びのものじゃ……もっていってくれ」
「いえ、しかし……」
「持ってゆけ。これはわしのけじめじゃからな」
《ベリー村村長より報酬を貰いました》
村長に押し付けられたのは一万G。まさかさらにお金が手に入れるとは……。
「本当に感謝しているよ。わしも娘も……そしてベリー村の救世主さん方」
《エピッククエスト:村長の願いの達成を記録。評価ランクS。おめでとうございます。ボーナススキルポイントを5P獲得しました》
《称号:ベリー村の救世主を獲得》
《今回のエピッククエストの動画をヒストリーにアップロードしますか?》
……あっやっぱりこれエピッククエストだったんですか。隣のカイルさんも驚いたようにこちらを見ていました。
「……えーと、とりあえず外で話そうか。クロエさん」
カイルさんと共に村長さんと別れを告げて家を出ます。辺りに人がいないことを確認するとカイルさんが話しかけてきました。
「……やはりエピッククエストだったようだな」
「そうでしたね」
世界に影響を与える特殊なエピッククエスト。まさか本当にこちらに対して知らせもなく、動いているとは……。あの時村長さんに攻撃していたら本当に死んでいましたね。
「あの時は本当びっくりしたぞ……お前そんなキャラだったのかよって……」
「あっそういうカイルさんも途中でおかしなことになってましたけど、あれってキャラ設定なんですか?」
「いやあれは違う……ちょっと相手の演技に乗っちまったというか……職業病というかまぁ……」
職業病? 職業病ってカイルさん貴方はリアルであれをやっていると言うんですか。ちょっと気になりますが怖いので聞かないでおきましょう。
「あーそうだった。ヒストリーへの動画アップなんだが今回は見送って欲しい。途中でロールしてない部分もあったし、最後の戦いとか他の奴に見られたくねぇ……」
「ええ、大丈夫ですよ」
「本当か! すまねぇなロールプレイヤーなのにせっかくの動画をアップできなくてよ……」
「……あの、それってどういう意味ですか?」
「あぁ? あーそっかクロエさんは知らないのか」
どうやらこのゲームでのロールプレイヤー達にとって、ヒストリーへの動画アップは特別な意味を持つようですね。
「ヒストリーってのは言わばこのSSO世界の歴史を記した場所だ。そこに自分の活躍が公式な歴史として乗せられる……歴史の教科書に自分の写真が乗るくらいなもんかな? とにかくロールプレイヤーならぜひ一度でもいいから活躍を載せたいやつだ。あわよくば動画として載せたい奴もいっぱいいるだろう」
なるほど。このゲームにロールプレイヤーが多い理由が分かったような気がします。
「完璧にロールした奴の動画とか見ると面白いぞ。アニメだとかを見ている気分になるからな。そしていつか俺のカイルもあんな風に主人公みたいにしてやって……ってあ、今のは忘れてくれ」
ちょっと恥ずかしそうにカイルさんが顔をそらしました。カイルさん、主人公になりたいんですね。確かに正義の騎士といった感じのカイルさんは主人公というには相応しいかもしれません。
とりあえずカイルさんの言う通りに動画のアップロードは止めておきました。ちなみにアップロードはエピッククエストの関係者がアップするかしないかを選択し、多かったほうが選ばれるそうです。選ばない場合は無効票としてカウントされないとか。今回は二人ともしないを選んだので動画はアップロードされませんでした。ちなみに出来事自体は簡単な文章としてヒストリーに載せられます。出来事しか載らないのでキャラ名は載らないみたいですね。
「世間的に大きな出来事なら個人名も乗る場合もあるけどな」
今回の場合は地方地域の小さな村の出来事だから載らなかったようです。
「それじゃこれで解散かな。今回はありがとうな」
「はい、ありがとうございました」
正義感の強いカイルさん。だけど中身はちょっとおじさんぽくて女性好きな所があり、たまーに暗黒面が見える人でした。ですが良いロールプレイヤーであることは間違いないでしょう。今度貴方が主役の動画がアップされることを待っていますよ。
「それではクロエさん、僕はこれで失礼するよ。またどこかで会おう」
「またいつかお会いしましょう」
キャラ同士としても挨拶をかわしておきましょう。カイルさんとまたこの世界で出会う時はいつになるのでしょうか。意外とすぐ会えるかもしれませんね。
……そういえば。あの毒薬は私の手元にあります。ニルが奪ってきたので必然的に私の所有になってしまったようですね。とりあえず使い道がありませんがインベントリに入れておきましょう。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV16 残りSP19
基本スキル
【両手杖LV13】
【闇魔法LV14】【風魔法LV12】
【魔法知識LV14】【魔力LV14】
【月光LV9】【下克上LV7】
【召喚:ファミリアLV13】
【命令LV8】
【味覚LV6】【暗視LV12】
【鑑定:植物LV10】【採取LV8】
【調合LV10】
【毒耐性LV4】【麻痺耐性LV3】【睡眠耐性LV3】
【言語:スワロ王国語LV7】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
称号
【ベリー村の救世主】
名前:ニル
種族:使い魔
性別:オス
LV12
基本スキル
【闇の知恵LV12】【ダークミストLV6】
【看破LV4】【冷たい視線LV4】
ユニークスキル
【森の賢者】【夜行性】