17・魔女と騎士
「クロエさん。僕達はゴブリンを三十体討伐する依頼を受けたよね?」
「ええ、そうですね。確かに受けました」
ベリー村が遠くに見える平原。カイルさんが出した光魔法と思われる明かりが私達二人を照らし出しています。まるでスポットライトのようですね。
「僕はこの依頼は結構時間が掛かると思っていたんだ」
「ええ、私もそう思っていました」
「それじゃあ、この目の前のゴブリンの死体は何かな?」
明かりの外……暗闇の辺り一面にはゴブリンの死体が転がっています。徐々に光の粒子になって消えていっていますね。
「何を言っているんですか。カイルさんが彼らゴブリンを引き連れて集めて……その集団に向けて私が魔法を放った結果ですよ」
平原の各地に散らばっているゴブリン達。敵対するものを見つけると襲い掛かってくる習性を活かして、カイルさんが囮役として彼らを引き連れて平原を走り回っていたのはついさきほど。
そして私がその引き連れられたゴブリン集団に向けて【ダークバースト】を放ったのは数秒前の話。
「……僕はクロエさんの火力を甘く見ていたようだよ」
カイルさんが引きつった笑みで消えていくゴブリン達を見ていました。これにてクエスト終了です。お疲れ様でした。……私もこんなに早く終わるとは思いませんでしたよ。
これでも最初は普通にやっていたんです。ただその……カイルさんは盾役じゃないですか。敵の攻撃を一身に受けてくれるのは、ありがたいのですがその前に決着がつくんですよね。私の魔法で。
せっかくなのでちまちまやらずに、一気にやろうと言いだしたのが私。カイルさんがじゃあ囮役しますと言ったのがゴブリン達の運の尽き。平原のゴブリン達は数分で一掃されました。
「僕も原因とはいえ……ちょっと僕の流儀には反していたかな」
そういうとカイルさんはその場で片膝を突いて目を閉じます。まるで今倒したゴブリン達に黙祷を捧げているようです。騎士道精神というものでしょうか。まぁ囮を追いかけている集団に不意打ち気味に魔法を当てていましたからね。私としても思う所がありました。
「次があれば正々堂々といきましょうか」
「ええ、そうですね。今度は正々堂々、真正面から魔法を放ちます」
「……クロエさん。殲滅は止めてください」
無理ですね。私は魔女ですから。敵だったら容赦なく圧倒的なまでにやりますよ。
陰湿なイメージがある魔女ですが、私の目指す魔女はちょっと違いますね。
しかし、どうやら魔女と騎士は相容れないようです。いや、元々相容れないのは分かっていました。だって魔女はどちらかというと悪役側。騎士に討伐される方ですからね。
「さて、クロエさん。もう一つの方も終わらせてしまいましょうか」
「そうですね……」
残っているクエストは村長さんからの依頼。薬の材料を探すこと。このまま続けて依頼をするのがいいでしょう。ですが、空がどんどんと白けていきます。もう夜の時間は終わりのようですね。
「カイルさん。私の能力は夜でないとあまり発揮されません。それでも良いのであればこのまま行きますけど……」
「そうなのかい? ふむ……」
カイルさんが少し悩む素振りを見せましたが、すぐに笑顔で言います。
「薬草を探すだけならばすぐに終わる……オークからは僕が守ってみせましょう」
頼もしいですね。カイルさんが自信を持ってそう言うのでそうしましょう。というわけでベリー村近くの森の方角に向けて移動します。
「……そういえばカイルさんはどうして騎士をしているんですか?」
移動中にせっかくなので聞いてみました。というのもちょっと私のロールプレイの参考にしたかったからというのもありますね。それが伝わったのか、カイルさんはニッコリとした爽やかな笑顔で答えてくれます。
「あぁ、それは僕の父は王国の騎士団にいた立派な騎士だったんだ。だから僕も父のようになるためにこうして人助けをしつつ修行をしているんだよ」
「なるほど。では将来はお父様のように王国の騎士団へ?」
「……そうなるのかな? 僕の前に仕えるべき主君が現れたらその人の為に尽くすつもりだけど」
そう語るカイルさんは本当にこの世界で生きてるかのようでした。とても中身がアレとは思えません。あぁ……これ以上中の人に関していうのは止めましょう。失礼に当たりますから。それにしても、貴方の演技力は本当に見習うべきですね。
「……クロエさんはどうしてここに? 言葉の喋り方からしてこの国の人じゃなさそうだけど」
「えーとですね……」
さて、クロエはどうしてここにいるんでしょうか。私が聞きたいですね。うーん、そうですね……。
「夢を叶えるためにでしょうか。実家に居ては無理なことだったので」
とりあえずこう答えておきましょう。貴族だったら彼女の憧れる魔女にはなれそうにないですし。これはクロエではなく若干私の思いも含まれてしまっていますけど。
「なるほど……何やら事情がありそうなのでこれ以上は聞かないでおくよ」
ええ、設定が決まっていない事情がありますので聞かないでください。その内話しますよ。
そんな会話をしている内に森に到着しました。【黄昏の森】のような禍々しさはありませんが、だからと言って安全な森ではありません。
「オークだ。クロエさん、ここは任せてください」
森に入ってすぐにこの森に住むオークと遭遇します。カイルさんが私を守るように盾を構える。こちらの存在に気がついたオークも棍棒を片手にのしのしとやってきますね。
「クロエさん、頼みますよ」
「ええ、任せてください」
私は魔法の詠唱を開始。魔法を詠唱しだした事でオークが私に狙いを定めます。モンスターによって異なりますが脅威と思った相手を狙って攻撃を仕掛けてきます。いわゆるヘイトですね。
「女性を守るのは騎士の役目。行かせませんよ」
その間にカイルさんが割り込む。そして手に持った盾をオークに叩きつけます。【シールドバッシュ】ですね。オークはカイルさんに標的を移したようです。カイルさんに向けて棍棒を振り回しますが、盾で防がれておりダメージは入りません。
その間にこちらの【シャドウアロー】の詠唱が完了。オークに向けて矢が放たれて行きます。オークのHPが減りました。やはり夜ではないので威力は低下しています。カイルさんが片手剣による攻撃を加えて、さらに【シャドウアロー】を放ってやっとオークを倒せました。
「やっぱりオークは強いね……いや今までが異常過ぎたのかもしれないけど」
多分異常過ぎたほうでしょう。それにしても昼間の戦闘は新鮮ですね。明るいから敵がよく見える。あぁ……ちょっとこのオーク怖いな。それにしても、ニルが寝てしまったので相手のHPが見えなくなりました。不便ですね。
オークとの戦闘の合間に薬草を探します。鑑定スキルを使うと辺りには普通のポーションの材料となる薬草、スキルレベルが上がったので見られるようになった毒草がありました。
「あ、ありました!」
オークを三体ほど相手した頃にやっと村長さんから頼まれた薬草を見つけました。一つだけ少し周りの物と違うというかのように存在感を放っていましたね。それを手に入れると、クエストが進んで村長に報告しようと変わったので合っているようです。
「これで全ての依頼を終わらせましたね。では戻りましょうか……クロエさん?」
……この薬草。形は見たことありません。攻略サイトに載っているようなものではないんですよね。このクエスト限定の品物なんでしょうか。……少し気になるので、食べてみます。
「クロエさん、何をやっているんですか!?」
「大丈夫です、少ししか食べていませんから」
慌てるカイルさんを落ち着かせつつ、【味覚】スキルを使ってどんな味かを確かめます。ふむ意外といけますね……って――。
「…………」
私の視界の端に映るアイコン。それを思わずじっと見つめてしまいました。点滅していたアイコンはすぐに消えてしまいましたが、どういう意味のアイコンかなんて分かります。
「……クロエさん?」
「カイルさん、あのこの薬草なんですが……どうやら毒性を持つ植物のようです」
点滅していたアイコンは状態異常である毒を表していました。ですが私は毒に対して耐性を持ちますので毒にはなりませんけど……少し強力だったのでしょうか。ダメージが少し入りました。
……村長さん。これはどういうことでしょうか?
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV15 残りSP12
基本スキル
【両手杖LV12】
【闇魔法LV13】【風魔法LV11】
【魔法知識LV13】【魔力LV13】
【月光LV7】【下克上LV6】
【召喚:ファミリアLV11】
【命令LV6】
【味覚LV5】【暗視LV10】
【鑑定:植物LV10】【採取LV8】
【調合LV8】
【毒耐性LV4】【麻痺耐性LV3】【睡眠耐性LV3】
【言語:スワロ王国語LV6】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】