16・騎士の中身はおっさんでした
「おお、ではあなた方二人はゴブリンの退治をしてくれるのか」
「はい、もちろんです。この村の平和は僕達にお任せください」
村長さんの言葉にカイルさんがはっきりと答えます。その堂々とした態度は本当に正義の騎士といった感じですね。しかし、こんな夜分にも拘らず村長さんは私達を暖かく出迎えてくれました。NPCだからでしょうか?
「ではよろしく頼んだ」
《クエスト:ベリー村のゴブリン退治:ベリー村の安全のために、ゴブリンを三十体倒しましょう。》
クエストの受理を確認する。ゴブリン三十体ですか。一人だと少し大変かなと思いましたが、カイルさんがいるので楽勝でしょう。
「……ところで村長。つかぬ事をお聞きします」
おや? カイルさんが村長に話しかけました。クエストは受けましたが、何かまだ聞くことがあるのでしょうか。
「この村にとても美しい女性がいると聞いていたのですが、その方を知りませんか?」
カイルさんは女性が好きなんですね。まぁ私の対応からしてそうだとは思っていましたよ。そういうキャラ設定なんでしょう。
それにしても話題を振られた村長さんの顔色がどんどん暗くなっていく。どうしたんでしょうか?
「……この村一番だとわしの娘が一番だった」
「……一番だった?」
「亡くなったんじゃ、わしの娘は」
村長さんは窓の方へと移動していきます。そこにあったのは写真立てです。セピア色の写真には村長と娘さんらしき若い可愛らしい女性が並んで写っていました。
「そろそろ一ヶ月経つ頃かのぉ……以前この村は大量発生したゴブリン達に襲われたんじゃ。……その時も村を守ってくれた者達がいて村は大丈夫じゃった……じゃが娘は……」
そこから先を村長は話しませんでした。
「本当につまらない事を聞いてしまった……」
「謝るでない。もう過ぎたことじゃ」
頭を下げるカイルさんに村長さんは優しく声をかけます。ですがやはりどこか元気がありませんね。
「そうじゃ……これは別件なんじゃがもう一つ頼まれてくれんか?」
今度は村長さんが私達を呼び止めました。一体何でしょうか。
「別件とはなんですか?」
「うむ、実は薬の材料になるものを探しておる。近くの森にあるようじゃがあそこはゴブリンよりも強いオークが住み着いておる。わしでは探しに行くに行けん。じゃから代わりに探してきてくれんかの?」
薬の材料ですか。ちょっと興味がありますね。
「……僕は植物について詳しくないのだが」
「私は少し知識がありますよ。だから任せてください」
「おお、頼もしい。では頼んだぞ」
《クエスト:薬の材料探し:ベリー村近くで薬の材料を探そう》
こちらもしっかりと受理しておきましょう。
……ニル、どうかしましたか? 少しだけニルの様子がおかしいです。どこか村長さんをジーと見ていましたが、なんでもないというかのようにまた目を閉じて寝てしまいます。
……しかし、今更ですがこんなクエスト知りませんね。ここでは確かゴブリン討伐依頼以外のクエストはなかったはずですが……。
「クロエさん少しいいですか?」
どうやらカイルさんも疑問に思っていたようです。村長の家を出た後に話しかけられました。
「……薬の材料とは一体何の薬の材料だと思う?」
「さぁ分かりません。その材料だという植物も教えてもらいましたが、何の為に使うのかさっぱりです」
クエスト情報にしっかりと村長の頼んだ植物の写真があります。ですがまだ鑑定スキルが乏しいためか、何の植物かわかりません。
「申し訳ありません、もう少し植物に詳しかったら……」
「いや、気にしないでくれ。……ところで、その……」
「どうしました、カイルさん」
カイルさんがとても難しそうな表情をします。何か言い辛いことを言おうとしている雰囲気ですね。
「……あー面倒だ。少しプレイヤー発言するがいいか?」
「…………どうぞ」
一瞬、その発言にどう答えようか迷いました。いや、ちょっとした些細な事なのですが、私はロールプレイを続けたままだったほうがいいのかと、一瞬迷ったんですね。続けていたらたぶんNPCの如く「それはなんですか」ととぼけていたでしょう。ガチな人だったらどんな場面でもロールプレイを続けるそうですが、私はそうではないので無問題としますか。
「すまんな。クロエさん、あんたはエピッククエストって知ってるか?」
さっきのカイルさんとはずいぶんと喋り方が異なりますね。外面が合わない、少しおっさんぽい喋り方。なるほど中身はちょっとかけ離れていそうですね……。まぁ私も人のことは言えません。
さて、エピッククエストですか……攻略サイトに少しだけ情報が載っていましたね。
「通常クエストとは違う特殊なクエスト……でしたでしょうか?」
「まぁそうだ、まだ報告数が少ないあのエピッククエストだ。……つーかあんた、喋り方は変わらないのな」
「ええ、まぁ……」
これはちょっと最初の頃に素のままロールプレイをしてしまった弊害です。あとは言語スキルのせいでロールプレイを半分忘れていた事も原因。……まぁ子爵令嬢だったクロエにこの喋り方はわりと合っていると思うのでこのままですよ。
「さっき村長が言ってただろ。この村はゴブリンに襲われたって……あれは以前ここで起きたエピッククエストの事を言っているんだと俺は思う」
カイルさんがこちらに画面を飛ばしてきます。それは公式ホームページでした。その公式のヒストリーという所の画面ですね。世界の各地で起こった歴史が記録されており、中にはVR動画として再生できる話もありました。
「こんなのあったんですか……」
「あんた公式を見てないのか? というかロールプレイヤーの中じゃ知らない奴はいないと思ったんだが……」
「公式は一回流し見した程度でして……ほとんど攻略サイトばかり見てました」
ゲームの攻略情報なら公式より攻略サイトの方が充実していますからね。メンテナンス情報もいつもゲーム内でアナウンスしてくれますし。……その、あまり見ていませんでした。
「よくそれでこのゲームのロールプレイヤーをやろうと思ったな……いやまぁ、このヒストリーは見づらい位置にあるし、仕方ない」
あとカイルさんにロールプレイするならせめて世界観の歴史くらい見ておけと言われてしまいます。……ま、魔女になるのにそれは必要ですか? ガチじゃなくても見ておいたほうがいいとのこと。アドバイスありがとうございます。
「それでな。このヒストリーをさっき漁ってたんだが、まさかとは思ったがヒットしたんだよ。その時のエピッククエスト」
《ヒストリー#10:デュオ地方:ベリー村:ゴブリン襲来》
確かにありましたね。しかも動画付きでした。少し長めの動画だったので要約すると四人組のパーティが私達と同じくゴブリンの討伐クエストを受けます。
村長から最近は討伐してくれる人も減っているからゴブリンが多いかもしれないと説明を受ける。その後にフィールドに出ると百体もいるだろうゴブリン達に、すでにベリー村が包囲されていた……。
「……この時のパーティは災難でしたね。ちょっと気軽にゴブリン達を倒しに来たら何故か村の防衛をしなくてはならなくなったとは……」
「エピッククエストってのはそういうもんだ。いつどこで起こるか分からない未知のクエスト。そして最大の特徴が――」
――この世界に影響を与えるクエストであること。
村の防衛を任された四人のパーティ。彼らは未熟ながらもなんとか村の防衛に成功しましたが……。少しだけ被害が出てしまいました。その被害者の中には村長の娘もいたことも確認できます。
「NPCは基本は死なない。これはゲームだからな。だが、このゲームは少し違う。エピッククエストが関わるとその概念は崩れる。噂じゃプレイヤーのキャラだって死ぬする可能性もあるなんて言われているくらいだ。まだ噂だけどな」
これが普通のゲームだったら変化のない世界のままだったのでしょう。いえ、そのゲームに“ストーリー”があれば少しくらいは変化するかもしれません。ですがそれはすでに決定された変化。運営が作り出したものでしかありません。
このSSOは少し違う。その変化がプレイヤーに委ねられている……というわけですか。あの時、もしもあの四人のパーティが村の防衛を完璧にこなしていたら、村長の娘は今も生きて私達を出迎えてくれたでしょう。その逆も、村が崩壊して地図から消えていたこともありえたでしょうね。
「まぁ、つまりは……」
「これはそのエピッククエストの続き……というわけですね?」
四人が村を守って村長の娘を助けられなかった……そのエピッククエストはまだ続いているというわけですか。
「ただの可能性の話でしか無い。事前情報と違うクエストが出ただけだからな。まぁ注意はしておいたほうがいいだろうな」
いつ始まるか、もうすでに始まっているかもしれないエピッククエストです。その当事者だった村長からこんな依頼が来れば、そうなのではないかと考えるのが妥当ですね。
「しっかし、なんだよまったく。かわい子ちゃんに釣られてきてみれば、本人死んでるわ……エピッククエストに巻き込まれているような感じだわ……。とりあえずあの四人組は死ぬ気でこの子守っとけよ、特にそこの騎士め」
カイルさんがもの凄い眼光で騎士を睨んでいます。あー綺麗な顔が台無しですね。
ニル、そのドヤッな感じで胸を張らないでください。プレイヤーの中身なんて外面と合わないことぐらいよくあることです。最初から見抜いていたのは分かりましたから。
「とりあえずこの話は終わりにしましょう。さぁ、ゴブリン退治をしに行きましょうか。クロエさん?」
さっきの感じはどこへやら。爽やかな風が吹き抜けてくる程の綺麗なカイルさんがいました。
「……ええ、そうしましょうか」
こっちもスイッチを切り替えて対応しましょう。さっきのカイルさんは見なかった。いいですね?




