15・ロールプレイをしましょう
ログインすると親友な闇が迎えてくれました。表現がおかしいですか? 夜に活動するんです、闇とは友達にならなければいけませんよ。
召喚したニルがさっそく私の肩に乗って寝ています。……今は夜ですが、まぁいいでしょう。
ポーション製作でもしようと思いましたが、せっかくの夜です。どうせなら狩りに行きたい所ですね。
確かあの東地域にはゴブリンを討伐するクエストがありました。試しにそのクエストを受けに行ってみましょうか。言語スキルも上がってきたのでちょうどいいでしょう。
あ、討伐クエストが受けられる場所の近くにちょっとした森がありました。【黄昏の森】ほどの大きさではありません。
ですがこの森にも薬草などがありそうです。討伐中に少し採取という事ができるかもしれません。そうですね……この森の比較的近くで、討伐クエストが受けられる村は……ベリー村のようですね。
ちなみにここまで地図を広げていません。なぜだか分かるんですよね。ほら知っている場所に向かうために道を思い浮かべているあの感じです。多分【土地鑑】スキルのお陰でしょう。
【土地鑑】スキルはどうやら地図上にて探索済みとなった場所の情報について、教えてくれるみたいですね。教えてくれるというより、私のキャラがその土地について詳しいということでしょう。
【土地鑑】はキャラの経験と知識から発揮されるスキルのようなので、まったく知らない土地や情報のない地域だと能力を発揮できなさそうですね。
さて、とりあえずベリー村の方に行きましょう。この街の道も迷いません。東門の方角に向けて歩いていきます。
東地域はこの前来た時より人が減ったように思います。第二期の中でのトッププレイヤー達は今どこにいるんでしょうか。確か、まだ王国の方に行っていなかったはずです。
先行組は……よく分かりません。先行組でのトップのほとんどがロールプレイヤーだと言われています。なので各自別々の場所で動いているようなのでさっぱりです。
平原の道に沿って歩いて、途中の看板の立つ分かれ道。その片道を迷いなく歩いて行く。するとベリー村らしき村が見えてきました。かがり火が眩しいです。別に光は苦手ではありませんが、闇魔法使いとして潜在的な苦手意識が出てきてしまいましたね。
「うわッびっくりした! なんだ人か……」
村の入口にいた兵士さんに驚かれてしまいました。すみません、黒マントを羽織っていて見づらかったでしょう。とりあえず謝りと挨拶も兼ねてペコリと頭を下げておきます。
「すみません、こちらでゴブリンの討伐依頼を受けられると聞いてきました」
「コブの罰を受けに来た?」
「……違います」
言語スキルのせいでよく分からない言葉で伝わってしまいました。最近多いんですよね。相手側の言葉も時に聞き間違える。どうやら一定の確率で翻訳失敗してこのようになるようです。
「あぁゴブリンの討伐依頼ね。それなら村長の家に行くといい」
今回は失敗しませんでした。良かったです。
「しかしこんな夜中に二人も来るなんてな。最近は退治してくれる人が減ってたから助かったよ」
「そうなんですか」
……どうやら私以外にもこの村に依頼を受けに来た人がいるようですね。とりあえず行ってみましょうか。
村長の家は村の目立つ所にありました。今が夜中にも拘らず明かりがしっかりと光が灯っていて、分かりやすいですね。
「おや、君は……」
そんな事を考えていると村長の家の前に立っていた人に声をかけられました。暗視効果と周囲の明かりによってその人の姿がよく分かります。真っ白な鎧を着込んだ騎士。金髪碧眼の好青年といった人ですね。
「これは驚いた。こんなにも可愛らしいお嬢さんに出会えるとは……これも運命の導きというものかな?」
今のクロエさんは可愛いですからね。そう見えるように作りましたから。
しかし、こんなセリフを言って許されるのはこの青年の見た目だからですね。あっちもまた映画俳優並に顔がカッコイイです。ですがそんな見た目でも見た目相応に振る舞い、様になっていますね。プレイヤーだとしたら相当演技力が高い。見習いたいものです。
さてと、あちらがプレイヤーとまだ分かりませんが……まぁきっとロールプレイヤーでしょう。演技をするならばこちらも演技をしなけくてはなりません。なにせ私もまたロールプレイヤーですからね。
「お世辞をありがとうございます」
クロエは子爵令嬢でした。そんな過去を持つ彼女はこれくらいの言葉は軽く流せることでしょう。
「お世辞だなんてとんでもない。……僕の名前はカイルという。お名前を教えて欲しいな、可愛いお嬢さん」
「クロエとお呼びください」
そういってドレスの裾を少し持ち上げて貴族令嬢らしく挨拶をしておきますか。
あぁロールプレイ楽しいですね。まともなロールが今まで言語の違いのせいでできませんでしたから。
「とてもいかがわしい名前だね」
……言語スキルさんは空気を読んでくれません。あぁ、カイルさんのキラキラスマイルが台無しですね。すみません。言語スキルのレベルは早急にあげておきますから。
「……あぁ、できればそちらの肩にいる子の名前も教えてほしいな」
「この子はニル。私の使い魔よ」
肩の方を見ると寝ていたと思っていたニルが起きていました。そしてどこかカイルさんを睨んでいます。ジーとカイルさんを見つめてなんだか疑わしそうに見ていました。
「嫌われてしまったかな?」
「……すみません」
ニル、この人は悪い人ではないと思いますよ。だからそんなに警戒しないでください。どこかこちらを心配するような目線を投げてきます。
大丈夫ですよ、悪い人だったら闇魔法で吹き飛ばしますから。……今度は残念そうな人を見るような目で、こちらを見るのは止めてください。
「ところでクロエさん、君も討伐依頼を受けに来た人かな?」
「ええ、そうですよ」
「実は僕もそうなんだ。……何かの縁だ、よかったらここは一緒に討伐依頼を受けないかい?」
《カイルからパーティ招待を受けました。パーティに入りますか?》
ふむ……そうですね。これも何かの縁です。特に断る理由もないですし、せっかくのロールプレイヤー同士。
「いいですよ」
私は届いた招待依頼にYESと答えましょう。
「では、ひとときの間ですが僕はクロエお嬢様の専属騎士として、貴女をお守りしましょう」
あ、言語スキルさん空気読みましたね。ありがとうございます。完璧なロールプレイが見れました。あぁ、ニル。またそんな目線をして……失礼ですよ。
「よろしくお願いしますね、騎士様」
それではこちらも負けないようにクロエさんらしくお嬢様ロールをしましょう。……だからニル。なぜこちらには冷たい目線を送るんですか。今のはクロエさんぽいでしょう。
まぁ私のせいで雑草食べるお嬢様になってしまっていますけど……。なので、これからはもっとクロエさんぽく行きますからね。もちろん魔女らしく。
Q・【土地鑑】スキルの漢字はなぜ土地勘ではないのか?
A・勘のような直感的な能力ではなく、知識情報に基づく能力だったから。




