13・同士との遭遇
私達は今【黄昏の森】にいます。日が暮れてしまいましたので森の中は暗いです。ですが【暗視】スキルの効果でそう暗くはありません。そしてここは入り口よりも深い場所。私が入ったことのない場所ですね。
「クロエ殿、周囲に敵、いない、安全、でござる」
私の近くの木の上から声が聞こえてきます。さきほど私に土下座をしていた忍者っ子ですね。名前はツバキさんと言っていました。
「フクロウはいませんでしたか?」
「……フクロウ、いない」
少し残念そうな声がパーティ内通信を通じて聞こえてきました。ツバキさんはどうやらこの森に出現する【トワイライトオウル】をテイムしたいみたいです。だから同じ【トワイライトオウル】のニルを連れた私に声をかけたらしい。
残念ながら私のニルは使い魔でした。ですが同じ召喚系の同士。ファミリアとテイマーの捕まえ方は少し違うと思いますが、少しくらいは手伝えると思ったのでこうしてツバキさんの手伝いをしています。それにロールプレイヤーでもありますからね。
ツバキさんはロールプレイヤーのようです。装備から喋り方から忍者を意識しているからそうでしょう。そうでなかったら、現実でも本物の忍者になりますね。
「クロエ殿、次は東、探索する、ござる」
「東ですね……東は【トワイライトファンガス】が出るようなので気をつけてください」
「了解、ござる。クロエ殿、拙者より、森、詳しい、ござる。それに、まだ、迷っていない」
「ええまぁ、方向の把握だけは得意ですから」
この森には入ったことありませんけど。迷わないのは【土地鑑】効果でしょう。あとはニルのお陰ですか。なんとなくあっちの方角にはあのモンスターが居て、こっちにはあれがいると私の知らない事をニルが言葉ではない形で、教えてくれます。【森の賢者】効果でしょうかね?
「そういえば、ツバキさんはどうしてフクロウを捕まえたいのですか?」
私の時は突発的でした。突然あらわれたニルとの戦闘中に使い魔にすることを決めたのです。ですがツバキさんは最初からフクロウをテイムすることを決めている。何かこだわりがあるのでしょうか。
「……フクロウ、好きだから」
……単純な答えが帰ってきました。なるほど、好きだからぜひとも仲間にしたいと。ちょっとわかりますね。私も黒猫にはぜひとも使い魔になって欲しいですから。
「敵、来た」
ツバキさんの声に私も前を向きます。キノコのモンスターが少し遠くにいる。数は三匹ですか。
「クロエ殿、さきほどのように」
「分かりました」
私の答えを聞いてツバキさんは音も立てずに消えてしまいます。私もキノコたちがこちらに気づく範囲ギリギリの所まで距離を詰めておきましょう。そして魔法を詠唱しておきます。
しばらくしてから、一匹のキノコの背後にツバキさんが現れました。手にした刀で後ろから斬りつけると、キノコはその一撃だけで倒れます。不意打ちから攻撃する事で威力が高くなる技でも使っているんでしょうね。
では私も出ていきましょうか。残ったキノコ達が私の姿を捉えた所でニルに【ダークミスト】を発生させる。状態異常に陥ったキノコ達から胞子が飛び出します。アレを吸い込むと【麻痺】になるようです。ですがその胞子の範囲からすでにツバキさんは離脱していますし、私も範囲外。
そんなキノコ達に向けて私は【ダークバースト】を発動。キノコ達に当たりました。しかしHPが少し残ってしまいます。夜の時間、さらには【下克上】効果が発動していましたが、やはり私よりもレベルの高いモンスター。そう簡単には倒れませんか。
あとは簡単な作業でした。【暗闇】状態で右往左往するキノコ達を、ツバキさんが一撃入れるだけで倒せましたから。
しかしながら、ツバキさんとは戦い方では相容れませんね。闇討ちは好みではないからでしょうか。もっと堂々といきたいものですが、忍者はそうしませんので仕方ありませんね。
「クロエ殿?」
「あ……なんでもありません。それより処理の方ありがとうございます。ツバキさん」
「礼、言う、拙者のほう。クロエ殿 お陰。今日、ずいぶん楽、でござる」
私よりもレベルの高いツバキさんですが、彼女に感謝されてしまいました。私が低レベルとはいえ、今の時間は高火力が出せるので戦闘には支障が出ない事と、迷わない道案内役。その二つの事で感謝されたようですね。
「ありがとう。でも今回の目的はフクロウの捕獲ですよね?」
「……そうでござった!」
さきほどまで戦闘に集中していたから当初の目的を忘れていたようです。ツバキさんは慌てて周囲を見渡してフクロウの姿を探します。
「ツバキさん!?」
すると突然ツバキさんが木の上に飛び乗りました。突然の行動にびっくりしてしまいます。
「見つけた……フクロウでござる!」
やっと見つかったんですね! そのまま木の上を走っていってしまうので、私も追っかけましょう。私が追いつくとちょうどツバキさんとフクロウがそれぞれ睨み合っていました。
「クロエ殿、捕獲の心得、聞きたい、でござる」
ツバキさんには捕獲のアドバイスを伝えました。確認の為にもう一度聞きたいようですね。
「まずは、相手に実力を分からせること。そうでないと言うことを聞いてくれませんからね」
体力を半分にするということはこういうことではないかと私は思います。まぁ私はテイマーではなく使い魔使いですけど。
ツバキさんの攻撃によりフクロウの体力が削られていくのが分かります。
「ツバキさん、もう十分だと思います」
私の声を聞いてツバキさんはすぐにフクロウと距離を取ります。HPは十分削られましたのでもういいでしょう。
「捕獲、良い、ござるか?」
「はい。できれば気持ちを込めてくださいね」
「気持ち……」
ツバキさんがフクロウの攻撃を警戒しながらも近づいて行き、【捕獲】スキルを発動させました。テイマーの【捕獲】スキルは相手の同意なしでも行なえます。レベルが上がるだけそれは可能となっていくでしょう。ですが……完全に関係ないと言えないと私は思います。
捕獲の魔法陣の光。それがフクロウを包み、そして消え去った。倒れていたフクロウが飛び上がり、ツバキさんの腕に止まりました。
「クロエ殿! 捕獲、出来た、ござる!」
興奮気味のツバキさんがフクロウを連れてやって来ます。あ、成功したんですね。使い魔の契約の時は一回ニルの姿が消えたのでそうなるのかと思っていました。どうやらテイマーとは違うようです。
「良かったですね」
「はい! これもクロエ殿、お陰、ござる!」
すごく喜んでいるようです。しかしちょっとこの喜び方はキャラ崩壊ではと私は思います。さきほどまでのツバキさんはもっと忍者らしくクールな感じでした。……土下座の時といい、今のツバキさんは中身のアレが出てきてしまっていますね。
「あっ……失礼、した、でござる」
それに気がついたのか、ツバキさんが少し落ち着きを戻します。真っ赤な顔を首に巻いていたマフラーで隠しました。
「とりあえず、一旦この森をでましょうか」
同意するように黙ってこくりと頷きます。うん、こちらの方がツバキさんらしいですね。
【黄昏の森】を出ると太陽の光が暖かく迎えてくれました。夜はとっくに終わってしまいましたね。平原に出て安全を確保すると、さっそくツバキさんが捕まえたフクロウに名前を付けるようです。
「……ハク」
どうやらハクという名前に決めたようですね。ツバキさんの腕に止まってるハクが嬉しそうに返事をします。……しかしハクは大きいですね。体が【トワイライトオウル】そのままなのでニルと比べ物にならないほどです。
「ちょっといいですか?」
ちょっと試したい事があったのでハクを一回地面に降ろしてもらいます。そしてそのハクの上にニルを置く。体格差がありすぎてニルがハクの上に乗れますね。二匹とも白に近い灰色なので鏡餅ぽいです。
「……かわいい」
隣のツバキさんがプルプル震えています。とりあえず写真撮りますか? 私はもちろん撮影済みですよ。
あっ……ニル、落ち込まないでください。仕方ないですよ、あちらはペットで貴方は使い魔です。親子ほどの体格差は諦めてください。
「クロエ殿、感謝、ござる。困った事、ある、呼ぶ、ござる」
去り際にツバキさんがそう言ってくれました。ありがとうございます。
「またどこかで」
私の言葉に一つ頷いてからツバキさんは去っていきました。もちろん新しい相棒のハクを連れて。ハクはこの晴々とした昼間の空を優雅に飛びながら、ツバキさんに付いていきます。
「ねぇ、ニル。あなたもああいう風に昼間も活動できませんか?」
そう問いかけたニルは肩の上で寝ていました。目線を外すように首を百八十度回したまま。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV13 残りSP8
基本スキル
【両手杖LV10】
【闇魔法LV11】【風魔法LV10】
【魔法知識LV11】【魔力LV11】
【月光LV4】【下克上LV4】
【召喚:ファミリアLV9】
【命令LV5】
【味覚LV4】【暗視LV7】
【鑑定:植物LV6】【採取LV8】
【調合LV8】
【毒耐性LV3】【麻痺耐性LV3】【睡眠耐性LV3】
【言語:スワロ王国語LV4】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
名前:ニル
種族:使い魔
性別:オス
LV6
基本スキル
【闇の知恵LV6】【ダークミストLV5】
ユニークスキル
【森の賢者】【夜行性】
ちなみにハクはメスだったりします。




