125・イレギュラーは来るものです
黄昏の森に現れたレックス持ちの赤フードたち。
その人は森の奥、私がいる場所に目指して疾走していました。
「ここに来るとは思っていましたよ」
何せ、彼らはあの赤き混沌の使徒団です。
混沌の力を狙う彼らがラプタリカの為に戦争に参加するわけがない。
この戦争を利用して、この場所を狙ってくるくらいはしてくるだろうって思っていました。
「……! 気をつけろ、後ろだ!」
魔法を使用していた一人が魔物を相手にしていたその時、何かの気配に気が付いて声をあげました。
それもそのはず、突如として現れたツバキさんが連れに向かって、忍刀で斬りかかろうとしていましたから。
死角からの攻撃であり、その相手は気づいていない様子でしたが……その刃は白の無効化エフェクトを飛び散らせて当たることはありませんでした。
「防御シールドでござるか……!」
だけどその程度で驚かないツバキさんはそのまま連続高速斬りのスキルを発動させました。
防御系のスキルはいくつかありますが、共通するのは防御力が設定されていること。
高威力のダメージを与え続ければ、いずれ破壊されるものです。
なのに飛び散るエフェクトは白一色。……これはおかしい。
さっきの死角からの攻撃だって即死級の攻撃だったはずです。
それを耐えてなお、連続斬りを受けてもシールドが破壊されないなんて。
「なぜ、お主がその剣を……それにその剣は勇者でなければ……くっ!?」
振るわれた大剣を避けるためにツバキさんが後退し避けたはずでした。
ですが大剣は光り輝き、刀身の幅を大きくさせました。
光の刃の分でさらに大きくなった大剣が逃げたツバキさんを捉え、容赦なく斬り倒しました。
「……?」
大剣を持った人は斬ったものを見て少し固まりました。
いつの間にか斬ったものがツバキさんではなく、丸太に変わっていたのですから。
さすがツバキさんです。この状況下でも身代わりの術で対応できるなんて。
その隙を狙わないわけがない。
たった一秒にも満たない隙を突くように、詠唱完了させたダークバーストをそこに撃ち込んでやりました。
「おっと、危ない!」
だけど相手も簡単には受けてはくれないようです。
飛んできたダークバーストは剣を持たない方が作り出した光の壁によって防がれました。
「やぁ、ツバキ。裏切り者のキミがこんなところで何をしているんだい?」
「そういうイグニス殿たちも、こんな所で何をしているでござる」
赤いローブは他の団員と同じ、違うのはフードで顔を隠していない顔出し組であること。
男性にしては小柄な背丈に童顔。左目を赤い髪で少し隠し、子供っぽい笑みを浮かべている。
赤き混沌の使徒団のイグニスがそこにいました。
――そして、その隣。大剣レックスを持つ者は、白い髪を持つ少女。
幼さの残るような顔立ちに、白い瞳にはあらゆる感情を映さない表情をした子は見覚えがありました。
「おや、これは……お久しぶりですね、ミーティアさん」
クロエにとっては祝賀祭の夜に出会った少女が、そして私にとっては友人といえる方が勇者の剣を手にそこにいました。
「その声はクロエ様ですね。どこでしょうか?」
「居場所を教えるわけないじゃありませんか。私達、今は敵同士ですから」
使い魔たるニルを通して私の声を戦場に流します。今までは味方同士、通信越しで話すことができましたが彼女は敵ですからね。敵軍同士だとシステム的に通信できないんですよ。
「別に教えなくてもいいよ。キミがいる場所なんて分かっているし、これから行ってあげるから。……ミーティア」
「はい」
イグニスの一声でミーティアが動き出し、目の前にいたツバキさんに斬りかかりました。
「クロエ殿、この方は知り合いでござるか!」
「この前の祭りで話した程度です。倒すなら遠慮なくどうぞ」
赤フードの一味でも私の知り合いだったからでしょうか、ツバキさんが戦いづらそうにしていたのでそう答えておく。
「ならばその通りに……したいところでござるが!」
ビュンと重い風切り音を立てて大剣が振り回されている。それも超高速の連続で。
お陰で剣がまともに見えず、残像の影しか見えません。
それなのにツバキさんが紙一重でかわしたり、時に刀で受け流したりしている。
ツバキさんはまだ分かるとしてミーティア……あなたどこで剣の振り回し方なんて習ってきたんですか。尋常じゃない動き方ですよ。
「……あの剣、やっぱり大剣レックスですか?」
もしかしたら私の見間違いかもしれない。
そう思って確認のためにルシールさんに聞いてみました。
「あぁ、間違えようもなくそうだの。さらにきちんと大剣の力を全開放しておる。一撃でも食らったらすぐに落ちるぞ。どういうことだ。大剣レックスは選ばれた者であるライトしか使えないはずだというのに……」
勇者でもないはずのミーティアが使っている。これはおかしな話ですね。
しかも相手はかなり防御力の高いシールドを張っており、未だそれも割れていない。しかもルシールさんの言うことが正しいなら、一撃を貰っただけでも危なそうですね。
それに……。
「ぐっ……!?」
とうとうツバキさんが大剣に斬られてしまいました。そして一撃はやはり即死級だったようで、ツバキさんが落ちていく。
私も魔法で応戦したかった所ですがあまりにも二人の動きが早かったことや、隣にいるイグニスを牽制するだけで手一杯でした。
……プレイヤースキルではかなり拮抗していたはずだというのに、急に動きが変わったかと思うとツバキさんが何もできずにやられていきました。
敵同士だから友人とはきっと戦うだろうと思っていましたけど……まさかこんな化け物としてやってくるなんて思っていませんでしたよ!
「さぁて、引きこもりはそろそろやめてもらおうか」
そのまま二人は結界の境界までやってきてしまう。
途中で魔法を撃ったのですが、イグニスに防がれるはミーティアに剣で斬られるはで無駄でした。
でも……どうするというのか。ここは以前よりも強固な結界に守られているのに。
「ミーティア、頼んだよ」
「了解しました」
大剣を構え、力を集中させるミーティア。そのまま結界に向けて振りかぶる。
衝突と轟音。その音は遠く離れた湖の近くにいた私の耳にも聞こえ、余波が水面に波を作りました。
「あぁ……なんてことだ。また穴が空いたぞ」
ルシールさんの言う通り、結界には確かに大きな亀裂ができていました。私が以前空けた時と同じように。
……なるほど。確かに強固な結界だとしても、勇者の力を使えばぶち壊してしまうことも可能ということですか。
「クロエ、何をぼさっとしておる!」
「分かっていますよ! ……なんとかしたいところですが」
正直言ってイグニス一人だけでも面倒なのに、ミーティアもまた厄介そうじゃないですか。
私一人でどうしろって言うのでしょう。頼みの綱のツバキさんは先にやられてしまいました。
「――待て!」
「……イグニス様っ!!」
森からさらに侵入者が疾走してくる。
その人はイグニスにぶつかって行くように走っていった。
遊撃するようにミーティアが間に入って大剣を振りますが、手にした大盾で受け流し、そのまま押し返すように【シールドバッシュ】を決めていく。
ダメージは入らなかったものの、ミーティアが弾き飛ばされました。
「……カイルさん! 来てくれたんですね」
「こっちがピンチみたいだったからね。それに僕だけじゃないよ」
「俺の剣……やっと見つけた……!! 俺の剣返してくれよおおおおお!!!!」
現れたカイルさんの後ろからもう一人やってくる。
真新しい王国軍の鎧を着込んだ白髪の少年――ライトくんの魂からの声が戦場に木霊しました。
10月31の今日で連載開始から四年目となりました!
連載が続けられたのも読んでくださる皆様のお陰です。いつもありがとうございます。