124・繋がり
ダイロードの赤フード狩りはリリちゃんの参入で少しはマシになりました。期待通りの活躍をしてくれていますね。
ただ、やっぱり人手がまだまだ足りないです。少しでもプレイヤーが来てくれればいいのに……あまり来ていない様子。
情報としてはネットにすでに広がっているでしょうが主戦場は南の戦場であり、そちらにプレイヤーが集中しているのでしょう。イルーの時みたいにプレイヤーが集まってくれることを期待したりはできそうにないですね。
『クロエ、遅くなって悪いね!』
「コガネさん! お待ちしておりました!」
【ゴウロ山道】から溢れてきた金の光の集団を見て、少し沈んでいた気持ちが上がる。
クラン【エル・ドラード】のみなさんがちょうどイルー鉱山方面の洞窟を抜けて、【黄昏の森】へ向けて山道を駆けていました。
実はコガネさんたちの手が借りられないか連絡をしていたのです。コガネさんなら前に傭兵団として何かあったら呼んで欲しいと言われていましたからね。
「来てくれて嬉しいですよ。しかもこんなに早いなんて……助かります」
『むしろお礼を言うのはこっちだよ。こんな面白いことを教えてくれてありがとね! だから飛んできちゃったよ!』
三十人規模の集団は全員馬のような動物に乗っていました。よく見るとトカゲですかね? そういう不思議な生き物は人が走るスピードよりも速い。
開戦からすでに一時間。連絡を入れた時点で王都近くにいたそうです。王国の援軍より少人数で動きやすいとはいえ、到着はもう少し遅いだろうと思っていましたがこれは嬉しい誤算でした。
『あまりに飛ばしますから、みんな付いていくのが大変でしたよ、リーダー』
『おっと、それはすまなかったな、フライデー』
『ええ、お陰様で予定時間の半分で到着できました』
コガネさん、とても楽しみなようで今も集団から頭一つ抜けてトカゲを疾走させています。このリーダーに付いていくのは本当に大変そうですね、フライデーさん。
『私達も忘れてもらっちゃ困るよ!』
「まぁ、アジーちゃんたちも一緒だったんですね」
『こちらに向かっている途中に彼らと出会ったんですよ。クロエさんに呼ばれた同士として、乗せてもらいました』
説明してくれたのはブルーイくんですね。実はアジーちゃん達にも声をかけていたんです。
『……なぁまだ着かないのか。オレ、酔ってダメなんだが……おぇ……』
『サヴァールぅぅぅ! 後少しだから頑張ってぇぇぇ!』
『耐えてください! ログアウトしないように耐えて!!』
……約一名死にかけているようですが、まぁきっと戦力になってくれるでしょう。
『ええっと、クロエさん、状況を教えてもらえますか?』
「はい、フライデーさん。外の兵士より、ダイロードの街中の対処が深刻でして敵に入られて――」
『あぁ!? 街中に敵が入ってるだと!? てめぇら今まで何してたんだよ!!』
「ちょっと誰か、そこのラッシュとかいう人の口を塞いでくれませんか?」
割って入ってきたラッシュさんの怒号が痛い。仕方ないじゃないですか。分かっていたとはいえ、住人の中に潜む彼らを見分けられる術はなかったですし、住人をどこかに移動しようにもそんな暇もなかったのですから。
『ラッシュ、黙りな。必要な情報が聞けないだろう?』
『……分かったよ。悪かった』
コガネさんすごい……一言で本当にあのラッシュさんを黙らせてしまうなんて。通信越しでも背筋が凍るほどの声音でした。さっきまではしゃぎながらトカゲを動かしていた人に見えないですね。
「……まぁとにかく敵に街へ入られていたので、これをエル・ドラードの皆さんに対処してほしいのです。黄昏の森を通過後、そのまま西門へ向かってください。あ、アジーちゃん達は外で待機で。別の任務があります」
『了解しました。……しかし街は囲まれているのでしょう? まずは兵士を退かさなければ我々は街へは――』
「それはこちらにお任せください。道は作ります」
コガネさんが森を抜けたタイミングに合わせて、詠唱開始。西門に向けて次元の門を開いて、ダークバーストを放ちます。
今回は妨害対策に次元の門をギリギリまで開かずに、そして撃った後はすぐに閉じておきました。門のクールタイムが長いのでその分ダークバーストを連射できなくなりましたが、また攻撃を受けたり入り込まれたりするほうが怖いですからね。
『あはははは! 本当に道ができちゃったよ!』
敵兵が一掃され、できたばかりの道をコガネさんが駆けていく。あの、まだ吹き飛ばされた敵兵の死体が空から降ってますよ? あっ、落ちてきてぶつかりそうになった敵兵がコガネさんの大太刀でさらに吹き飛ばされていきましたね。あの兵士踏んだり蹴ったりで可哀想……。
『うわぁ……うわぁ……まじかよ』
『ラッシュ、トラウマを発動してないでさっさと行きますよ』
『なぁ! 撃ってこないよな!? 俺らに撃ち込んでこないよな!!??』
「仕方ないですね、それじゃあご期待にお応えして――」
『やめろやめろやめろやめろ、まじやめろ!!!!!!!』
そんなに怖がらなくたっていいじゃありませんか。味方なので死なないので、吹き飛ばされるだけですよ。……と思ったけどラッシュさんは高所恐怖症でしたね。
『ひぇええ……でも街での戦闘なら降ってこないね?』
「すみません、アジーさん。あなたたちは外側でツバキさんと動いてもらいます」
『そ、そんなー!』
アジーちゃんの悲鳴を無視してツバキさんに彼女たちを引き継ぐ。外も外で厄介な人が多いんですよ。そういう人の顔はもう割れているので、重点的に倒していけば驚異にはなりませんがツバキさん一人では対応が追いつかないところでしたからね。
大丈夫です、当たってもちょっと吹き飛ばされるだけですよ。落下ダメージで死んだら知りませんけど。
『……そうだった! 街中じゃ降ってこないんだな!』
「実に嬉しそうですね、ラッシュさん」
『うるせ。まぁとにかくお前を気にせず暴れられて街を守れるぜ』
なんだかいつもよりやる気じゃありませんか、ラッシュさん。
こういうことは気が進まなそうなのに。
『待っててくれよ、ミランダ! 俺が来たからには全員ぶっ倒してやるからな!!』
……あー。なるほど。理解しました。これは確かにやる気もでますね。
なので今日ミランダさんはログインしていないってことは黙っておきましょう。
兵士の士気は大事ですからね。それを下げるようなことはしてはいけませんから。あぁなんて兵士思いなのでしょう、私!
ちなみにクリンくんの無事は確保済みですのでご安心ください。
さて……人手もこれで足りるようになりましたし、なんとかなりそうですね。
――そう思った時でした。
「クロエ、森に侵入者のようだよ」
ルシールさんの知らせを聞いて黄昏の森の中を見てみると、確かに二人ほど侵入者がいました。それもこちらの湖に向けてやってくる者が。
『……ツバキさん、やっぱりそちらをアジーちゃんたちに任せて、今すぐ私が指定する場所に移動を願えますか?』
『クロエ殿、どうされた?』
『ちょっと厄介な人たちを見つけたんですよ』
二人は同じ背丈で、赤いフードの教団服の者。
襲いかかってくる森の魔物たちを物ともせず、二人して倒して進んできています。
一人は炎の魔法で焼き殺し、もう一人は大剣を手に斬り倒している。
その大剣は白亜の刀身をしており、それはまるで……。
「あれは、まさか大剣レックス?」
一方その頃、とある掲示板での様子。
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スワロ王国VSラプタリカ王国戦争スレ
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205://ななしの二人目さん
なんでダイロードが戦場にもなってんだよおい!
206://ななしの二人目さん
やりやがったな、ラプタリカアアアアアア!!!
208://ななしの二人目さん
いや、俺らも知らんし……(ラプタリカ兵)
210://ななしの二人目さん
誰か知らないけどグッジョブだ
213://ななしの二人目さん
あーシートリンクの息子が裏切ってんのか。なるほどなぁ
215://ななしの二人目さん
実況はいいけどあまり双方ともに情報バラすんじゃないぞ~
250://ななしの二人目さん
ダイロード終わったわ……と思ったけどラプタリカ兵士が消し飛んだんだが???
255://ななしの二人目さん
おい、楽勝な戦場じゃなかったのかよ! おい!!
256://ななしの二人目さん
木っ端微塵に吹き飛ばされたんですけど!!?
258://ななしの二人目さん
どこの話だよ!! どこで何があったんだよ!!
260://ななしの二人目さん
ダイロードでの戦場なんだが、いきなり即死級の魔法がラプタリカ軍に降ってきた。しかも何発も。そのせいで二十分足らずでラプタリカ軍が全滅した
266://ななしの二人目さん
はあああああ!!???
267://ななしの二人目さん
嘘言うなよ。嘘の情報を流して戦場を混乱させようとしてるんだろ?
268://ななしの二人目さん
嘘だと思うならこっち来いよ!
269://ななしの二人目さん
スワロ兵として援軍行こうかと思ったけどやめとくわ……そんな怖そうな戦場行きたくない
270://ななしの二人目さん
俺もラプタリカの援軍としていこうかと思ったけどやめよ
290://ななしの二人目さん
俺ラプタリカ兵、吹き飛ばされて死んだかと思ったら金髪のねぇちゃんにさらに叩き飛ばされた……
293://ななしの二人目さん
ダイロードのほうは地獄なのかよ
295://ななしの二人目さん
やっぱ行くなら主戦場の方だな!!
298://ななしの二人目さん
主戦場も主戦場で地獄なんだよなぁ……
299://ななしの二人目さん
戦争なんだからどこも地獄に決まってるだろ