111・知らない間に拾っていたもの
「よっ、クロエ! この前は世話になったな」
「オリヴァーくんじゃないですか」
ミランダさんの店にはオリヴァーくんがいました。ドワーフで背が低いせいもあり、ちょっと物陰に隠れて気が付きませんでした。それにしても、イルーの街を拠点に活動するドワーフの職人である彼がここにいるとは珍しい。
「どうしてここにいるのですか?」
「あぁ、シートリンクのほうに商船が来ているらしくてな。市場が開かれるらしいから見に行こうかと思って。ここへはたまたま顔出しに来たってところだ」
「私も市場が気になってたからね。一緒に行こうかって話を今してたところだよ~」
シートリンクといえば……確かダイロードの街から少し離れた場所にある港町の名前でしたか。黄昏の森とは反対側であまり行ったことがありませんね。そもそもあちらに行く用事がなかったものですから。それに王都とは定期船があったようですが、魔物の影響であまり来なくなっていたのも原因だったようで――。
「……ん? 海にいる魔物のせいで船がなかなか来れなかったんじゃありませんでしたか?」
「それがね~、その魔物倒されちゃったらしいんだ。なんでもちょっと前の連絡船に乗り合わせていた人が魔物を釣り上げて、退治してくれたんだってさ~」
「へぇ、そうだったんですか……」
……釣り上げて魔物を倒した?
「それってもしかしてこの前の釣り人さんじゃないですか?」
以前この店で出会った人ですね。聖剣を釣り上げちゃった人で同郷の方だったので覚えがあります。
「クロエちゃんもそう思う? 私もそう思っちゃった~。でも噂だからね、本当のところはわからないよ。まぁでも~お陰で海賊退治も上手く出来たらしいから、また定期船とか商船が来るようになったんだよ~」
あの釣り人さん、実はすごい人だったのでしょうか? 真相はわかりませんが……なんであれ海路が無事になったようですね。
「ねぇ、クロエちゃんもシートリンクに行ってみない? 珍しい商品が買えるかもしれないよ~」
ふむ、それもいいかもしれませんね。前にミランダさんに売りつけ……じゃなくて売ってくれたガラスドクロも珍しい品でした。この辺にはない貴重な品が手に入るかもしれません。
「杖の材料になりそうな物もあるでしょうか?」
「たぶん、あると思うぜ。オレみたいなイルーの職人たち向けの商品があるって話だし」
これはアールが作ってくれる杖の材料探しにうってつけですね。
「じゃあ決まりです。私も一緒に行きます」
「本当に? やったぁ~!」
ニコニコと嬉しそうなミランダさん。私としても商人のミランダさんや職人のオリヴァーくんが一緒にいれば、偽物とかぼったくりに合う被害を回避できそうですね。
「そういえば、オリヴァーくん。ちょっと相談したいことがありました」
「なんだ?」
「この【ムーンライトストーン】を使ってアクセサリーを作って欲しいんですよ」
そういってオリヴァーくんに私がドロップした【ムーンライトストーン】を見せます。
【ムーンライトストーン】
月の光を集めて輝く白い石。集めた光がなくなれば灰色になる。
オリヴァーくんはアクセサリー職人。彼にこれを使ったアクセサリーを頼みたいと思っていたんですよ。
「ふむ……あんたが欲しいくらいだから普通のアクセサリーじゃねぇよな?」
「ええ。これって月の光を集める性質があるそうじゃないですか。その力をちょっと使えないかと思いまして」
魔法鉱石の【アメジスト】だと魔法の属性威力を高めたりとかできます。この【ムーンライトストーン】にはそういった性能はないようですが、説明に月の光を集めると書いてあります。
この光、利用できないかと思いました。私のスキルに【月光】というものがあります。月の光の元ならステータスが上がるんですよ。なのでこの石が集めた月の光をうまく使えれば、昼間や、月の光が届かない場所でも効果を得られるかもしれないと思ったんです。
「そりゃそうだが……そいつはただのフレーバーじゃ……いや、フレーバーに意味がないとは言えないかこのゲームじゃ」
オリヴァーくんが考え込むように腕を組みました。その通りです。フレーバーでも意味があるのがこのゲームです。
「分かった。試しにやってみるよ。あんたが望む通りにはできないかもしれないが、それでもいいか?」
「ええ、よろしくお願いします」
そういうわけで、オリヴァーくんにアクセサリーの依頼をすることになりました。
「あとそれからもう一つ、オリヴァーくんって修理を受け付けていますか? アクセサリーじゃないんですが……」
「なんだ? とりあえず見せてみろよ」
アイテムボックスから【壊れた大釜】を取り出しました。これはルシールさんの家にあった大釜ですね。上級の調合用に使うものなのですが、壊れていて使い物にならないんですよ。
「こいつは金属加工スキルで直せそうだな」
「じゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」
「オレは便利屋じゃないんだが……まぁいいよ。ついでだから直してやる」
オリヴァーくんなら直せると思っていましたよ。ということで彼にお願いしました。
「あともう一つ頼んでいいでしょうか?」
「なんだよ、今度は……」
「これってなんでしょうか? この前のダンジョンで拾った物のようなのですが……何かわからないんですよ」
そういって取り出したのは未鑑定扱いにされている赤と青の小さな丸い玉のアイテム。ダンジョンでのアイテム整理をしていた時に見つけたのですが、鑑定スキルを持っていなかったので何のアイテムか分からなかったんです。
鑑定のために差し出すとオリヴァーくんがじーと見つめていました。
「ええっとこいつは……おいおいまじかよ」
鑑定し終わったのでしょう。情報ウィンドウの文字を視線が追っているようでしたが、すぐに驚くような表情をしました。
「【魔防の双玉】……これボスのレアドロ品じゃねーか!」
ダンジョンボスだった【銀嶺の守護者】、あれを守っていた二つの無敵効果を与える宝玉。……どうやらこのアイテムはその宝玉だったようです。
「これを使えばあの時のような無敵効果を得られるのですか……?」
「いや、このまんまだと無理だな。オレが作ってやろうか? つっても一回限りの品になりそうだが……」
「消耗品でも無敵効果が得られるならいいではありませんか。これもお願いします」
「なーんか仕事増えちまったなぁ……。まぁいいや。その分お代はもらうからな?」
オリヴァーくんもレア素材で装備が作れるのが嬉しいのでしょう。ちょっと楽しそうにしていました。
さて、オリヴァーくんとの取引も終わりましたので市場に行きましょうか。
「クリン~店仕舞いして行くよ~」
「それなら僕が店番しておきますから――」
「だーめ! クリンも一緒に行くのよ! もう一人には絶対にしないんだから!」
「もう……仕方ないですね。まぁ僕も行ってみたかったのでいいのですが」
腕を引っ張るミランダさんにやれやれと言いつつも、嬉しそうなクリンくん。前回、クリンくんが混沌化してしまったことを考えれば、ミランダさんも過保護になりますよね。
そういうわけでミランダさんとクリンくん、それからオリヴァーくんと共に港町シートリンクにいくことになりました。もちろんニルやアール、ルシールさんも一緒です。