110・ゴーレムの手も借りたい
ダンジョンで入手したものに関してはまだ気になるものがありました。
それは【ゴーレムのコア】です。
今までのゴーレムはコアがないため召喚してもすぐに消えてしまうようなインスタンスゴーレムでした。しかし、コアがあれば半永久的なゴーレムを作り出すことが出来ます。
試しに一つ作ってみましょう!
まず用意するのは【ゴーレムのコア】。そして次に体に必要な土を用意します。
土は生成後の強度に影響するため、防御力の高いゴーレムを作りたい場合はちゃんと硬い素材を用意しましょう。
今回使用するのはこちらの【アイアンゴーレムの欠片】。名前から分かる通り、ダンジョンで戦ったアイアンゴーレムからドロップした素材ですね。これを用いれば同じアイアンゴーレムを作ることが出来ます。
一つだけでは足りないのでこれを二十個ほど用意しましょう。準備はこれでOK。杖を構えて【ゴーレム製作】のスキルを発動させます。すると目の前に魔法陣が現れました。土属性なので茶色の魔法陣ですね。
……ふむ、どうやら完成まで一時間かかるようです。なるほど、コアを用いない簡易製作のほうだと詠唱終了すればすぐに生成されるのですが、コアを用いると生成に時間がかかるようです。
一時間経てばゴーレムが完成しました。使用した素材のお陰でやはり見た目はあのダンジョンにいたアイアンゴーレムにそっくりですね。そして性能も同じなようです。
つまり、コアなしで作るインスタンスゴーレムより、性能がいいというわけですね。
でも、製作に一時間かかります。性能が低くてもすぐゴーレムを使いたいと思ったらコアなし、時間を掛けても性能が良いものが欲しいならコアありで作ったほうが良さそうですね。
「これから私があなたの主人です。どうぞよろしくお願いしますね」
そうゴーレムに語りかければ、返事をするように頷いてくれました。
やっぱりコアありの方がこちらの言葉を理解する知能も有するようで、細かな命令も聞き分けることができるようです。
なので試しに、ゴーレムに薬草畑の水やりなどを任せてみました。命令はちゃんと聞いてくれたようでしっかりとこなしてくれます。
これはちょうどいいですね。広くなった薬草畑の管理をどうしようか困っていたところです。
私やアールだけでは手が足りなくなっていましたから。ゴーレムの手も借りれば管理も楽になりますし、もう少し畑も大きくして収穫量も増やすことが出来ます。
【ゴーレムのコア】はまだあります。破損したコアも数さえあれば一つ分の【ゴーレムのコア】とすることができます。それらを合わせれば五体のゴーレムは作れそうですね。暇な時に作っておきましょうか。
ゴーレムは数さえ用意できればもしもの時の戦力になりそうですね。実際、戦争している国の兵力としてゴーレムは運用されているなんて情報を掲示板とかで見たことがあります。
そうなると、【ゴーレムのコア】をできるだけ集めたいですね。自分で挑戦して集めてくるのもいいですが時間がかかるので、買ってしまったほうがいいかもしれません。
幸いにもダンジョンに挑戦する人はまだまだいます、市場にはダンジョン素材が溢れてそうです。今度またイルーの街に行ってみましょう。ちょうどオリヴァーくんにも相談したいことがありますからね。
「ルシールさん、ミランダさんの店に出かけますが……どうします?」
アイテム整理も終えたのでミランダさんの店に行こうと思いました。いつもであればルシールさんも一緒に行くのですが……いつもと容姿が違うので一応聞いておきました。
今の彼女の姿は十代の少女です。ルシールさん曰く、髪色や目の違いなどありますが容姿は自分の幼少期にそっくりなのだとか。相手が彼女の昔を知らない限り、この姿のルシールさんを見てもすぐにルシールさんとは気が付かないでしょう。
「もちろん行くに決まっている! 久々に人の視線で街を歩けるのだからの!」
「わかりました。じゃあ、その服装はなんとかしてから行きましょう」
長い袖は捲らないと手が見えないし、ローブの裾は地面について歩くたびに引きずっている。……システム的に着用し直せば、服のサイズは体型に合わせて縮小して直りそうなものですが、服がちょっと似合っていないんですよね。元の老魔女たるルシールさんには似合っていたんですが、今は年齢的に似合わないのです。
「ほぉ……こんな可愛いドレスを着るのも久しぶりだのぉ!」
とりあえず、私が最初に着ていた【貴族令嬢のドレス】を着せておきました。まだこちらのほうが似合っていますね。ルシールさんも気にいったのか、楽しそうにドレスの裾をひらひらさせていました。服のせいもあってどこかのお嬢さんみたいです。
「それじゃあ行きましょうか、ルシールさん」
「うむ!」
ウキウキしながら後を付いてくるルシールさん。……見た目も相まって少女らしく年下に見えてきました。本来の年齢ならクロエより上ですけど……いや、でもNPCに使われているAI自体はまだ五、六年といったところだったはずなのである意味、年相応かもしれません。
「こんにちは、ミランダさん」
「クロエちゃん、いらっしゃい~……ってあれ?」
ミランダさんの店の扉を開けると優しそうなタレ目は不思議そうに私の後ろを見ていました。
「クロエちゃん、そのケットシーの子どうしたの?」
しまった……。ルシールさんの存在の説明を考えていませんでした! ルシールさんですとは言いづらいし……ええっと。
「わたし? わたしはクロエお姉ちゃんの妹だよ!」
えっ、ちょっとルシールさん何言ってるんですか……!!
「妹……?」
「ええっと……妹のような子で、し、親戚の子です! ちょっと預かることになりまして……」
「なるほど~」
慌ててそう訂正する。妹という血の繋がりより親戚だと言っておいたほうが誤魔化しも利くと思いますから。
『ルシールさん、何妹とか言っているんですか……』
『かっかっか! いやぁ、妹なら良いかと思ったんだが。まぁ確かに親戚のほうがよかったのぉ』
絶対わざとですよね? 犬歯を見せてにやにやと楽しそうに笑っているのをみれば、絶対わざとだって思えます。
「初めまして。私ミランダって言うの。あなたの名前は?」
「えっと……ベルシー!」
ベルとルシールを合わせてベルシーですか? なんだか健康的な名前ですね。さっきみたいないたずらをされるのでまったく健康的ではありませんが。
『それにしても……少女の演技必要ですか?』
『この姿でいつも通りの話し方では変であろう? あれのほうが自然であるし変に思われることもなさそうだからの』
……ルシールさんまで演技し始めるとは。まぁ本人は楽しそうですし、彼女の言う通り怪しまれないのでいいでしょう。
補足
サポートロボットは誕生から三十年以上経過していますが、問題となりSSOのAIとなったものは誕生からまだ数年しか経過していません。ちなみにロボットの人権法が通ったのが三年前くらいです。
書籍版の挿絵にあった貴族令嬢ドレスのクロエをちっさくすればだいたいベルシーになります。