109・爆誕してしまった猫耳ロリババア
さて、今日もログインしてゲームをプレイしましょう。前回ログアウトした場所、黄昏の森のログハウス中。現れた私のことをアールとベルが出迎えてくれました。
あとは一匹と一人を呼び出しましょうか。杖を構えて呪文を唱えます。
「現れなさい、我が使い魔よ!」
まずはニルを呼び出しました。いつもの眠たそうに目を半目にした、大きめのミミズクに似た魔物が現れます。ニルは呼び出されてすぐにお気に入りの場所であるとまり木に飛んでいって、また寝始めました。
「ふぁ~よく寝たのぉ」
その次にルシールさんを呼び出しました。魔女のローブを着こなす白髪の老魔女がそこに――えっ?
「ルシールさん、まだ人型になったままですね……」
いつもであればすぐに人魂になって黒猫のベルに憑依するというのに、今日はまだ人の形を保ったままでした。
「ふむ……お前さんの召喚魔法の能力があがったからではないか?」
そういえばレベルがあがっていましたね。つまり……ルシールさんを人型のまま召喚できるレベルになったというわけですね!
「って……あれ?」
「おや、人魂になってしまったのぉ……」
……と、喜んだのも束の間。しばらくしてルシールさんは人魂になってしまいました。どうやらまだ、完全に人型として召喚するにはレベルが足りないようですね。
「もう少し修行して能力を上げたらいいのかもしれませんね」
「別に今の姿でもよい。そう焦るで…………いや待て。もしかしたら、人の体を得られるかもしれない」
「え、それは本当ですか?」
「先程召喚された時、以前よりも人型の維持時間が延びておった。それに私の本来の力も以前より使えるようになっておったように思う……だから、もう一度召喚しておくれ。そしたらできるかもしれん」
そうであればさっそくやってみましょう! 私はルシールさんの召喚を解除し、もう一度召喚しました。
「よし……できそうであるな。では、ベルよ。もう一度私の使い魔になっておくれ」
現れたのはやはり白髪の老魔女。自分の体を確かめるように手のひらを見ていた彼女はにやりと皺を深くして笑うと、黒猫のベルと契約し使い魔にしました。
「――我が使い魔よ。契約に基づき我に力を貸したまえ。その魂を、その体を、我が手足として!」
杖を手にしたルシールさんの詠唱が響く。使っている魔法は……え、融合?
詠唱が終わったと共にルシールさんの足元に現れていた魔法陣と彼女自身が光り輝く。まるで光の爆発のような輝きが収まるとそこにいたのは……。
「よし! 成功したぞ、クロエ!」
幼い声が聞こえてきてびっくりする。いやそれ以上にびっくりしています。
だって私の目の前に、見知らぬ女の子がいつの間にか現れていたんですよ。
黒い猫耳に、黒と白が混じったような髪。青と金のオッドアイの目は、いたずらが成功したというように子供らしく輝いている。着ている服は大人のローブで裾が余っていました。
その服はさっきまでルシールさんが着ていたものです。ついでにさっきまでルシールさんが持っていた杖を小さな両手で抱え込むように持っていました。
「……ルシールさん、ですよね?」
「かっかっか! 私以外に他に誰がいるというのかのぉ?」
軽快な幼い声で笑う。何度見直してもそこにいるのは白髪の老婆ではなく、十代くらいの猫耳少女でした。
「どうなっているんですか……これ?」
「ベルと使い魔の契約をし直しておったであろう? その後に私の肉体と融合させるように再召喚したのだ。この体は半分ベルの肉体というわけだの」
「なるほど……」
ルシールさんは今は私の使い魔です。私が魔力を使って霊体を作らなければならないのですが、まだまだ能力不足。出来上がるのは中途半端な霊体で時間が立てばすぐに消えてしまいます。それを補うようにルシールさんはベルの霊体を借り受けたようです。
憑依に近くてちょっと違うようです。憑依は相手の肉体をそのまま借り受けますが、こちらはお互いの肉体を融合させて存在しているわけですから。だからベルの特徴として猫耳やしっぽが生えているわけですね。
「猫の姿も悪くはなかったが、やはり人の姿が一番だのぉ! ふむ……それにしても……」
うーん、と背伸びをした猫耳少女はそう言うと、ローブの裾を引きずりながら姿見の前に立ちました。
「私、すごくかわいいではないか?」
「何自分でかわいいとか言っているんですが、猫耳ロリババア」
「……おお、そうはっきりというでない。私も一人の可憐な乙女、少し傷ついたではないか」
つい思わず言ってしまいましたが……ちょっとめそめそと嘘泣きをしないでください。
確かに可愛いですよ。中身があのルシールさんですが。
まぁわからないわけじゃないですよ。私もゲームを始めた頃はクロエの外見設定の時に心を踊らせていましたからね。
「さて、アールよ! すまないがお茶を入れてくれんか? 久しぶりに人の食事がしたいからの!」
立ち直りが早い……というかあの言葉程度ではルシールさんには効かないでしょう。そう言ってテーブルの方へ歩いていきました。そういえば、食事というのもルシールさんにとっては久しぶりなんですね。今までは人の体を持たなかったからできませんでしたから。
私もお茶を飲みながら、先日イルー鉱山で攻略したダンジョンで手に入れた物の整理をすることにしました。どれが必要なものか、そうでないものかを分ける必要があったからですね。
「綺麗……」
手に持ったアメジストを光に当ててみる。光を通した紫の石はキラキラと輝いていました。
これがデータの塊で本物ではないとしても、手のひら程にも大きな宝石を眺められるなんて現実ではなかなかできないことですからついつい見入ってしまいました。
このアメジストもダンジョンで手に入れたものです。どうやらこのアメジスト、闇属性の魔法と相性が良いみたいです。これを用いて武器を作れば闇魔法の威力を上げられますね。
闇魔法の高火力に魅了された者として、さらに威力を上げられると聞いてはやらないわけがないのです。
しかし、問題は武器の制作をどうするか……。私の場合だと杖ですね。自分で作るにはスキルがないので無理です。なので職人に依頼するのがよいでしょう。
ダイロードの街にいる武器職人に相談してみようと思った時、アールに肩を叩かれました。
「どうしたんですか、この杖?」
その手には杖が握られていました。木でできた杖で私の今使っているものよりは性能は低いでしょう。それは使っている木材とか、材料の影響もあるでしょうが、少なくともそれは杖としての最低限の機能は備えていそうです。
私の為に新しい杖を買ってきたにしては性能が低い。じゃあ、アールが使うかといえば彼は魔法を使えません。……いえ、私が使っているところを見ていないだけで実は使えるのかも知れませんけれど。
疑問に思った私にアールは木工道具を手にして、削るような仕草をしました。
「まさか、アールが作ったのですか?」
こくり、と頷くアール。でもどうして……。
「……もしかして私のためにですか?」
今度はこくこくと、大きく頷く。
「お前さんのために今まで努力しておったみたいだよ。今のアールの腕なら材料さえあればお前さんにピッタリのものを作ってくれるだろうねぇ」
クッションを敷いた椅子の上にちょこんと座る猫耳少女が紅茶を飲みながらそう言いました。しっぽは上機嫌にゆらゆら揺れています。……まだあの少女がルシールさんという事実に慣れませんね。
しかし、確かによく考えてみると、アールは今までに家具や困った人に杖などを作っていることがありました。それは本人の趣味、やりたいことなのだろうと思っていましたがまさか私のためだったとは……。
「ありがとうございます、アール」
アールは首を振りました。まだお礼を言われることはしていないというように言っているみたいでした。アールが作ってくれるというので、私は任せたいと思います。そのためにも材料とか用意しないといけませんね。そのあたりはミランダさんあたりに聞いてみましょう。
簡単に言えば融合召喚とかフュージョンとかそういう感じの。特に強くならない。