108・あなたの道は?
「はーやっと終わったぜー」
疲れたように背伸びをするライトくん。ボスを倒したことでこのダンジョンはクリア扱いになりました。地上へ続く脱出用ポータルを使い私達はダンジョンの入り口に戻ってきました。
「しかし、大ボスだから剥ぎ取りできるか期待したってのに何も取れないとか……」
「あれは瘤付きのストーンローラー限定だからな?」
「あっそういやそうだった」
ライトくんの言葉にやれやれとため息を吐くのはオリヴァーくん。
確かにボスからは追加で剝ぎ取ったりができませんでした。しかしドロップ品は悪くありませんでした。【ゴーレムのコア】や【アメジスト】まで手に入りましたよ。他にも私では使えそうにないけれど売ればお金になりそうなものがありますね。
「よし! これはいいタイムだっただろ!」
「そうですね、悪くない数字だったかと」
「これであたしらが一番を貰って……ってなんだ、クロエたちがいるじゃないか。まさかもうクリアしてきたのかい?」
おや、コガネさん達も迷宮の攻略が終わったようですね。どうやら自分たちがもっとも早く迷宮を攻略し終えて出てきたと思っている様子。ですが残念ながら迷宮の最速クリアは私達のパーティが貰っていきました。
「まじかよ! 俺らが一番だと思ったのに!」
「……ふむ。話を聞くにボス戦での攻略が早かったと見えます。闇魔法の威力を高めての攻略……」
「フライデー、確か闇魔法覚えている子が居たはずだよね? そいつ連れてきてもう一回行こうじゃないか」
「いつも通りならもう少しでログインするだろうな。あと足りないのは……」
その場で次の攻略の作戦会議を始めるコガネさん達。……残念ですが最速クリアの順位はすぐに奪われそうですね。
そんな感じで互いの健闘を労いつつ私達のパーティは解散となりました。
さてと。今日はもうログアウトしてもいいのですが……一つだけ気になる事があります。
「お疲れ様でした、サザンカさん。いえ、ツバキさんとお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
解散した後。人混みに紛れて消えそうだったその背を追いかけてそう声をかけてみました。人混みなので、辺りは騒然としています。ですが私の声はしっかりと聞こえたのでしょう。彼女は歩みを止めて振り返りました。
「…………気付いていたでござるか?」
「ええ、私の目を誤魔化せるなんて思わないでください」
「流石、クロエ殿と言ったところか。拙者もまだまだでござるな」
気づくも何もバレバレだったかと。まだハクを連れていなければ分からなかったかもしれませんが。それにしても、彼女の反応から本気でバレていないと思っていそうですね。ここは敢えて言わないでおきましょう。私以外にも気付いていた人が居たなんて。
「それで、拙者に何用か? 前回の報復であれば受けて立つでござるよ」
「それはしたいところですが……少し尋ねたい事がありましてね」
人混みから外れて、人通りの少ない場所に移動。フードを取って素顔を晒したツバキさんがこちらを見ている。緋色の瞳は色に反して冷たく、表情は見えない。
「どうして、あなたがこんな所にいるのですか?」
「…………」
彼女は黙ったまま、答えようとしない。単刀直入に聞いても彼女が答える訳がないので、この返答は予想できましたね。一つ、やれやれと肩を竦ませる演技をしておきましょう。
意味もなく彼女がここにいる訳がない。大方前回の事件絡みでしょう。
何か残っていてはまずい証拠でもそのままにしてきたから、それを消しに来たとかでしょうか? あの赤フードの一味は長いことこの街を拠点に動いていたように思いますからね。
まぁこれはあくまで私の憶測。実際はどうかは分かりませんし、教えてもくれないでしょう。
「なぜここにいるのか気になりますが……今はそれよりも。どうして私達のパーティに入ってきたのですか?」
「……それは」
「どうして黙るのですか?」
「…………」
「言えないのは任務じゃないからですね? これはきっとあなた個人の行動でしょうから」
ダンジョンに入るのが目的なら、わざわざ私達と同じでなくていいでしょう。
しかもツバキさんがパーティに入ってきたのは最後です。メンバーの確認をして入ることを回避することもできた。
以前勇者であるライトの剣を奪ったり、私を殺したりした彼女です。正体がバレてしまえば自分はただでは済まないというリスクを負ってまでパーティに入ってくるのはおかしな話ですよ。
「……ダンジョン攻略、楽しかったですか?」
「なぜそのようなことを聞く」
「私達と一緒になって攻略するのは楽しかったですね?」
「そんなことは……!」
「ツバキさん。あなたはあの赤フードたちとは違いますね。……ライトくんの剣を奪ったりしましたが、奪うならすぐにできたはずです。なのに奪ったのは赤い獣を退治した後でした。あなたはルシールさんを助けることに協力してくれましたね」
「その方が都合が良くて……」
「……言い訳はここまでにしましょう。ツバキさん。あなたは本当は優しい人ですね。そして私達と一緒に冒険がしたかった程に、自分を偽ってまで私達の仲間でありたかったことを」
ダンジョン中のツバキさんはフードをしていたので、詳しい表情などは読めませんでした。ですが、とても楽しそうだったなと今でも思います。……少しだけ中の人の素が出ていたのかもしれませんが、全てがそうであるとも言えないんですよ。彼女のキャラを考えるなら。
彼女は私から目をそらして俯きました。隣に飛ぶハクが心配そうにツバキさんに寄り添っている。
「…………拙者は生まれてこの方、任務の為に生きてきたでござる。それこそが拙者の役割であり、それしかできぬ存在であると思って……何の疑問も持つこともなく。ただ、あの時。クロエ殿たちと一緒にルシール殿を助けた時、拙者にも人を救うことができるのだと初めて知り得たのでござる。……それで」
「それで?」
「……それで初めて疑問を抱いたのでござる。拙者には本当に、言われただけの任務をこなす力しかないのかと。クロエ殿を、あの時殺した時でさえそう思ってしまって……」
そう言うわりには躊躇なく私を殺してくれましたね? と思いつつそれは言いません。こんなシリアスな場面で言うわけないですよ。私の言葉を隠し、クロエとしての言葉を言いましょう。
「その疑問の答えを知りたくて、私達のパーティに来たのですね。……答えは見つかりましたか?」
「まだでござる……」
「そうですか。――じゃあこれからどうするんですか?」
「……これから?」
「答えが見つからないまま、あなたはこの先も任務をするのですか? 今まで以上にそれは辛いことだと思いますよ。だって一度私達と一緒に冒険をしたじゃありませんか。とても楽しかったと思ったのでしょう? ……もしまたあなたが同じ道に戻れば、彼らと敵対するでしょう。私とも敵対します。もう一度サザンカとなれば仲間になれるでしょうが、あなたは再び同じことができますか?」
サザンカとして和気あいあいと仲間と呼べる人たちと出会って。
でも次に会うのはきっと任務に忠実なツバキの方。
その後に、また同じことを繰り返すのは辛いでしょう。だってツバキさんには良心がある。騙したままこの関係を続ければ彼女の心はどうなるか……分かりきったことでしょう。
「じゃあ……どうすればいいと? 拙者はどうすればいい?」
「簡単な話ですよ。任務なんて放り出して足を洗えばいい」
「……簡単に言ってくれるでござるな! 簡単にできればどれだけ楽か、お主には分からぬでござろう!」
大きな声で彼女は叫び、こちらを否定しました。だけれど、心からのその叫びはどこか助けを求めるような悲痛の声にも聞こえてくる。現にツバキさんは今にも泣き出しそうな表情でした。
「ええ、分かりませんよ。でも手を貸すことはできます。楽に足を洗うために」
「……お主、それこそ簡単に引き受けて良いでござるのか?」
「もちろんタダで助けるわけじゃありませんよ。あなたが彼らに協力しなくなれば、こちらとしても利益があるから言っているのです」
赤フードの中でどれだけツバキさんの影響があるかは分かりませんが……少しはこちら側は有利になるでしょう。たとえ影響が少なくとも、ツバキさんをこちらに仲間に引き入れられたら良い。味方が多いほうが良いですからね。
「……なるほど。取引でござるか」
「納得してくれたようでなによりです。お互いに利益のある話でしょう?」
あぁでも……。
「あなたの為に何かしたいと思うのは本当ですよ。……私は忘れていませんよ。一緒に黄昏の森で行動したことを、ね? 私はあなたの事を数少ない友人であると思っていますから」
これはあくまで友人としての言葉です。クロエにとっては初めてこちらでできた友人ですから。
「クロエ殿……。……友でござるか。拙者にそのような存在ができるとは……」
キャラの立場や都合を考えると友人というものはなかなか出来づらいでしょうからね……。
……おっとこれは今考える話ではありませんでしたね。失礼。
でも今の言葉はツバキさんの心に響いたようですね。うん、うまくいきました。
「そのように言ってくれる友の言葉には応えたい所でござるが……。少し考えさせてもらうでござる」
「ええ、答えはいつでもお待ちしておりますよ、ツバキさん」
そう言ってツバキさんは去ろうと背を向けましたが――。
「あぁそうでした。ツバキさん」
「……まだ何か――」
何かを言おうとしたツバキさんでしたが、その言葉は紡がれることはありませんでした。
なぜかって? それはもちろん私の攻撃が当たって彼女のHPを吹き飛ばしたからですよ。
「報復は受けて立つのでしょう?」
「ふ、不意打ちとは卑怯な……」
「おや、あなたがいいますか? 私を後ろから不意打ちで殺したのはあなたですよ」
ちゃんと借りは返すべきだと思いまして。
それもこれから仲間になるかもしれない相手。後腐れなくいきたいものでしょう?
「それではまた会いましょう、ツバキさん」
死体となり消えていくツバキさんを見送るように手を振りました。
消えていく彼女は笑顔でしたので、きっと大丈夫でしょう。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV30 残りSP9
基本スキル 合計26個
【両手杖LV30】
【魔法知識LV30】【魔力LV30】
【闇魔法LV30】【風魔法LV30】【土魔法LV30】
【暗黒魔法LV18】【空間魔法LV10】
【月光LV20】【下克上LV25】【森の加護LV10】
【召喚:ファミリアLV30】【召喚:ゴーレムLV20】
【命令LV30】【暗視LV30】
【味覚LV30】【草食LV20】
【鑑定:植物LV25】【採取LV25】
【調合LV30】【料理LV20】【魔女術LV1】
【毒耐性LV25】
【耐性[麻痺:睡眠:呪い:気絶] LV25】
【言語:デュオ地方語LV30】
【飛行:ホウキLV20】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】
【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】
【魔獣を倒した者たち】