107・ボスを一撃で倒しても構いませんよね?
「おおおお! これは宝の山だあああー!」
降りてくるなり叫んだのはオリヴァーくん。彼は周りにいたクリスタルローラーの死体に速攻向かっていきました。
「何が宝の山なんですか?」
「見てわからないのか? このクリスタルローラーってのはこの瘤の部分が鉱脈扱いなんだよ。だから発掘スキルで掘り起こせば鉱石や原石が出てくるんだ」
上にいたストーンローラーたちもやろうと思えばできたらしいですが、彼らから出てくるのは石など低ランクのアイテムばかりだそうです。ですがこのクリスタルローラーから採れる物は希少価値の高いものが多いらしいです。
説明を終えたオリヴァーくんはつるはし片手にざっくざっくと発掘を開始していきました。採れた鉱石はパーティーの皆に分配されるとのこと。特殊な剥ぎ取りボーナスになるからだそうです。
しかしモンスターが鉱脈扱いとは……。私達はオリヴァーくん以外に発掘スキルを持っている人がいませんでした。オリヴァーくんは戦闘では役に立ちませんが、こういった戦闘以外では役に立ってますね。むしろ居てくれて良かったくらい。
採取の結果。敵の追加ドロップ品が現れました。ほうほう……金鉱石に、銀鉱石それから……あ、【ムーンライトストーン】の原石! 確か前にオリヴァーくんが掘り当てたものでしたね。これが原因で前回の厄介事に巻き込まれたのでしたか。
「これは思わぬ収穫だな」
「やったー! 金鉱石じゃん! 高く売れそう! ねぇねぇこれ売ったら私の次の装備買えるよね?」
「できるんじゃないか? ブルーイは何をもらった?」
「銀鉱石ですね。これは嬉しい、次の杖の材料に必要だったことですし」
アジーちゃん達も追加で鉱石をもらったようですね。そしてそのまま次の装備の相談をし始める。
「僕もそろそろ新しい装備に変えようと思っていた所だ。今回の鉱石は使えそうだ」
「俺はもう変えたばっかだが……武器なら欲しいところだな。ほんとは剣が戻ってくるのが一番なんだが……」
カイルさんとライトくんもそんなことを話していました。言葉を発していませんがサザンカさんも武器や装備を見て何やら思い悩んでいる様子。ちなみに先程、ライトくんの言葉に少し反応していたのはここだけの秘密。
皆さん次の装備が欲しいのは同じなんですね。私も新しい装備が欲しくてここに来ましたから。
「それにしても……ここは何階なのでしょうか?」
ドロップ品の確認を終えて、改めて周囲を見渡す。ずいぶんと下に落ちたような気がしますが、一体何階分落ちたのか分かりません。
「クリスタルローラーがいるってことは結構深くまで落ちてきたみたいだな。もしかしたら最下層かもしれない」
オリヴァーくんの言ったこと、それは的中していました。部屋を出て敵を倒しつつ通路を進んでいくと、いかにも重厚で禍々しい扉があるではありませんか。
「ボス敵の情報は何かないのか?」
「まだ実装されたばかりのダンジョンだからかな、情報が錯綜していて分からないなぁ……」
ライトくんとオリヴァーくんがそんなやり取りをし、
「ねぇねぇこの先ボス戦! ボス戦でしょ! 早く行こうよ、行こうよ!」
「ダメだ、アジー! まだ行かねぇから」
「そうだよ、補助魔法の掛け直しが終わってからね?」
今にも扉を開けて突っ込んでいきそうなアジーちゃんをサヴァールくんが首根っこを掴んで止めて、ブルーイくんが言い聞かせている。
「みんな準備はいいかい?
「ええ、もちろんです」
カイルさんの言葉に私はそう返す。サザンカさんも了解したと言うように頷きました。
「まぁ、大丈夫だ! 何があっても俺に任せておけって!」
ライトくんに一体何を任せればいいのでしょうか。明かり役ですか?
なんて冗談を心の中で言いつつ、この迷宮のボスへの扉が開いていきました。
扉が開くと真っ暗闇。一歩踏み出した途端、壁際にある松明に炎が順々に宿っていき、中を照らし出す。円形状の空間が広がり、天上が地下だというのに高く伸びている。
扉とは反対側、私達と真正面。その向こうには赤と青の宝玉の付いた台座に挟まれる形で、人型をした何かが佇んでいました。銀色の体を持つジャイアントゴーレムといった感じでしょうか?
『侵入……ヲ……発見。排除……マス……』
壊れて掠れたような機械音声が聞こえたかと思うと、その銀のゴーレムは動き出しました。侵入、排除? この迷宮のトラップや道中のゴーレムたちを思うとこの銀のゴーレムも警備システムの一部なのでしょうね。
「皆、僕の後ろへ! ライト、前へ出るよ!」
「了解だ、カイル!」
おっと考え事は後回しですね。前に出ていくカイルさんとライトくん。その後に続いてアジーちゃんも前に出ていく。振り回された豪腕をカイルさんが受け止めれば、ライトくんとアジーちゃんがすかさず攻撃を加えましたが……
「あれっなんで!?」
「ダメージが通ってねぇぞ!」
大剣とダガーは弾き返され、ダメージが通らなかった時に出る白のエフェクトの火花が散りました。……これは道中の敵相手の中でも見てきました。能力の高い物理耐性持ち相手にこのようなエフェクトが見えたことがありましたね。
再び攻撃を仕掛けようとした敵の攻撃をカイルさんが盾で防いで守り、逃げ遅れたライトくんを引きずるようにサザンカさんが回収していく。アジーちゃん? もちろん自力で離れましたよ。アジーちゃんは咄嗟の判断力には長けている気がします。この辺りに経験差が出ているように思いますね。
「ということは、魔法か? クロエさん!」
「ええ、分かっていますよ、サヴァールくん」
すでに魔法は詠唱済み。一つぶっ放してみましょうか!
「風の精霊シルフよ、我が弓矢に風の力を!」
「闇の力よ、敵を吹き飛ばしなさい!」
私の【ダークバースト】とサヴァールくんの魔法属性が付加された弓矢、【ウィンドアロー】の攻撃が敵のゴーレムに当たる。ですが……
「また白だ!」
「魔法耐性まで持っているということですか!?」
風と闇は白のエフェクトに変わり、無意味な光となって消えていく。いや、待ってください。二人分の攻撃を白で返したのですか? 白いエフェクトはさっきも説明したとおり、ダメージが入らなかった時のエフェクト。ただの耐性持ちなら効果を半減されただけで、少しはダメージが通るのですよ。だから白いエフェクトはたまにしか見なかった。
「解析終わったよ……。【銀嶺の守護者】二つ名持ちのユニークボス。物理と魔法両方とも無効化するみたいだね」
ブルーイくんの解析報告が上がり、敵の残りHPと情報が私の視界にも現れる。無効化……耐性じゃなくて無効化能力持ちですか?
『……銀嶺の守護者。聞いたことがある名だな』
『何か知っているのですか、ルシールさん?』
『かつて災厄時代に、混沌に抵抗するための兵器が沢山生み出された。それの一つとしてその名が古い文献に載っておった気がするの』
こんな時にとても役に立つ猫! あぁいえ、冗談ですよ。でも知りたい情報を的確に教えてくれるルシールさんは便利と思ったことは認めましょう。検索するより彼女に聞いたほうが早いですからね。
いやいや、今知りたい情報は設定じゃなくて倒し方のほうでした!
『無効化なんて技術を生み出すなんて相当な技術ですね。しかし、あれを倒すにはどうすれば?』
『無敵の兵器であれば混沌はさっさと無くなっていただろうて。あれにもしっかりと弱点が在るはず。そうだの、無効化の能力はどこから発生させているかが分かれば……』
『能力の発生源……』
目の前で未だ戦闘は続いている。カイルさんが敵を引き付け、何か手立てはないか探りながら他のメンバーが攻撃を加えている。あのゴーレムの弱点、それはもうとっくに暴かれている。でもそこを狙っても無効化に阻まれてしまう。弱点に攻撃が届かなければ意味がない。……ゴーレムの弱点でなく、無効化能力の弱点は――
「あれは……」
見つけたのは部屋の奥にある赤と青の宝玉。それは先程から不思議な力を発するかのように光り輝いていました。
「サヴァールくん、あれを狙って!」
「……あれ? そうか、そういうことだな!」
こういうのには手慣れているのでしょう。こちらが言わんとしていることを理解したのか、サヴァールくんは赤の宝玉を弓矢にて打ち砕きました。すると、ゴーレムの体が赤く光り、バリアが砕けるように散っていく。
「まだダメだね、もう片方も破壊しないと!」
ブルーイくんがそう言っている間に青の宝玉も砕かれました。誰がやったかと思えば、サザンカさんでした。さすが仕事が早い。
「おお、攻撃が通ったぞ!」
「よし、これならいける。守りは任せてくれ!」
その後は順調でした。短時間とはいえ、この迷宮の中を共に突破してきた仲間。互いに連携しあって銀のゴーレムの攻撃を抑えて、一方的に攻撃をしていく。
「みんな、がんばれよー! これなら倒せるんだからなー!」
その様を安全圏から応援するオリヴァーくん。まぁ道中もこんな感じでしたので、今更なことでしょう。でも、確かにこの調子なら倒せ……
「宝玉が! 宝玉が直っちゃったよ!?」
「待って、何この回復量! おかしいでしょ!」
焦った声が聞こえてくる。それだけ状況がまた変わりました。銀のゴーレムに無効化能力を与えていた赤と青の宝玉が粉々に砕けていたというのに、傷一つなく再生したのです。しかも壊されて再生するまでの時間は一分ほどしかなかった。
再生されたかと思えば、銀のゴーレムのHPが回復していく。どうやらあの装置、自動回復の能力も与えていたようですね。しかも回復量が尋常じゃない。皆で削ったHPが瞬く間に回復していく。
「もう一回、宝玉を壊さねーと!」
「待てライト! 壊したとしてあの宝玉が再生されるまでに倒さないと意味がない。また同じことを繰り返すだけだ!」
焦って壊しに行こうとしたライトくん。そのせいで敵の攻撃が当たりそうになりましたが、カイルさんが防ぎ、彼の行動を止めてくれました。
「俺たちが今与えたダメージ量を考えると無理だが……」
「無理せずこのまま撤退という手もあるんじゃない?」
「ええっ!? ここまできて撤退するっていうの!?」
サヴァールくんとブルーイくんの言葉にアジーちゃんがそう叫ぶ。確かにここまで来ておいて撤退するというもの、悔しいですね。
「一瞬の内に大ダメージを与えればよいのでござろう?」
ちらりと。今は相棒のフクロウの足に捕まって宙を飛んでいたサザンカさんがこちらを向いた。
――お主ならやれるでござろう? と聞いているかのように。
「もちろん。その通りですね」
その目線ににっこりと笑顔を返しましょう。実は先程、やろうと思っていた手ではあるのです。出し惜しみせず、さっさと使ったほうが良かったですね。
「……あはは。確かにそうだったな。アジー! 準備しろ!」
「クロエさんのあれが見れる? よっしゃー分かったー!」
「……しかし、効果時間を考えるとしっかりとタイミングは合わせねばならないでござるな」
「時間管理は必要ですね。宝玉の破壊タイミング、詠唱時間、能力変化の効果時間、それらがしっかりと噛み合っていないといけません。……オリヴァーくん、あなたの声は先程からよく通る声でしたね。タイムキーパーをしてください」
「それは嫌味かよ? まぁもちろんだ。戦闘以外で俺にできることならやるに決まってるだろ」
「ゴーレムの抑えは僕たちに任せてくれ。いくぞ、ライト」
「えっ、おう。いや待て何の話してんだ? くそっとにかく俺をまた巻き込むんじゃねーぞ!」
「回復は僕に任せて。あっでもクロエさんの方まで手が回らないかも」
「そこはご心配なく。……ニル、ちょっと手を貸してください。ポーションをお願いしますね」
ニルにポーションを手渡しながら相談し終え、皆はそれぞれの役割をしようと動き出していく。
――さて。無敵のボスを倒しに参りましょうか。
「じゃあ行くぞ、三十秒前!」
オリヴァーくんがそう叫ぶ。カイルさんとライトくんがゴーレムを抑えている、その横を風の加護を受けたサヴァールくんが疾走していく。
「今度は両方、しっかり破壊すればいいんだろ?」
手にした弓に矢をつがえ、走りながら打ち出しました。その矢は疾風を纏い、赤の宝玉を破壊。そのまま青の宝玉も壊してく。彼が目指した場所は二つの宝玉が並ぶ真横。赤と青の宝玉を同時に狙える射線上でした。
「二十秒前!」
「――《深き闇の力よ》」
言葉に反応し詠唱が開始される。足元に紫の魔法陣が現れ光り輝く。二重詠唱で【黒の紋章】を発動させ私に掛けておく。防御力が下がっていましたが、引き換えに攻撃力が上がりました。
「おい、ゴーレムが!」
魔法陣の魔力に反応したのでしょう、ゴーレムが私に向かってこようとしています。やっぱり、この魔法のヘイト値は相当高いようですね。
「この先には絶対に行かせない!」
カイルさんがすぐさまゴーレムの前に立ちはだかり、挑発スキルを使ってヘイトを稼ぎました。さらに【ブレイブアーマー】を使ったようですね。青く輝く光によって今はあのカイルさんは、何者も通さぬ強固な壁となりました。
「十秒前!」
風邪引き薬を飲んで【風邪】を、【きめ細やかな砂】で【目くらまし】の状態異常を追加。これで【闇の代償】の効果を受けた異常は二個。まだまだですね。まだアレを飲んでませんから。
【暗黒スープ】を取り出して一気に飲み干す。近くで見ていたアジーちゃんの表情がすごく嫌そうでした。これ、慣れると大丈夫ですよ。味がしなくなりますから。
これにて【腹痛】【高熱】【衰弱】【虚弱】【鈍足】【めまい】【飮食無効】が追加され状態異常の数は九個。以前のウィラメデスの時に比べればちょっと少ない。アジーちゃんに状態異常をつけてもらえばよかったのですが、生憎と今はパーティメンバー同士で味方の攻撃が当たらないんですよね。ダンジョン内で抜けたりもできません。
でもこれで十分です。私の準備はこれで終わりました。
「五秒前!」
「ライト!」
「おう!」
ゴーレムの後ろに回ったライトくんが【ライト】の魔法を扱いました。ダジャレを言ってすみません。でも今はあなたの生み出した光によって、ゴーレムの影が伸び私にかかりました。闇魔法は影ある場所、暗い場所では効果が高まりますからね。
「あとは拙者たちでござるな!」
「じゃあ行くよー!」
逆光を利用し、ゴーレムの死角から【マジックアーマーブレイク】の攻撃を加えたサザンカさん。それによってゴーレムに【魔法防御低下】の状態異常を付けてくれました。続いてアジーちゃんも【マジックアーマーブレイク】でさらに【魔法防御力低下】の状態異常を重ねてつけてくれました。
さぁいつもの行きましょうか。でも今回は少し違うんですよ。
「我が新しき闇の魔法をお見せしましょう。偉大なる闇の力よ……我が敵を打ち砕け! ダークネス・クラッシュ!」
闇が銀のゴーレムを包み込む、そして次の瞬間。闇は圧縮された力を解放させ爆発し、ゴーレムを飲み込んでいく。
【闇魔法】がレベル30になった時に覚えた技【ダークネス・クラッシュ】。一体だけを対象に、高威力の闇属性魔法の攻撃を与えることができます。
「よし!」
しっかり敵の弱点も狙いました。皆の協力もあってか、とてつもない数値のダメージが出ている。これならゴーレムも倒せましたね。
「さっすがクロエさんの魔法だね! ボスも一撃で……えっあれ? まだ残ってるよ!」
「嘘でしょ!?」
なんてことでしょう。ゴーレムの体力、残りわずか残ってしまいました。全損させたと思ったのに!
「まだだああああ!」
その時でした。上から声が聞こえて、何かが落ちてきた。あれは……ライトくん?
いつの間にあんな上空に……あっ、さっきの私の魔法にまた吹き飛ばされたんですね。
吹き飛ばされたライトくんは、落下の勢いを利用して銀のゴーレムに大剣を突き立てました。
『――しんにゅう、シン、――シシシ――――ッ――』
銀のゴーレムが断末魔のような、狂った機械音を残して倒れていく。HPはゼロ。
どうやら今度はしっかりと倒せたようですね。
「これで終わりだよね? ねっ? やったー! ライトくんありがとー!」
「へ、へへ……」
「うむ、最後の一撃はよかったでござるよ」
ゴーレムの亡骸の上に倒れ込んだライトくんに向けてアジーちゃんがそう呼びかけ、サザンカさんが助け起こしに上に向かっていく。
「よくやったね、ライト。もちろん、クロエもお疲れ様。ありがとう」
「そういうカイルさんもお疲れ様です。敵を倒せたのも皆さんのおかげですね。私一人じゃ無理でしたから」
ニルから回復ポーションを貰ってなんとか生きながらえて、カイルさんにそう答える。実際、私一人ではこの銀のゴーレムを倒すことは出来なかったでしょう。
「はぁー……疲れたなぁ。誰も欠けないように回復管理するのほんま疲れるわ……」
「お疲れ様、ブルーイ。……口調が戻っていますよ」
「そういうお前もな、サヴァール。おう、おつかれ」
ロールプレイを忘れてブルーイくんとサヴァールくん疲れた表情を見せつつ、お互いを労っていました。この作戦、誰か一人でも欠けていたら上手くいかなかったでしょう。
「みんなお疲れ様ー! いやぁ、いいもの見させてもらったぜ」
安全な場所から見ていたオリヴァーくんがそう言って近づいていくる。彼の姿に戦闘が終わったと改めて思い、ほっとしたように力が抜けていくのを感じました。
『……仲間というのは頼もしく、そして良いものだね』
『ええ、本当に。そうですね』
肩に乗ったルシールさんと共に周りを見る。今回のパーティメンバーはとても良い仲間でしたね。