104・意外と不器用
それからの探索は順調でした。一層目から二層目に続く階段を発見し、さっそく二層目へ。出てくる敵はゴーレムと、ストーンローラーに似た魔物。それからコウモリの魔物もいました。しかし、危なげなくすべてを倒していきました。たまに私が出る幕もなく終わる場合もあったくらいです。
二層目ではドロップ品がちょっと良いものが当たるようになりました。【強化魔石】と【損傷したコア】。強化魔石は武器などを強化できるそうです。三十レベルからの武器限定らしいので、今の武器には使えませんけど将来使うことになりそう。
【損傷したコア】。ルシールさんの話ではこれを集めれば、新たにコアを作り出せるかもしれないと教わりました。これを使えば、インスタンスなゴーレムではない、ちゃんとしたゴーレムが作れるわけですね! 今の所一個しか手に入れられていません。なかなかドロップしないんです。
あとは【修理魔石】。鍛冶屋などに行かなくてもこれを使えば装備品の修理ができます。とても便利ですね。こっちもあまりドロップしないけど。
それにしてもマッピング速度が早い。進まなければ当然マップに地形などが表示されません。通常であれば自分の範囲から一定数先が分かる程度ですが、今回はその範囲が広がっている。……この効果をもたらしていたのはどうやらサザンカさんでした。
「こういった場所の探索は得意でござるゆえ」
聞いてみたらそんな答えが返ってきました。調査スキルでも持っているのでしょう。……それにしても、サザンカさんは一体なんの目的でここに居るんでしょうか。先行させたニルの視界から彼女を観察していますが、特に怪しい行動は見られません。
ただずっと見ていて気がついたのですが、時々笑っている。もちろん表面上はフードを被っていて表情は見えませんし、態度も冷淡なもの。ですが、戦っている時のふとした瞬間や、傍らの相棒に語りかけている時に笑うんです。……キャラはどうあれ、中の人は今の状況を楽しんでいるような気がします。ほら、今も笑いました。
「待て。そこに隠し扉がある」
「本当? どこどこ?」
相変わらず見つけたのはサザンカさんです。そちらの方角を見ましたが石壁しかありません。ですが彼女が壁のとある場所を押すと、石壁が移動し新たな部屋が現れました。
「探索するでござるか? すぐ近くに階段があるが……」
これを前にして無視して移動することができるわけないでしょう。みんなもそうだったようで、結局みんなでその部屋を探索することになりました。
「……これって武器庫?」
狭い部屋の中に所狭しと乱雑に置かれていたのはどれもこれも、武器の類でした。
「どれも古びて錆びちまってる。もう使い物にならねーな」
一つ武器をとって鑑定でもしたのか、オリヴァーくんがそういいます。それにしてもどうしてこんなにも大量の古い武器がこんなところに……。
『ルシールさん、何かわかりますか?』
『ふむ。先程も言ったようにここは災厄時代の遺跡だの。これを見るに、ここは混沌が暴れ回っていた時に作られた砦ではないかと私は思うね』
かつて世界が混沌に覆われた時代がありました。ここにある武器達はその当時の恐ろしさを物語っているように思います。
「ねぇ見て見て! これって宝箱じゃない!?」
「こちらにも一つあったでござるよ」
どうやら武器の山の中に宝箱があった模様。嬉々とした表情でアジーちゃんとサザンカさんが二つの箱を示す。
「あぁ、どっちも鍵がかかってるみたいだな」
「ということではい、サヴァールよろしく~! 私鍵開けは苦手だからね!」
「わかったわかった。罠は……なさそうだな。そっちの箱はお前に任せていいな?」
「……了解したでござる」
サヴァールくんとサザンカさんはピッキング用具を取り出して、宝箱の鍵開けに挑みました。
「アジーちゃんは鍵開けが苦手なんですね」
「うん、あれって繊細な作業だからさ、私には全然無理なんだ。でもサヴァールはすごく得意でね! 私なんてすぐ道具をポキってへし折って――」
――カチャン。
――ポキッ。
同時に二つの音がその場に響く。一つは解錠したような音。もう一つは何かがへし折れた音。
サヴァールくんの方を見れば、オレじゃないというように首を振る。ならばと隣を見る。
「サザンカさん……?」
「ちょっと手が滑っただけでござる」
手に折れた道具を持って、なんでもないようにサザンカさんが言う。また鍵開けに再挑戦したサザンカさんでしたが……。
――ポキッ。またしても響いたのは折れる音。
「おい、オレが開けるから代われ」
「……面目ないでござる」
若干肩を落として、サザンカさんが宝箱の前から離れていく。
「意外ですね。こういったことは得意なものだと思いましたが……」
「こういった細かい作業は苦手でござる。正直いえば、罠の解除も怪しいのでござる」
「えっ私でも罠の解除ができるのに!?」
細かいことが不得意なアジーちゃんですが、それをさらに上回る不器用な人がここに居たようですね。
「今まで罠を見つけた時、どうしていましたか?」
「どうしても罠が発動する場合は、踏んで罠が発動する前に全力疾走で通り抜けたりしたでござる」
ずいぶんな力技ですね。でもこの人ならできそうだと思ってしまいました。
「よし、こっちも開いたぞ」
たった一回で宝箱の鍵を開けたサヴァールくんでした。さて、その宝箱の中身を確認しましょう。ちなみに宝箱は二つですが、それぞれ人数分の中身が用意されています。二つの宝箱を開けるとどちらも小さな球体の宝石は入っていました。
「こいつは【マジックジェム】か」
「マジックジェム?」
「このまえのアップデートで追加された新しいアイテムだな。武器とか防具とかアクセサリーに付けられるステータスを少し上げる魔法の石。アクセサリー職人として宝石を扱うし、俺はこれの職人も兼任しようとか思ってるよ」
オリヴァーくんがそう言ってニヤリと笑う。武器などにマジックジェムをセットするスロットがないと使えないので、今の装備では使えません。ですが今後のために覚えておきましょう。
一応、宝箱から出たマジックジェムの効果を確認しておく。物理攻撃力上昇に……敏捷上昇……うわっいらない。敏捷はまだしも、物理攻撃力はいりません。私に杖で殴れというのですか?
「魔法攻撃力かよ……いらねぇー!」
「いやいや、それめっちゃ当たりじゃないですか!」
「えー俺剣士だし。魔法は確かに使うけどそこまで……」
「なら、私の物理攻撃力上昇と交換しましょう?」
「ほんとか! やったぜ!」
そんなわけでライトくんと交換しました。その場で他の人達も交換し始める。みんな、自分にとっての当たりを引かなかったんですね……。その流れでサザンカさんから敏捷上昇を魔力上昇と交換しました。
その後、武器庫を後にして私達は次の階層へ向かいました。