102・パーティを組みましょう
さっそくイルーの鉱山街にやってきました。
ここへ来る前に、ルシールさんに小言を言われましたけれどね。
もちろん彼女の言う通り、守護者という役目を忘れたわけではありません。ありませんが……前々からそれ相応の実力が必要だと私もルシールさんも感じていたこと。
これは私が守護者たり得るために必要なことなので、ルシールさんも本気で反対しているようではありませんでした。
一応、留守番をアールに任せてきました。人が全くいないよりはましですし、私のログアウト中は常にこんな感じでしょう。何かあれば飛び戻ります。
「この前よりはだいぶ綺麗になりましたね」
「うむ、それに住人たちの顔色もよい」
洞窟を抜け見下ろせる位置から見たこの街は、初めて見た時と変わってしまいました。それも前回のウィラメデスが暴れた爪痕がまだ残っているのです。魔獣によって踏みつぶされた家屋などがよく見えました。
街は復興作業真っ只中。しかし出歩く住人の表情はそこまで暗くない。スワロ王国の王子が主体となってこの街の復興に力を注いでいたり、建物の建て直しをしにわざわざやってきた職人プレイヤーたちやボランティアプレイヤーなどもいるそうでかなり復興スピードは速いのだとか。
そして極めつけは新しいダンジョンの発見。これ目当てに集まるプレイヤーたちもいて、復興中ながらイルーの街は活気づいていました。
この前来た時よりも明らかに多い人々の往来に流されながら、たどり着いたのはこの街の中心、地下鉱山へ続く入り口です。入り口はぽっかりと空いた大きな穴で、その先も同じように続いていました。ここからウィラメデスが地下から出てきたわけですから、これくらいの穴は当然空きますよね。
大穴の前は多くの人達でごった返していました。つるはしを持った作業者の姿も見えますが、圧倒的に多いのは武装した人たち。明らかにダンジョンに挑戦しに来たプレイヤー達ですね。
「うちのパーティではあと二人回復職を募集しています~!」
「前衛職募集中だ! 魔法使いと回復はいるぞ!」
「俺盗賊系スキル使えるから誰か拾ってくれー!」
ここは臨時のパーティー募集場にもなっているのか、そこかしこから募集の声が聞こえてきます。イルーのダンジョンは最大八人で挑むことができるそうで、人数が多ければそれだけ敵も強くなりますがもらえる経験値もドロップする物も良くなるとか。
そうなると私もパーティを組んで挑んだほうが良さそうですね。ソロでも挑戦可能ですが、多人数用に調整されたダンジョンです。一人で挑戦するというのはなかなか厳しいというもの。それに詠唱を必要とする魔法使いですからね。あぁ、魔女でした。
「すげー見覚えのあるとんがりが見えるんだが……」
……誰がとんがりですか。確かにとんがった魔女帽子を常にかぶっていますけれど!
「あら、とても見覚えのある人がいますね。以前とお変わりが全くないようでなによりです、ライトくん」
「全く変わらないことないだろうが。よく見ろよ、装備は新調してるだろ」
声のしたほうを振り返ると、そこにはむすっとした表情をしたライトくんがいました。装備は確かに変わっているようですが、彼本人はあまり変わっていないようです。その隣にいる人も。
「そういうことを言っているんじゃなさそうだけど……まぁ言わないほうがいいか」
「お久しぶりですね、カイルさん。あなたも相変わらずのようで……」
「どうもお久しぶりです、クロエ」
少し困ったように微笑んであいさつを返すカイルさんの姿もあります。
二人はどうやら私と同じくダンジョンの噂を聞きつけてやってきたそうです。彼ら二人はすでに王都のほうまで足を運んだそうで、そこで噂を聞いたのだとか。
「王国騎士団の入団試験を受けるにはまだ実力が足りないようでね。ここで腕を上げておこうと思って」
そういえばカイルさんって父親と同じ騎士になりたいと言っていましたね。
「こっちの剣は手がかりなしだったけどな」
肩を竦めてライトくんがそういう。剣の行方を知っていそうなツバキさんの行方も見つからないそうです。対して赤フードは最近よく見かけるそうですが出てくるのは下っ端か、勝手に名乗って暴れてるだけの異常者くらいなもので、彼らに繋がる有力な情報がまったく手に入らないようでした。
「たくっこの前ここで散々目立って暴れてたってのに、今じゃ影も形も見せねぇんだ。クロエ、お前は何か知ってないか? なんでもいいんだか」
「私も知りませんよ」
実はリアルの友人がイグニスたちのところにいるだとか。この前、直接会って話をしただとか。そんな話は今回の件には関係ない話ですからね。というかクロエがそんなこと知ってるわけがないわけで話しようがありません。
「……ほんとに?」
「本当です。なーんにも知りませんよ。むしろ私が教えて欲しいくらいです。私にとってもアレは潰しておきたい存在なのでね」
「わかったから、怖い顔で俺を睨まないでくれよ」
思い出したくないものを思い出したようにイライラした態度で、知らない演技をする。見つけたら速攻潰しにかかりたい所ですね。
「それで、クロエもここのダンジョンに挑戦しに来たんだよね。なら僕たちと一緒に行かないか?」
「こちらも誰かと一緒にと考えていたので、ちょうどいいですね」
「なら後五人か。このメンバーだと斥候役と回復役が必ずいないとダメだろうね」
斥候役は敵の発見はもちろんのこと、罠の発見の解除や扉の鍵開けなども含まれます。いわゆる盗賊ですね。回復役は言わずもがな。
盾役はカイルさんがすでに居て、前衛後衛火力職としてライトくんや私がいるので問題はなさそうです。
「最悪、回復役は僕が兼任できるけど……専門じゃないからあまり期待しないでくれ」
カイルさんは回復魔法が扱えるそうですが、回復量はやはり専門職に比べると劣るのだとか。サブヒーラーとしてならいいでしょうが、メインヒーラーとするわけにはいきませんね。盾役でもありますし。
そんな条件で私達もメンバー募集をし始めました。……ですが、なかなかやって来ない。とくに回復職はどこも募集している。引く手あまたですね。
「サヴァール、こっちこっち! あの人達の募集条件よさそうだよ! ってあれ?」
「アジー引っ張るなって――あれ、この前の……」
人混みの中からこちらに向かって飛び出してきたのは、猫耳の少女とエルフの青年でした。カイルさんの声を聞きつけてやってきたのでしょう。それがまさか私達とは思いもよらなかったようで、二人して驚いた表情をしていました。
「これはこれは。サヴァールくんにアジーちゃんではありませんか」
「ど、どうも、クロエさん」
……目が合ったアジーちゃんは、サヴァールくんの背に隠れてしまいました。まだ私は怖いですか。
「二人とも待ってくださいよ! 僕たちを置いて行かないでください!」
「いつにも増して人が多いったらありゃしねぇぜ」
その後二人を追いかけるようにしてドワーフの青年達が出てきます。錫杖を手にした神官のドワーフはブルーイくんで、職人風の出で立ちでつるはしを背負ったのはオリヴァーくんです。
「ブルーイくんにオリヴァーくんとは……あなた方が一緒とは珍しい組み合わせですね」
「これには色々事情があってな」
苦笑しながらサヴァールくんは話してくれました。なんでも、前回の件でオリヴァーの物を盗んだ彼らは、その件に対して罪滅ぼしなのかオリヴァーくんの頼みを手伝うことになったそうです。
「つくづく盗賊には向いてない人たちですね……」
「ふっふっふっ……確かに私達は名の知れた盗賊団だったわ」
「いや、そこまで名は知られてないからな?」
「……えっうそ。まじで?」
「僕たち失敗続きだったでしょう?」
ブルーイくんの言葉に頷いたサヴァールくんを見て、アジーちゃんは落ち込みながらもまた話をし始めました。サヴァールくんの背に隠れながら。
「……し、知る人ぞ知る盗賊団だったわけだけど、私達は盗賊業からもう足を洗ったのよ! これから義賊として、困った人たちを助けるための新しい活動をし始めたの!」
「そんなわけで、数少なくない前科を無くすためにこうして活動してるわけさ」
その内容がオリヴァーくんと共に今回現れたダンジョンの攻略だった、ということらしいです。オリヴァーくんは職人として今回のダンジョンに行きたかったようです。
「でもな、専門の職人を入れてくれるようなパーティはなかなか無くて。困ってたところにこいつらが来たからちょうどいい良かったよ」
市場にはダンジョン産らしき原石が流れているそうですが、買うより現地調達をするのがモットーな彼は今回も自力で取りに行きたいと思っていたそうです。自力で採った物のほうがいい物が作れる気がするからとのこと。
「そちらは斥候役と回復役を探しているようでしたね。僕たちと組んでみませんか? 斥候役はアジーやサヴァールができます。回復役も僕に任せてください」
「ただし、職人のオリヴァーも一緒になるがいいか?」
「正直言って俺は戦力外だと思っていいぞ。戦闘は苦手なんでな」
ちらりとカイルさんが私とライトくんを見る。私達は構わないというように頷きました。
「もちろん大丈夫ですよ。これからよろしく頼みます」
「あぁ、よろしく。こっちとしてもありがたいよ。他のパーティには断られ続けたところだったからな」
カイルさんの返事にホッとしたようにサヴァールくんがそういう。確かに戦力外となるオリヴァーくんが一人いる状態で、攻略を目的とするパーティに入るのはなかなか難しいですね。
「これで七人だね。最大人数は八人だけど……」
「まぁこれでいいのではありませんか。必要な職も揃っていますし――ん?」
何やら視線を感じる。というより、ルシールさんの気配察知に何か引っかかった模様。肩のニルも警戒した様子でその方角を睨んでいる。
人混みの闇に紛れるようにしてこちらを見ている人がいました。マントを羽織っていて、フードもあるため顔の区別は分からない。一つ分かるとすれば、ニルと同じトワイライトオウルを連れていること。
……いや、まさか。そんなまさかなことがあるわけないですよね。あぁでもどうしましょうか。ルシールさんの気配察知に引っかかったということは当然、クロエもその存在にはしっかり気付いているわけで。
『クロエ、あやつはどうする?』
『……とりあえず、放っておきましょう』
その正体までは……そうですねまだ気付いてないでしょう。ということで怪しい存在に警戒しつつ、とくに触れないでおきましょう。
「さぁメンバーも揃いましたしさっそく――」
「失礼、まだメンバーの募集はしているでござるか?」
うわっ。後ろから声がかかってびっくりしちゃいましたよ。だってまさか声かけてくるなんて思わなかったんですから! 振り返るとそこには案の定、人混みの中から私達を見ていたマントの人がいました。
「まだあと一人入れますよ」
声をかけてきた人にカイルさんが対応します。その対応は初対面に対するものですね。特に警戒した様子もありません。
「では、拙者を入れてくれないだろうか? 斥候はもちろん、前衛もできる」
「あぁ、もちろんいいとも」
「感謝するでござる。拙者は……サザンカでござる」
えっ本当に入ってきちゃうんですか、ツバ……サザンカさん。しかし、なんでこんなところにいるんですか……。
「サザンカだな、俺はライトだ。よろしくな!」
……ライトくん、あなたがずっと探していた相手が今目の前にいますよ? どうやら彼はまったく気がついた様子がありません。
「よろしくねー!」
「あぁ、よろしくな」
「よろしくお願いしますね」
アジーちゃんたちも元気よく挨拶を……いや元気がいいのはアジーちゃんだけでしたか。二人はちょっと眉を顰めていた様子。それはフードを羽織った怪しい風貌に対してかそれとも……。
このパーティ、大丈夫でしょうか。ちょっと先行きが不安になってきました。