1・ようこそSSOへ
――二つ目の物語を求める人へ。
畑を耕し日々を精一杯生きる村人。
人々を救う希望の勇者。
恐怖を振りまく恐ろしい魔物。
圧倒的な力を持つ絶対的な魔王。
ただ見ていただけの存在。けしてなれないと思っていた存在。
そんな存在に憧れたことはありませんか?
この世界ではどんな存在にもなれます。
貴方の理想をこの世界が叶えてくれます。
さぁ貴方の二つ目の物語を今始めましょう。
他の誰でもない、貴方だけの二つ目の物語を。
貴方が紡ぎ出す物語が【Second・Story・Online】の歴史となるのです――
SSOキャッチコピーより。
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【Second・Story・Online】というVRMMOを知っていますか?
知りませんか……まぁ無理もありません。私もついこの間のCMで知りましたから。
今やVRという技術は一昔前と違い、さして珍しいものではありません。街にはARによるホログラム看板があり、人型のロボットがいたり、軌道エレベーターがあったりするこのご時世ですからね。
その中のVRMMOのオンラインゲームというものも、ありふれているようです。
世界中でありとあらゆるVRゲームが乱立しており、競争が激しく数多のゲームがやむなくサービス終了してしまったとか。
まぁ今では落ち着いた、らしい? ……すみません、最近のゲーム事情には詳しくなくて。
そんな中でまた新しくサービスが始まったのがこの【Second・Story・Online】。
通称【SSO】というらしい。
ベータテストを終えて本サービス開始から一ヶ月経つこのゲームは、ドが付くほどにストレートなファンタジーゲーム。過去に数々の名作を手掛けた大手海外ゲーム会社のNR社が、満を持して世に送り出したのがこのゲームらしいです。
その分期待度は高かったようですが……ベータテストに参加したプレイヤーからの評価が今ひとつ。
そしてサービス開始から一ヶ月経った今でも変わらない。
同じようなゲームをやるなら他のVRゲームをやったほうがいいと言われてしまうほど。
そんなゲームを私は今からやろうとしています。
どうしてこんなゲームをやろうとしているかって?
――簡単な話です、私はこのSSOの魅力に惹かれたからでしょう。
なんとなく暇でボーと見ていた放送番組。
昼時のバラエティ番組を見ていた時。
今年の夏の海水浴特集なんてことをしていた次の瞬間、あのSSOのCMが流れた。
VRゲームのCMなんていくつも見ていた。
だからあーまた新しいゲームが始まったんだって程度で記憶の端にすらいかず、忘れるはずだったのですが……そのCMは私の脳裏に強く焼き付いたんです。
『畑を耕し日々を精一杯生きる村人。人々を救う希望の勇者。恐怖を振りまく恐ろしい魔物。圧倒的な力を持つ絶対的な魔王』
ナレーションと共に場面がいくつも切り替わる。街を歩く住人たちの姿から剣を手に街の外に歩いて行く人。
外に出て魔物と戦っていたと思ったら、今度は人ではなく魔物をカメラは追っかけていく。
そして場面を移して勇者らしき人と魔王らしき存在が対峙する。
剣士が剣を振り上げ、僧侶が傷を回復する。盗賊が闇から現れ敵を討つ。
『ただ見ていただけの存在。けしてなれないと思っていた存在。そんな存在に憧れたことはありませんか?』
そして魔法使いがド派手な魔法を披露した。
『さぁ貴方の二つ目の物語を今始めましょう。他の誰でもない、貴方だけの二つ目の物語を。貴方が紡ぎ出す物語が【Second・Story・Online】の歴史となるのです』
最後にタイトルと第二期新規プレイヤー募集受付開始の文字が残されていました。
三十秒のCMはすぐに終わり、次のCMに移り変わる。
そこからの私の行動は早かった。何かに取り憑かれたと誤解されかねないほどに、それはもう超スピードでSSOの公式サイトを開いて募集受付の所をクリック。
そして晴れて厳正なる抽選(CM効果か評判に関わらず制限を超える募集が来たらしい)をくぐり抜けた私は、SSOに今からログインするわけです。
VRというものは初めてではないけど、VRゲームは初めてですね。
いや、ゲームなんてもう何年前にやったきりでしょうか?
それなのに私は今からSSOをしようとしている。しかも前評価の低いゲーム。
いい年して今更ゲームなんて……と思いましたが、あのCMを見た瞬間に湧き上がった思いが抑えられなかった。
長年思い描いていた夢が、理想がこのゲームで実現するかもしれないから……理想の魔女になれるかもしれないから。
そう、私は魔女になりたいんです。
昔話でよく悪役にされたり、主人公を助けるお助けキャラだったり。
どんな立場でも魔女は魔女。私はそんな彼女たちに憧れのようなものがあった。
だからあの言葉を聞いた瞬間、これはいい機会だと思いました。同時にいい暇つぶしを見つけたとも。
先行組と一ヶ月期間が空いているようですが、私はガチプレイヤーではないので。
私の目的はただ一つ。ずっと忘れていた夢――魔女になる夢を叶えに行くのです。