#48
一体何がどうなってこうなったのか。
俺は一頭の白馬にまたがり、まっすぐに塔の跡地を目指している。
そして、俺のすぐ目の前では七歳の女の子――このディアマント王国の女王エーデ陛下が手綱を握っている。ちょうど俺の顔のすぐ下に、略式の王冠を被った小さな頭がある。
そしてその後ろからは、重装軍馬にまたがった近衛騎士たちの頼もしい姿がある。騎兵槍を構えた重装の騎士たちが四十騎も並んで走る姿は壮観で、これだけ揃えば相手がいかにアストラルガード完全体であろうと押し潰せるのではないか、という気分になってくる。
「この者たちは王国の誇る精鋭だ。武芸は言うに及ばず、限りはあるが魔法すらも操る。そなたと行動を共にするという『放浪の騎士』にも負けぬほどの者揃いと確信しておる」
「そ、それは頼もしい限りです……」
確かにグローリアが四十人も揃えば向かうところ敵なしという気もするが、しかし女王は事態を決して楽観視はしていないようだ。
「とはいえ、そなたの話を聞く限り、力を束ねれば勝てるような相手ではなかろう。城下町の民の避難、並びに他の対抗手段を見つけ出すまでの時間稼ぎが関の山であろうな」
――この国の女王は七歳であると聞いていたはずだが、一体どこで情報を間違えてしまったのか。見た目だけなら確かに七歳くらいに見えるので、そこから来た情報が元になって行き違いが生じているのだと俺は信じることにした。
「凪の塔さえ無事であれば、対抗する手段もあるにはあったのですが……」
「あの塔は、極めて強力な封魔力を持つ宝玉を活性化させるための装置であると聞いた覚えがある。人の力のみで発動させるのは不可能であるからこそ、あのような装置を拵えたとハイドリッヒは申しておったな」
そんな会話を交わしているうちに、俺たちはリュネットたちがライナスと戦っている現場に戻ってきた。
地面は見事なまでに荒れ果てていたが、どうやらこれはリュネットが意図的に掘り返したもののようだ。おかげでライナスはほとんど前進できていないが、しかしどう見てもリュネットは疲労困憊で、いつ倒れてもおかしくない顔色をしている。グローリアも、ハルバードを杖にしてようやく立っているような有様だし、ディーノに至っては既に力を使い果たしているのか、まるで魂が抜けたような顔で地面に崩れ落ちている。
「皆の者ご苦労であった! ここから先は余と近衛騎士隊が引き継ぐ! 近衛騎士隊、構え!」
よく通る声で叫ぶエーデ女王陛下の馬から飛び降りると、俺はリュネットたちの元へと駆けつけた。
「ピエトロ凄いです……まさか女王陛下を動かすなんて……」
リュネットに感心されるのは正直悪くない気分だったが、今はそんなことを気にしている場合では無い。
「その女王陛下から聞いたんだ。凪の塔は――」
そうして先程の話を伝えると、リュネットの瞳に灯がともった。
「――掘り起こしてみましょう。もしかしたら、何かに使えるかもしれません」
ディーノの世話をグローリアに頼み、俺とリュネットは塔の一階部分の残骸に駆けつけた。
「このどこかに宝玉が……」
「掘り起こす時間が惜しいです。吹き飛ばします」
リュネットが杖を掲げて呪文を唱える。途中でふらついたように見えたので、俺が慌てて背中を支える。
魔法自体は安定して発動し、竜巻が瓦礫を次々と吹き飛ばしていく。しかしその中にありながら、一部の瓦礫だけが、まるで風自体が届いていないかのようにしぶとく居座っている。
「あそこだ!」
俺はそこに駆け寄ると、残った瓦礫の中央部付近に手を突っ込み、奥から人の頭くらいの大きさの水晶玉のような物体を掘り出した。
触った瞬間、確かにこの宝玉で間違いない、と確信した。なぜなら、あの塔の中にいた時ほどではないにしろ、これに触れている間は、力を封じられる感覚がしっかりと伝わってくるからだ。
リュネットは宝玉をしばらく間近で観察していたが、やがて決意したように頷いた。
「これなら、何とかなるかもしれません」




