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#42

「あたしは……あたしは猛烈に感動してるっ!」

 ドラゴンの背の上で、グローリアは涙を流さんばかりに――いや、実際に涙を流しながら感極まっている。

「ドラゴンにまつわる騎士の浪漫エピソードは色々あるけれど! やはりドラゴンの背に乗って空を飛ぶというのは! まさに極みの中の極め付け!」

 そう暑苦しく語るグローリアは置いておいて、俺が周囲を見渡してみると、眼下には霧に覆われた森がどこまでも広がっている。さすがにこの高度にまでは霧は広がっておらず、夕暮れの空をかなり遠くまで見渡すことができるが、鳥らしきものの影は一つも見当たらない。

「どうやら、周囲はものすごい乱気流が吹き荒れていて、とても鳥などが飛べるような状況ではないようです。魔境の空はどこもこんな感じなんでしょうか?」

 ディーノの質問に、ドラゴンは律儀に答える。

『五百年の過去より、この大陸の空は常に荒れ狂い、我の他に空を駆ける者無し』

 それだけの気流なら、こうして背中に乗っているだけで飛ばされてもおかしくなさそうだが、おそらくドラゴンが何らかの力で気流を制御しているのだろう。

「それにしても、どうしてここまでしてくれるのですか? 大変ありがたいのは確かですが」

 リュネットのその質問ももっともだ。

『一つは、我を解き放ったことへの感謝より。いま一つは、かの星幽の衛士のため。あれは必ずや止めねばならぬ』

「で、結局どうやって止めるんだ? ただ逃げ回っても数か月以上かかるんだろう?」

「逃げ回る方法は不可能です。儀式魔法の効果が切れるよりも先に、おそらく新しいひび割れができて広がり、そうなれば再び儀式魔法の進行が始まるでしょう」

「うわぁ……そもそもあのひび割れって何なんだ? 星幽の門、とか言ってたけど」

『……かつて、かの都の者どもは、太陽の力を神の恵みとして求め、力として用い栄えた。だが、いずれ一つの真理に至る――夜空に輝く無数の星々、これと我らが太陽は本質として等しきものであると』

 ここまで言われると、何となく話の続きは想像がつく。

『真理に至りし者どもは、更に力を用いる術を磨き高めた。星幽と名付けられしその力により、多くの物が生み出された。永久に回る歯車、夜闇を遍く照らす光、そして真に無敵なる衛士――』

「その衛士というのが、リュネットの言うところのアストラルガードのことか」

『然り。人は更なる力を求め、それ故に星幽の門を作り出した。数多の星への架け橋より、より強き力を得るべく――されどそれは力のみならず、異なる星の異なる理をももたらす諸刃の剣。太陽の理により生まれし大地の生きとし生ける者に、異なる理は大いなる歪みを与え――高潔なる衛士は狂気に堕し、都は狂気の刃にて血の海に沈んだ。星を操る叡智を失い、もはや歪みを止めること叶わず、大陸の文明は滅びを迎えた』

 その説明を聞いて、リュネットは実に納得が行ったというふうに頷いた。

「あの儀式は、数多の星々から力を得るものでしたが、本来ならば最も近い星である太陽から大半の力を得られるものだったのでしょう。ですが星幽の門の存在により、逆に異なる星の力が多くを占めるようになり、しかしそれは太陽の下で生み出された人類はうまく適合しなかった……そう考えれば、今回の儀式魔法があのような結果を招いた理由も理解できます」

「つまり、あの星幽の門がある限り、その儀式魔法とやらは絶対に成功するはずがなかった、ってわけか」

 そもそも、儀式魔法の意図的な改竄に気付くほど優秀な魔法使いであるリュネットが、被験者を暴走させるような失敗をやらかすのもおかしな話だとは思っていたが、そういうことなら非常に納得が行く。


 そんな会話を繰り広げつつも、俺たちが数日かけて歩いてきた距離を、ドラゴンはわずか二時間ほどで駆け抜けた。

 力強く羽ばたく翼は、西大陸と中央大陸を隔てる海峡を容易く飛び越え、更に東に向かって突き進んでいく。

 俺たちが「平和的に進むことのできる範囲で可能な限り東」ということで選んだ降下点は、あの情報屋のあったガラの悪い街の近くだった。

 ディーノによると、ここを超えて更に東はディアマント王国の領地となり、空に対してもそれなりの警戒が行われているという――魔法により召喚された存在による、空からの軍事的侵犯は日常茶飯事だからである。リュネットが俺を連れて塔の上から『翼』で飛び立った時、騎士たちがかなり正確に俺たちのことを追って来ていたのも頷ける話だ。

 こんな目立つ上に恐ろしげな存在が上空に迫れば、間違いなく軍が大慌てで動き出すだろう。

 地上に降り立った俺たちはドラゴンとの別れを惜しみつつも、まずは疲労困憊状態の心身を癒すため、金に糸目をつけずに個室風呂付きの宿を取った。

 そして日が沈む前に再び例の情報屋に向かい、現在の状況を訊ねる。どうやらリュネットにかけられた賞金は既に最初の倍である十万近くに跳ね上がっているが、逆にそのことによって二の足を踏む賞金稼ぎが多くなっているという。更には「あの」グローリアが護衛に雇われているという噂も広まったことで、今ではよほどの命知らずの馬鹿でなければ首を突っ込まない状況になっているらしい。

 代わりに、ディアマント王国国内では、ついに騎士たちに極秘の指令が下され、リュネットの捜索が広く行われる事態になっているという。ただし、それぞれ出所が異なる命令が混在しているため、それによりあちこちで騎士同士の小競り合いが起きており、まともに捜索ができているのかは怪しいと言う。

 そしてこれは先程届いたばかりの情報だが、二日ほど前にウエストエンドにある魔境への門が何者かに力ずくで破壊され、突破されるという事件が発生したらしい。時期的に考えて完全にあのライナスの仕業に間違いないだろう。

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