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#39

 後には、ただ不気味なほどの静寂が戻っていた。

 俺は何とか身体を起こし、リュネットの魔法の標的になった地点に視線を向ける。

 そこは大地が完全に陥没していて、すり鉢状の窪みになっていた。その縁のあたりでは、目を回したグローリアが凄い恰好で倒れている。

 そして陥没した大地の中心には、ドラゴンの巨体が横たわっていた。頭の一部分の鱗が深く削れた上に周囲が真っ黒に焦げているので、おそらく天から降り注いだ星はそこに命中したのだろう。

 あんなものの直撃をくらって原型を留めている、という時点でにわかに想像しがたいが、しかしその認識はまだまだ甘かったことを知ることになる。

 一時的に気を失っていたらしいドラゴンが、ゆっくりと目を開いたのだ。

『……我を地に平伏させるとは。だが』

 しかし、それ以上言葉を続けるよりも先に、いつの間にか窪みの縁にまで近づいていたリュネットが更に魔法を発動させた。

「戒めの呪詛より解き放て――《アンティ・カーズ》!」

 リュネットがドラゴンに向けて最初に使った魔法と同じ魔法だ。横たわるドラゴンの下に魔法陣が現れ、光の奔流がドラゴンの全身を包み込むが、あの時と違って今度は踏み砕くことはできないようだ。

 光はしばらくドラゴンの周囲で輝いていたが、やがて何かが砕けるような音がして、辺りは再び静寂に包まれる。


「さて……気分はどうですか、ドラゴンさん」

 リュネットの呼びかけに、ドラゴンはゆっくりと身を起こしながら答える。

『ドラゴンとは我のことか? もっとも、定められた名は無きゆえ、好きに呼ぶが良い……』

 ドラゴンはゆっくり立ち上がると、首を何度か横に振った。頭を含めた全身の傷が淡い光に包まれ、傷つけられた鱗が徐々に再生していく。

「あれだけの傷が……」

 俺が驚愕するのをよそに、リュネットは淡々とした調子でドラゴンに訊ねる。

「ところで、私たちはこの先に進みたいのですが、構いませんか?」

『好きにせよ。もはや我は関知せず』

「えっ? どういうことだ……?

 突然手のひらを返したドラゴンの態度に、俺は何が何やらわからず混乱していた。

「ドラゴンさんがここを護っていたのは、魔法か何かの力で強制させられていたから――と予想していたのですが、どうやら当たっていたようです」

「ああ、さっきリュネットが使ったのは解除魔法みたいなもものか」

「ですが、私の切り札である《メテオ・ストライク》が直撃してその程度とは……仮に解呪による説得が不可能であれば、正面から戦っても私たちの勝ち目は薄かったでしょう」

『だが、そなたの星落としの力は、我を生み出した古の術師共にさえ使い手の限られし稀有なるもの。一時とはいえ、我が地に伏すなど五百年ぶり二度目のこと』

「ってことは、昔にもあんたを倒せるような猛者がいたってことか? そいつは一度会ってみたかったなぁ」

 グローリアがそう言うと、ドラゴンはグローリアに視線を向けて告げる。

『槍斧使いの娘……そなたを見ると、かの衛士共の在りし日を思い出す。堕ちて後は見る影も失せたが……』

 そこまで言うと、ドラゴンは再びリュネットに視線を戻して訊ねてきた。

『術師の娘よ、そなたはこの先に向かって如何にする? この先にはただ星幽の門があるばかり』

「そういった名前だったのですか……私は門を閉じに来ました」

『無駄なこと。かの門を閉ざそうと、いずれ別の門が開くのみ』

「おそらくは私のせいで、今その門は少しばかり開きすぎています。私の計算では、一度でも閉じることができれば、次に開いたとしても開きすぎる前の程度に収まるはずです」

『……そこまで理解するならば、もはや我に語るべきこと無し。思うがままに――』


 ドラゴンがそこまで言いかけた時だった。

 その場にいた全員が――俺たち四人のみならずドラゴンまでも――異様な気配を感じとり、生存本能の訴えに応じて全力でそちらに振り返る。

 一度吹き飛ばされた後、徐々に戻りつつあった霧の向こうから、蠢く闇をまとった人型の何かが、こちらに向かって歩みを進めてくる。

「あの存在からは、神聖でもなければ邪悪でもない、何というか……この霧が宿している力に近い、僕たち地上の生物とは相容れない、異質な力を感じます」

「こいつがひょっとして、リュネットの言っていたアストラルガードか? まさか本当にこんな所まで来るなんてな……ん? こいつ結局、どっち目当てで来たんだ?」

 俺はそんな疑問を口にしたが、その明確な答えを俺たちはすぐに知ることになった。

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