#35
「なんだよ、そんな呆れた顔して……そりゃあたしなんてキミたちに比べりゃ出来損ないもいいとこだけどさ。けっ、これだからエリート魔法使いサマは嫌いなんだよ」
「……独学で魔法を“派手に暴発させられる”ところまで習得した例なんて、私は聞いたことがありません。もっとも指導者も練習設備も無しで、そこから更に使い物になるレベルまで修練するのは、命がいくつあっても足りないでしょうけど」
「いやその、下手に慰められると余計に辛いんだけど……で、仕方がないからもう一つの道として騎士を目指すことにしたんだ。戦士としての十分な実力と、金さえ積めば手に入る騎士の位。その二つが揃えば、正式な騎士として認められることも夢じゃないって知ったからね。実際に成し遂げた例は多くはないらしいけど」
「……まあ、独学で魔法を習得するのに比べれば、まだしも現実的だとは思います」
「とは言っても、なんだかんだでか弱い女の子の私が、ガチムチ重戦士と正面からやり合うのは、まともなやり方じゃさすがに無理があったんだけどね」
「えっ!? こんなに凄い筋肉なのに……」
「よせやい褒めたって何も出ないぜ。ただ幸運なことに、あたしが独学で覚えようとした自己流魔法もどきも、ある条件さえ満たせば限定的に使い物になるってことがわかったんだ。何だと思う?」
「まさか……射程の無い魔法……自分自身もしくは直接触れているものにかけたりする魔法で、しかも何かを攻撃したり破壊したりするようなもの以外であれば、確かに練習設備無しでも暴走させずに習得が可能かもしれません」
「けっ! あーあーさすがエリート魔法使いサマだよ! あっさり当てやがって」
「あの、自分で言っておいてなんですが、あくまで理屈の上では可能というだけであって……」
「全身の筋力と武器の耐久力を強化して全力でぶった斬れば、大体どんな相手だって真っ二つだ。でもそのままだと手加減ができないから、殺したくない場合は相手の肉体を斬り裂きながら同時に治癒魔法で無理矢理くっつけると、割と安全に相手を無力化できるからとっても使い勝手がいいんだよ。相手が魔境の怪物でもない限りはね」」
「斬り裂きながらくっつける……」
「あ、念のため言っとくけど、これはまさにゼロ秒前に斬り裂いたばかりの“とても新しい”傷だから簡単に治せるっていう、一種のトリックみたいなものだからね。つまりその、なんだ、キミのその痣や火傷を治すのは、さすがに傷が古すぎて無理だと思う。あたしにそれができるだけの実力があれば、ここで恩を売っておくいいチャンスだったんだけどなぁ」
「大丈夫です。いずれ最高位の治癒魔法……失った器官をも再生させる《リジェネレーション》を習得して、自分で治すつもりですから」
「リュネットのそういう姿勢は嫌いじゃないよ。あ、いや、エリート魔法使いサマは嫌いだけどね」
何か妙に慌てた様子で言い直しているのは、グローリアの最後の拠り所か何かなのだろうか。
「そんなわけで、まあご覧の通りそれなりに強くなって、追っ手を力ずくで蹴散らせるようにはなったんだけど、今度は寝込みを襲われたりとか薬を盛ったりだとかそういうのが増えてきて、やっぱり力だけじゃどうにもならないんだな、って実感してるところだよ。教会の仕事を積極的に請けてるのも実はそれが理由なんだ」
確かに、教会の仕事を請けている最中の人間を襲うことは、教会に対する明確な敵対行為とみなされることになる。騎士に喧嘩を売るのとどちらがマシなのかはわからないが――少なくとも契約が切れるまでの間は、グローリアも夜もぐっすりと寝られるだろう。
「うわ、長話してたら指先がシワシワのお婆ちゃんみたくなってきちゃった。そろそろ戻ろっか」
「そうですね。それにしても、今日はとんだ恥ずかしい目に遭いました……」
「そりゃピエトロにあんだけ裸をじろじろ見られちゃなぁ」
「……そういえばそっちの件もありましたね。さて、どうしたものでしょうか」
なんとなく不穏な空気を感じたので、俺はとっととその場から退散することにする。
「おっ? ここで逃げるということは、やっぱりやましいことを……」
そんな声が背後から聞こえてきたが、もちろん事実その通りなので反論などできるわけがない。俺はそう心の中で開き直ると、そのまま全速力で逃げ去った。




