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#24

 高く分厚い市壁に囲まれた都市に辿り着くと、門の前には重武装の兵士たちがずらりと並んで待ち構えていた。

 もしかしたら厳しい検問があるのだろうか、と恐る恐る近づいてみたが、兵士たちは俺たちのことをちらりと見ただけで、それ以上は特に何も追求して来なかった。

 特に何事もなく門をくぐり、石畳と石造りの家が立ち並ぶ街並みに入ると、そこにもやはり多くの兵士たちが、それぞれ二人組から三人組で巡回してる。その密度はかなり高く、街の中で兵士の目の届かない場所は無いんじゃないかと思えるほどだ。

 住民たちも微妙に不安そうな表情だが、これは特に兵士たちのことを恐れているわけでは無いらしい。よく見ると、巡回中の兵士たちは門前の兵士たちと違って、それほど重武装でもないようだ。

 これは思い切って当人たちに訊いてみるしかない。そんなわけで、俺はたまたま目に付いた巡回の二人組兵士たちに声をかけてみた。

「あのー、僕たち今日この街に着いたばかりなんですけど、どうしてこんなに兵士の皆さんが多いんですか?」

 例によって猫かぶり全開で話しかけると、兵士たちは気まずそうな顔で答えてくる。

「やっぱり、よその人から見ても明らかに多いよねぇこれ。でもこれ、よその人に話してわかるのかな……」

「えーとだな、この街には『魔境』に繋がる門があるのは知ってるかな?」

 兵士たちにそう訊かれたので、俺は素直に答える。

「はい、見たことはありませんが聞いたことはあります」

「その門からは、たまに魔境の霧が少しだけ流れ込んでくることがあるんだ。季節や天気によってその量は結構変わるんだけど……」

「どうもここ数日で、出てくる霧の濃さがだいぶ上がってるみたいなんだ。それで念のため、街中の警備を強化しているんだよ」

 兵士の説明に対し、今度はディーノが口を開く。

「霧を吸い続けて、街の人の健康に問題は出ていないんですか?」

「うーん、濃くなったとは言っても、今くらいの濃度ならほとんどの人には影響は無いよ。でも、人によって吸い続けると時々体調を崩したり、精神的に不安定になったりすることもある。君たちも、もしも外出した時にそういう症状が出たら、とりあえず屋内でしばらく休むといいよ。ちなみにマスクはほとんど意味ないからね」

「さすがに魔境の霧そのものを直接吸うと、命に係わる重症になったり、錯乱して暴れ出したりする人も出てくるらしいから、万一君たちが魔境に行くつもりならそれなりの対策……なんて無いから行かないに越したことはないよ、うん」

 そんなことを言われると怖くなってしまうが、グローリアは別のことが気になっていたようだ。

「街中のはわかったけどさ、門の外にずらっと並んでたごっつい人たちは何なの? その割にはあたしらほとんど素通りで入れたけど」

「門? ああ、東の門の話か。これはどうにも不確かな情報なんだけど……ここから街道をずーっと東に行くと、ディアマント王国ってとこがあるの知ってる? いろいろあって、今は七歳の女の子が女王様やってるっていう。そこの王国のあたりで、とんでもない鎧の化け物が出現して、まっすぐに西に向かってるって話があってね。手にしたハルバードで邪魔をする者を両断したりとか、食べ物の屋台が襲われて商品を食い尽くされたとか、そういう物騒な話だよ」

「最初はただのデマだろうって上も判断してたんだけど、どうも次々と具体的な続報が流れて来てるらしくてね。ああやって念のため警備してるってことさ。君たちも、鎧の化け物に関する情報があったら、詰所にまで一報を頼むよ」

 俺が思わずグローリアに視線を向けると、彼女は慌てて反論してくる。

「いやいやいや! いくらあたしでもさすがに屋台を襲ったりなんかしないって!」

 ハルバードで両断、のあたりを否定しないあたりがある意味正直と言えば正直だ。

「ははははは。確かに君も強そうだけど、その化け物は一目見るだけで、少なくとも普通の状態の人間じゃないってことはわかるらしいから、そういう意味で君に変な疑いがかかることは無いと思うよ」

「それじゃ、気を付けて滞在していってね。何か危ないこととかあったら最寄りの衛兵までよろしく」

 そう言い残すと、二人の衛兵は巡回に戻って行った。

「鎧の化け物……その様子だと、リュネットには何か心当たりが?」

 俺が小声でそう訊ねると、終始硬い表情をしていたリュネットが頷いた。

「アストラルガードのなり損ない――儀式魔法被験者のライナスさんで間違いないでしょう。情報屋で話を聞いた時から、薄々は感づいていましたが……やはりあの人も私と同様、何らかの方法で塔から脱出していたようです」

 言われてみれば、あの時情報屋が言っていた特徴と、先程兵士たちによって語られた鎧の化け物の特徴は部分的に一致している。情報屋の情報があやふやだったのは、おそらく別に俺たちを追っていたグローリアに関する情報とごっちゃになっていたせいだろう。

「儀式魔法の進行状況から考えて、今のところは人並みかそれ以上の睡眠時間が無いと活動できないでしょうから、ここに辿り着くまでにはもう少し時間がかかるはずです。でも、あまりのんびりはしていられません」

「じゃあ、明日すぐに向かうのか? その、魔境に繋がる門ってやつに」

「もちろんです。そのためにも今日は、何としてもお風呂付きの宿に泊まりましょう」

 真剣な表情で、リュネットは間近からこちらを見上げて力説してくる。一体何が『そのため』なのかは全くわからないが、まあこの大きさの都市なら風呂付きの宿などいくらでもあるだろう。

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