#22
「金色の紋章……『高等科の卒業生』ですね」
リュネットの言葉に、壁役の戦士たちはびくっと身を震わせる。世の中で――特に荒事を生業とする連中の中で、学院出の魔法使いがどのように思われているか、ということを見事に表す反応だ。
「卒業生二人と現役生徒一人で、勝負になるわけがねぇ、ってことくらいはわかるよな?」
「それ自体は概ね正しいのでしょうが、残念ながら前提が間違っています」
そう告げると、リュネットは昨晩完成したばかりの新品の杖を掲げて前に出る。
徐々に傾きつつある陽の光を浴びて輝くそれは、実に手間と金のかかっていそうな代物だった。
中心部は青みがかった大理石のような、しかい見方によっては象牙のようにも金属のようにも見える不思議な物質でできた棒でできている。その周囲には、繊細な細工の施された金と銀の細長い蛇が、互いに交差するように巻き付いている。
更に先端には金属製の輪がついており、そこには星形に加工された、高い透明度と屈折率を持つ不思議な輝きの石が埋め込まれていた。
ひょっとすると、この杖の材料費だけでリュネットの首にかかっている賞金に匹敵するのではなかろうか。そんな杖を、リュネットは事もあろうにぶんぶんと振り回しながら、実にやる気満々といった表情をしている。
「それにしてもちょうど良かった。私もこの新しい杖の性能を実戦で試してみたかったのです。せっかくですから、私一人とそちらの二人だけで勝負、というのはどうでしょう?」
が、さすがにこの状況でグローリアが黙っているはずがなかった。
「ちょっと待て、あそこまで言われて引っ込んでろって言うつもりか? まさかあたしじゃ勝てないとでも――」
「万一、私が負けそうになったら、次はあなたにお願いします。その時は指を差して笑ってもらって構いませんよ」
「……言ったな? その時は本当に指差して三日三晩大爆笑してやるからな?」
まだ納得はしていないし、相手に二人組魔法使いに対する殺意も全く薄れてはいないが、グローリアはひとまず引き下がることにしたようだ。
リュネットの反応に、魔法使いの男たちは驚きの表情を見せていたものの、すぐに不敵な笑みを浮かべてきた。
「どうやら相当の自信家らしいが、ひょっとして優等生ってやつか? まさかの学年主席だったりとかな」
「まあなんだ、狭い学院の中しか知らないようなお嬢ちゃんに、世の中の現実ってやつを教育してやるとしますか。これも先輩としての責務ってやつでしょ」
「それもそうだな。おい肉壁ども、お前らは脇にどいてろ。そんで向こうの魔法使い以外の連中が変な動きをしないよう見張ってろ。動いたら串刺しにしてやれ」
二人の魔法使いに言われ、三人の戦士たちは慌てて前を空ける。リュネットと二人の魔法使いたちが、およそ数十歩の距離を置いて対峙する形となった。
「それじゃ行くぜ!」
向こうの一人がそう告げると同時に、三人による呪文の詠唱が同時に始まる。
そういえば、魔法使い同士の戦いについてはいろいろと話には聞いたことはあるが、実際にこうして現場を見るのは初めてだ。
向こうの二人の魔法使いの呪文の詠唱速度はかなりのものだ。足元に輝く魔法陣は見る見る間にその形を完成させていき、力の集中が高まっているのをこの距離からでも肌で感じることができる。さすが学院の卒業生と言うべきか――
そこでようやく思い出した。この二人こそ、情報屋で言われていたアロンソとガーベルの二人組だろう。かなりの手練れと言われていたが、どうやら本当にその通りのようだ。
「爆ぜて燃え尽きろ!《エクスプロージョン》!」
「稲妻の雨よ降り注げ!《チェイン・ライトニング》!」
あっという間に完成した二人の魔法が、リュネットの立っている場所に立て続けに降り注ぐ。
閃光と高熱の波動、少し遅れて地を揺るがす爆音と衝撃波が広がり、俺は思わず顔を覆った。俺の横で見ていたディーノに至っては爆風に煽られ、危うく仰向けにひっくり返りそうになっていた。
続けて空から降り注ぐ雷光が、ダメ押しのとどめとばかりに、先程の爆発地点を中心とする範囲に立て続けに炸裂する。
いかなる生物といえど、これほどの破壊の中で生き延びることは難しいだろう――そう思えるほどの現象が過ぎ去った後には、破壊によって巻き上げられた土煙がもうもうと立ち込め、中の様子がまるで見えない。
「お前、いくらなんでもチェイン・ライトニングはやりすぎだろう! 死体まで吹っ飛んだらどうするんだ!」
「エクスプロージョン使ったお前に言われたくはないよ! あれこそ粉々に吹っ飛ばすき満々の魔法じゃねぇか!」
「あれ一発だけなら、仮にも高等科の生徒なら咄嗟に結界張れると思ったんだよ。それだったら死体くらいは丸ごと残るだろ? それをお前は……」
「まああれだ、どうせ依頼元のバックは宮廷魔術師なんだ、肉片でも残ってりゃかき集めて持っていけば判別してくれるだろうよ」
「うへぇ、肉片集めとか勘弁してくれよ……実際集めるのは肉壁にやらせるけどさ……」
二人がそんなことを言っているうちに、徐々に土煙は晴れていく。
そして破壊の後に遺されていたのは、黒こげになって陥没した地面――そしてその中心に横たわる、服も髪もボロボロになったリュネットの姿だった。新品の杖は真ん中で折れてしまったのか、下半分だけがリュネットの隣に倒れており、上半分は影も形も残っていない。
倒れ伏したままのリュネットの身体が、時折ピクピクと動いている。それを見た二人の魔法使いたちは、心の底から驚きの声を上げた。
「なんだこいつ、まだ生きてるぞ!?」
「こいつ本当にただの生徒か!? 正直、一人だったら勝てなかったかもしれねぇな……」
「全力でぶっ放しといて正解だったな。どうする? このまま連れて行くか? それとも念のためとどめを刺しておくか?」
「うーん、瀕死の重傷人連れ歩くのもアレだしなぁ……道中でお楽しみができる程度の状態かどうか、かなぁ」




