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#20

 そして、いざ寝る段になると思わぬ問題が発生した。

 四人で寝るには、テントが狭すぎるのだ。

 実は昨日、俺とディーノとリュネットの三人で寝た時にもかなりギリギリで、三人分の寝袋を隙間なく詰めて並べたような状態だったのを思い出した。もちろん俺がリュネットの至近距離で寝るなど生殺し以外の何物でもないので、中央にはディーノに入ってもらったのだが。

「ん? あたしは外で寝袋だけで寝るから大丈夫だよ。昨日もそうだったし」

 グローリアがそう言うだろうということは予想はしていたが、これに反発したのがディーノだった。

「そ、そんなわけにはいかないです! 僕が外に出るのでグローリアさんは中で寝てください!」

「キミたちはちっこいから三人入れたかもだけど、あたし入れて三人は無理じゃないのか?」

「じゃあ、申し訳ないけどピエトロにも外に出てもらって……」

「おいおい、あたしを魔法使いサマと二人で狭いテントに閉じ込める気かい? いつの間にか殺し合いとか始まっちゃうかもしれないよ? それにキミまさか、あたしのこと女性だから特別扱いしようとか、まさかそんなくだらないこと考えてたりしないよね?」

「そ、そう言われても、でもやっぱりグローリアさんを外で寝かせたまま僕が中で寝るなんて、まともに眠れる気がしません! むしろ僕の安眠のためにグローリアさんは中で寝て下さい!」

「だったらいっそ二人で外で寝る?」

「そ、それはもっと眠れる気がしません! というかそれだと僕だけじゃなくてピエトロまで死んじゃいます!」

 そんな感じで、二人の言い争いはどんどんヒートアップしてしまっている。ところどころで俺の名前をダシに使われているのもどうなんだと思うが、いずれにしろこのままでは埒が明かない。

「……なんでもいいから早く決めませんか? そろそろ本気で眠いです」

 その言葉通りに眠そうな目でそう語るリュネットの手には、ついに完成したと思われる新品の杖が握られている。燃え尽きかけたたき火の明かりだけでは暗すぎてはっきりとは見えないが、少なくともかなりの長さ、おそらくリュネットの身長くらいはあるということだけは一目でわかった。

 どうも俺がどうにかしないといけない流れになっているらしい――納得は行かないが、やらないことにはどうにもならないので仕方がない。俺はリュネットに念を押すように訊ねた。

「なんでもいい、って言ったな?」

「はい……?」

「よし、じゃあ全員に訊ねるぞ。俺たちはこれから西の大陸、いわゆる『魔境』に行くわけだ。そこには怪物みたいな危険な獣がそこら中を歩き回っている、と、少なくとも教会の伝承にはある。さてここで問題だ。そんな怪物に襲われた時に、この四人の中で真正面から戦うのは誰だ?」

「私です」「あたしに決まってるでしょ」

 リュネットとグローリアの声がぴったりと重なる。

 ある意味情けない話だが、俺の暗器術もディーノの神聖術も、野生の獣のように大型で素早く生命力の高い生き物と正面からやり合うには向いていない。実際に戦う場面になれば、どうしても側面あるいは後方からの支援役に回らざるを得ないだろう。

「そうだな。で、そんな二人が外で寝て体調でも崩したらどうなる?」

 ここまで言った時点で、二人には俺の言いたいことが伝わったようだ。

 二人のいずれかが体調を崩したまま魔境に突入すれば、、当然俺たちが生き延びられる確率は大きく下がる。かと言って体調回復を待っていれば、その間に賞金は上がるし追っ手は増えるし儀式魔術の進行も進むしで、やはりロクなことがない――儀式魔術の件についてはグローリアは知らないはずだが、それでも何らかの時間制限があることくらいは感づいているかもしれない。

「そんなわけでリュネットとグローリアが中で俺とディーノが外だ。異論は認めない。まさか、苦手な相手の近くだと安心して眠れないとか、そんな軟弱なことを言いだすつもりじゃないよな?」

 二人は殺気のこもった視線を揃って俺に向けてきたが、俺は一歩も引かない。もちろん内心では小便漏らしそうなほどに怖いが、二人の互いに対する敵意を少しでも分散させられるのであれば、むしろ歓迎すべき事態だろう。

「……次の街では個人用のテントを買いましょう」

「あたしは外で大丈夫って言ってるのに……」

 二人はそうぶつぶつ言いながらも、ようやく諦めてテントに入って行った。

 本当に先が思いやられるが、リュネットもグローリアも、なんだかんだ言って理性的に状況を判断できる人間だ。いくら二人きりで狭い空間に居たところで、今のこの状況で本当に致命的な争いを始めることはないだろう。それに、いい加減に互いに慣れてもらわないと困るというのもある。

 ――もっとも、リュネットと二人きりだろうと、グローリアと二人きりだろうと、まともに眠れる自信など欠片も無い俺が言えたことではないかもしれないが。

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