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#19

 テント前で朝食を食べ、その後はテントを畳んで街道を延々と西に歩き、昼休みを取って食事、更に西に歩き続け、再び日が暮れるまでの間、俺たちの間で交わされた会話といえば、せいぜい互いの名前を紹介する程度のものだった。もちろん喋っていたのはほとんど俺一人である。

 何しろリュネットとグローリアは互いに口も利かないどころか視線すら合わせようとしないし、ディーノは何度もグローリアの横顔を盗み見ては赤くなってを繰り返しているという、まさに惨状としか言いようのない有様なので、まともな会話なんて生まれるはずもない。

「あの辺はテントを張りやすそうだな。今日はこの辺で休もうか」

 そんな俺の一声も、一体何時間ぶりに発した声だろうか。

 俺に代わって荷物係になっていた馬の背中からテントを降ろして組み立て――

 昨夜と同じように、たき火を囲んで保存食の晩餐となったわけだが、やっぱり会話は一つも無い。ただ黙々と四人で干し肉やらビスケットやらドライフルーツやらを頬張る。

 食べ終わったところで、リュネットは一人でテントの中に引きこもってしまった。どうやら昨夜完成しなかった新しい杖を、今夜こそは完成させるつもりらしい。

 テントから少し離れたところでハルバードの素振りを始めたグローリアに、俺は小声で訊ねてみる。

「そんなにリュネットのことが嫌いなのか?」

「ははっまさか。本気で嫌いなら、いくら金のためとはいえわざわざ付いて来たりしないよ。ましてや、縛って引っ張って行くだけで小銭が稼げるような相手だよ?」

 五万だの六万だのといえば一年はのんびり遊んで暮らせそうな額だが、それを小銭と言い切ってしまうあたりがさすがグローリアだ。もっとも、彼女の“野望”を叶えるために必要な額に比べれば本当に小銭もいいところなのだが。

「じゃあどうしてあんなに?」

「単に魔法使いとは反りが合わないだけさ。特に、学院みたいなとこで大事にぬくぬく育てられた連中とはね。あたしみたいにろくに学もない、せいぜい暴れるしか能のない人間を、あいつらはいつだって見下しているんだよ」

「グ、グローリアさんは暴れるしか能が無くなんか無いです!」

 それまで黙っていたディーノの切羽詰った声が、唐突にあたりに響き渡る。

「うわ、声がでかいよ。あいつに聞こえたらどうするんだ」

 グローリアに小声でそう窘められ、ディーノはしゅんとした表情でうつむいてしまう。

「まあその、あれだ。あたしは力が欲しかった、そしてかなりいい線まで手に入れつつある。魔法使い連中には何度か酷い目に遭わされたけど、今のあたしならよっぽどのことが無い限り負けはしないからね。心配は要らないよ」

 聞く人によっては、今のグローリアの言葉はかなりの大変壮語に聞こえるだろう。

 一般的に、未熟な戦士と未熟な魔法使いが戦えば高確率で戦士が勝つが、一流の戦士と一流の魔法使いが戦えば、特殊な条件でもない限りほぼ確実に魔法使いが勝つと言われている。

 そして『壁』となる戦士に守られた魔法使いは、更に凶悪な力を発揮する。一流の戦士二人プラス中堅の魔法使い一人の組み合わせは、場合によっては一流の戦士五人の組み合わせにも勝ると言われている。

 これは戦いに身を置く者たちの間では常識になっているが、最初に俺にそれを教えてくれたのは他ならぬグローリアだった。

 しかし今朝の遭遇戦で、グローリアは実際にリュネットにかけられた何とかバインドとかいう魔法を解除して見せた。それも落馬中に、地面に触れる寸前に解除してそのまま受け身を取るという離れ業で、である。

 グローリアはそれ以上語らず、その後はただ黙々とハルバードの素振りを繰り返していた。


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