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#15

「ところで、どうしてあんたがこんなところに?」

「いやー、教官の仕事もしばらく間が空きそうだからね。儲け話を探して東奔西走していたんだなこれが」

 そう語るグローリアの姿は、俺が記憶している姿とは少しだけ、しかし決定的な部分が違っていた。

 開放型の鉄兜の下には首の後ろぐらいまで伸びた金髪、そして精悍と可愛いを足して二で割った、どこかあっけらかんとしたところのある表情の顔。体格は女性としてはかなり大きな部類に入るが、よく見ると平均的な男性より少し大きい程度である。

 頑強な部分板金鎧が肩や胸などを覆っていて、特に胸の部分はかなり強調されているように見えるが、それが決して誇張でないことは俺もよく知っている。他にも籠手や脛当て、腰回りのスカート状の連結鉄板防具など、要所要所に鋼鉄の護りが施されている。

 ここまでが、俺の知っているグローリアの戦闘装備との共通点だ。

 唯一にして最大の違いは、鎧で守られていない部分の装いだった。教官として教皇庁に雇われていた時は、確か布鎧か何かを身に着けていたはずだ。本来、部分板金鎧は高い防御力と柔軟な動きを両立させるため、曲げる必要のない部分を板金で、可動部分を鎖帷子や小鉄片の組み合わせで守るのが普通だと聞いている。その可動部分の守りを布鎧に置き換えるというのは、かなり極端なカスタマイズと言えるだろう。

 しかし今の格好は、その布鎧すら着ていない――つまりただの服である。しかも袖なしで丈の短いシャツである。

 意外なほど綺麗な素肌、そしてよく鍛えられた腕と腹と太腿の筋肉が丸見えで、正直目のやり場に困る格好だ。その割にいやらしい雰囲気は無くひたすら健康的な印象なのが救いだが、それでもさすがにこんな格好で教皇庁に来れば、たちまち追い返されてしまうのは間違いないだろう。

「……ところで」

 その声は、不意にものすごく近くから聞こえてきた。

「いつまでそんなところを触っているつもりですか?」

 そう言われて初めて、俺は今自分が何をしているかを思い出した。

 グローリアに二発目の魔法を放とうとしていたリュネットの身体に背後からしがみ付き、そしてずっとそのままの姿勢でいる。俺の両腕はちょうどリュネットの胸を抱え込んでいて――

「うわぁっ! ご、ごめん。今のは本当に悪かった」

 口ではそう言いながらも、俺はどうしても腕に残る感触を思い出そうと懸命になる気持ちを抑えられなかった。見た目通り小さめで、想像していたより少し硬い感触ではあったがその分意外なほどに存在感があり――いやいやいや、と俺はかぶりを振って邪な感情を頭から追い払おうとする。

「まったく、不用意に触って減ったりでもしたらどうしてくれるんですか」

「減るの!?」

「可能性の問題です。そちらのいろいろと無駄に大きな戦士さん違って、結構切実なんですから」

 そう言いながら、リュネットは敵意というほどではないが、しかし間違っても友好的とは言い難い視線をグローリアに向ける。

 それに反応して、グローリアの方もリュネットに挑発的な笑みを浮かべて見せてきた。

「ようやく見つけたよ、紫の魔法使いのお嬢ちゃん。ところで、近づくや否や有無を言わさずいきなり魔法をぶっ放してきたことについてあたしに何か言うことは?」

「それについては反省しています。私としたことが、いきなり武器を構えたまま荒々しく突撃されそうになった程度でうろたえてしまって、練習用の杖だということも忘れてあんなギリギリの距離で慌てて発動させてしまったのは失敗でした。今度からはもっと落ち着いて近距離まで引きつけて、間違っても解除されないようガチガチに固めるようにします」

「その通り、あんな程度でうろたえるようじゃ学院出のエリート魔法使いサマの名が泣くってもんだよ」

 互いににこやかな笑みを浮かべながら、一触即発の会話を繰り広げる二人を前にして、俺はどうしてこうなったと頭を抱えたい気分だ。ふと横を見ると、グローリアの乗って来た馬が戻るに戻れず、うろうろと落ち着かない様子で歩き回っている。

「ふふふふふ……」

「ははははは……」

 リュネットは杖を握りしめ、グローリアはハルバードを構え直す。互いに自分から仕掛けはしないものの、相手の出方次第では容赦しないという姿勢は火を見るより明らかだ。

 止めるべきなのはわかっているが、下手に動けば逆に引いてはいけない引き金を引いてしまいそうで、思わず呼吸や瞬きすら極力控えてしまう。

 永遠とも思えるそんな一瞬が過ぎ去った後――

 どざざざっ、と何かが倒れて滑る音がした。

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