#12
「ええと、つまり目的地は『魔境』にある、ということですか?」
俺の心に浮かんだ疑問をディーノが代弁する。
「はい。ですが、そう極端な奥地にあるわけではありません。徒歩でも数日あれば行ける程度の距離でしょう」
「なあ、俺帰っていいか?」
思わずそんな言葉が口をついてしまった。リュネットはそれに答える代わりにこう告げてきた。
「今回、私は王国の要請で、極めて強力な衛兵を作り出す儀式を行っていました」
「え、衛兵?」
あまりに突拍子もない単語に、俺は思わず訊き返してしまった。まずい、完全に会話のペースを握られた、と気付いたもののもはや手遅れである。
「ディアマント王国は元々、比較的平和と言っていい国でした。ですが先々代の王が崩御し、次に即位した先王が急死したことをきっかけに政変が起き、その際の権力闘争の隙に国外から様々な犯罪集団が流れ込み、一時期は地獄絵図のような有様だったそうです」
「その話は聞いたことあるな。で、いろいろあって今のエーデとかいう幼い女王になったんだったか。えーと何歳だっけか……」
「確か七歳だよ。そして大叔父、つまり先々代王の弟が摂政兼宰相として国をまとめているんだ」
ディーノに助け船を出され。ようやくいろいろと細かいことを思い出す。
「そうだった。それでもいまだにいろいろとキナ臭い噂が耳に入ってくるのはどうしてなんだ?」
「一度根を張った犯罪勢力は、いまだに貴族や高官たちと繋がっています。しかも普通の犯罪勢力だけでなく、東の帝国の息がかかった連中も大量に潜り込んでいて、全く収拾のつく目途が立ちません」
「あー、それで何とか治安を取り戻すために、強力な衛兵が欲しいのか」
「真偽を確かめるために、王城の城下町で夕方から夜にかけて一人で出歩いてみたところ、一晩で二度襲われました。これ見よがしに杖を持ち歩いていたにも関わらず、です」
確かに、そんな状況であれば早急にどうにかしないといけない、と考えるのは国の為政者であれば当然のことだろう。
「私は学院からの応援要員として遣わされたのですが、与えられた役目は儀式の実行役でした。なんでも、定められた手順通りに儀式魔術を行使するだけでいいのだけれど、そういったことは王国流の師弟方式で『技を盗む』やり方で育った魔法使いたちより、学院流の教育システムで一定のカリキュラムに従って育った魔法使いの方が向いている――とか何とかいかにもそれらしい理屈を説明されました。まあ、儀式の内容としては本当にその通りだったので、あながちデタラメでもないのですが」
「その口ぶりだと、何かがおかしいってことには最初から気づいていたのか」
「はい。ですが、何がどうおかしいかという点についてはさすがにわかりませんでした――完全な手順が私に開示されたのは、儀式開始の五分前でしたから」
リュネットは水筒の水を一気に飲み干してから、遠く東の方角に視線を向けながら語る。
「私が学院で受けた任務は『協力するふりをしつつ、王国の人間が何を企んでいるのかを掴んでくる』というものでした。そのためには実際に儀式を行いながら内容を解析するのが一番手っ取り早いと思ったので、あえて騙されているふりをして儀式を実行しました。いざとなれば途中で失敗したふりをして中断すればいい――その時はそう思っていたんです」
そこまで言ってリュネットは立ち上がると、たき火を離れてテントに向かって歩き始めた。
「ってそこで打ち切るのかよ!」
俺がそう突っ込むと、リュネットは振り返っていたずらっぽい笑みを見せてきた。
「だいぶ話し過ぎてしまいましたから。続きは明日以降にしましょう。できれば今日寝るまでに杖を完成させたいのですが……ちょっと長く話し込んでしまったので間に合わないかもしれません」
それだけ言い残してテントに潜り込んでしまったリュネットを見送りながら、俺は小声で隣のディーノに訊ねる。
「今の話……お前はどう思う?」
「どうも何も……僕たちひょっとして……」
「とんでもなく面倒なことに……」
「巻き込まれてるよね……でもおそらく教会としても……」
「ああ、おそらく見過ごせない類の話になりそうだ。何より目指してる場所がよりにもよって……」
「教会にとって聖地でもあり呪われた地でもある、西大陸の魔境だもんね……」
「三等官と准司祭で処理するレベルの話から、もはや完全にかけ離れてるよなぁ……」
そこまで囁くと、二人そろって大きくため息をついた。




