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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
定常台風
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狼の手料理

歩いていたせいだろうけど、相当時間がかかった。

「さぁポク達の村へようこそ!」

尻尾を振る狼について中に入ると、4足歩行している狼ばかりだった。

「くぅーん」「はっはっ」と鳴きついて来る。

「く、くるな!」

擦り寄られて離れようとしている。代わりに、両者が俺に知り寄ってくる自体になってるのだが?

「心配要らないよ。キミ達を歓迎しているのさ」

正直、細かい生態については詳しくない。俺の住んでいた所では犬も猫も淘汰されているからな。

架空の生物として、金魚やクジラと並ぶ存在だ。

擦り寄ってきた狼がブルブル体を振って雨水を弾き飛ばしてきた。汚っ……。

「雨いつまで続くんだろ」

「あーそれね。あと2ヶ月位は降るよ?」

「2ヶ月!?」

そんなに長い期間降るなんて現象聞いた事がない。

「雨季って言ってね? ずーっと雨が降る季節なんだよ」

俺の居た所とは違う機構なのは分かっていたが、そんなものまであるのか……。

「だから、雨が降ってない期間を乾季って言うんだー」

お喋りが好きそうな狼が、屋内に暖を取れそうな焚き火が有る場所に案内してくれた。


「2人はここで待っててくれるかな? ワンプー!」

ワンワン鳴きながら、ボサボサの狼やってきた。

「ワンプ、お客さんご飯を出してあげてくれる?」

「ワン、ワンプ。ワン、分かる」

礼儀正しい狼なのか、尻尾を振りながらお座り?している。

「じゃあ巨体くん、ついてきてくれる?」

「あぁ」

出ていこうとする哲さんの腕を健十郎が掴む。

「何かあったら呼べよ?」

真剣な健十郎の雨水滴る髪をワシワシと()で、いつものようなボサボサ頭に戻した。

「あぁ、頼りにしてる」

少しだけ微笑むと背を向けて行った。


出てすぐ右。恐らく隣の建物だろう。

「ワン、食べる」

「ん?」

足音に聞き耳をたてていると、片言の狼が何かの入ったお(わん)を差し出していた。

「ワン、ワンプ。ワン、どうぞ」

これを食べろと? 受け取ったお(わん)には、肉の塊の入った液体が見受けられる。

「ワン、そこの。ワン、どうぞ」

雨降りの外をずっと見つめている健十郎にも

「何だよこれ」

感慨に(ふけ)っている所に水を差されてご立腹のようだ。

「ワン、ワンプ。ワン、どうぞ」

ワンを取り除けば会話が成立しそうか? 流石に名前は“プ”ではないだろうが。

「取り敢えず食べようよ」

「こんなグロテスクな物、食べられるわけ無いだろ?」

確かに否定しきれない見た目だ。食べ物として出されたという事は、胃には収まるのだろう。

「ワン、ワンプ。ワン、食べる」

焚き火の上に吊り下げてある鍋からお(わん)(よそ)い、ゴクゴクと飲むように一気に食べた。

空になったそれを見せびらかしてくる。大丈夫だと言いたいのか?

好き嫌いは多いと自覚は有るのだが、そこまでされて1口も食べないのは気が引ける。

何より、俺達3人ではこの島で生き長らえる事は無理だと痛感したばかり。

嫌な物は鼻を(つま)んで食べると良いと聞く。目を(つむ)り鼻を(つま)み、一気に口に放り込む。

舌にドロッとした温かい液体が触れる。触れたという事は味が分かってしまうという事。

想像しただけで吐きそうになったが、思ったより美味しかった。


「おい、大丈夫か?」

渋い顔をしながら口に放り込んでいたせいだろうか? それとも予想外の美味しさで、スープを呆然と見つめていたせいだろうか? とても心配そうにしている。

「無理に食べなくてもいい。不味いならその辺にでも吐けよ?」

「それが……、かなり美味しいんだ」

近寄ってきている健十郎を余所目に、焚き火の温かい明かりの中でスープを眺める。

見た目は酷いが、“味”は何かを再現しようとしている形跡を感じる。

もう1口頬張る。俺みたいな子供が好きそうな、そんな温かい味だ。

「おかわり貰っても良い?」

「ワン、ワンプ。ワン、分かる」

親切に(よそ)ってくれた。健十郎は「まじかよ」と背筋が凍りかかっている。

「ちゃんと食べて、ちゃんと生きてよ?」

特に深い意味はなかったのだが、健十郎は後ろめたそうに顔を背けた。

「……分かったよ。食べればいいんだろ?」

背けた理由を聞こうとしたが、ぶっきらぼうに食べる宣言がなされた。


ゴクンと、健十郎の(のど)から大きな音が聞こえた。

俺とはリアクションが違うが、閉じていた目を大きく見開き、目をパチクリして驚きを表現している。

「美味いな……」

「ね? 意外といけるよね」

ボソッとそう言うと、俺の声を無視して夢中で食べている。

それを微笑ましく見ながら、2杯目を完食した。

「ん!」

(わん)を突き出し、狼におかわりを要求している。

健十郎の腕が邪魔で退いたのだが、そのお陰で盗み聞く事を思い出した。

2人がご飯に夢中になっている間に少しでも聞きたい。


家を出て軒下伝いに右へと向かうと、やはり家があり明かりが漏れていた。

俺の耳が良いという事は、狼も耳が良いという事。忍び足で隣の家の壁に耳を当てる。

雨のおかげで気づかれにくいだろが注意するに越した事はない。

然程(さほど)大きい声で話していないようで、雨の音で潰れて聞き取りづらい。

「つまり、俺は……」

「うん。もうすぐ……事になる……」

「具体的……教え……」

「……は狂犬病って言って……」

キョウケンビョウ? 病の一種か? 肩でも強くなるんだろうか……。

深刻そうな話をしている気はするので、そうではないんだろうけど。

「おーい、飛鳥?」

鍋の有る家の方から大声が聞こえてきた。

これはまずい。もっと聞きたいが急いで、尚且つ静かに戻る事になった。


健十郎は出入り口から左側を見ていた。右か左かくらいしか無いので、直ぐに俺に気づく。

「おっ、飛鳥。そこに居たのか。で、何してたんだ?」

「ええっと、トイレかな?」

小便(しょんべん)の匂いなんて全くしねーぞ?」

えっ!? 俺と違って鼻が敏感だったんだっけ……。どうでも良い所で無駄な性能発揮しやがって……。

「ほ、ほら。雨で綺麗になったから……」

あはははは……! 明らかに挙動不審だったと思う。

若干何か気になっていたようだが、それ以上は問われなかった。


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