死のお化け屋敷
心臓発作屋敷と思われる綺麗な建物に到着した。
「え、ここが心臓発作屋敷なの?」
「そう、パンフにはそう書いてあるな」
「あっちの城じゃねーのか?」
「あそこの城は血塗られたシンデレラ城よ」
「思ってたのと違うね。もっとこう、怖い雰囲気出してるのかと思ってたよ」
「病院も兼ねてるから、清潔に保たれてるのよ」
「これじゃ全然怖くねーな」
「バカね。建物はここだけど、アトラクションは地下よ」
「なるほど!」
「さいですかー」
「ワシが先に行くかのぅ」
「いや、俺が一番先だな」
「じゃー俺が2番だね!」
「俺は最後でいっか」
「私は外で待ってるから」
「なんだ、ビビリか?」
「違うわよ。お爺ちゃんの事もあるから」
「無理すんなって!」
「お爺ちゃん無理しないでね」
「楽しんでくるわい。ワシは3番めじゃな」
「おいおい列長すぎだろ。何処まで続いてるんだ?」
「最後尾が見えないねー」
「優先列でさえ1時間待ちだと」
「一人ずつ入ることになるから、余計長いのよ」
「並ぶ前にトイレ行ったほうが良いよね!」
「「だな」」
―1時間後―
「そろそろだね」
「おい、難易度どうするんだよ」
「俺は普通でいいや。何かあったら嫌だし」
「何か勘違いしてるよ?難易度は下から順にベイビー、ノービス、スタンダード、ベテラン、アドバンスド、アルティメット、マスター、デッドエンドと8段階あるんだけど、ベイビーが一般的なお化け屋敷のレベルで、ネズミーランドでは小学生以下しか入場できないんだよね。だから“通常”に相当するスタンダードはかなりレベル高いと思うよ。
あと、デッドエンドはその名の通り必ず発作で死ぬから、満了者限定なんだ。
つまり、一般人には6段階分しか選べないんだよね」
「じゃあ俺はマスターだな!」
「俺も当然マスターだよ!」
「俺は・・・ノービス、かな」
「スタンダードにしとけよ」
「まぁせっかくだし1つくらい上げても問題ないと思うよ」
「うーん・・・」
「無理はせんでいいんじゃぞ?自分にあったペースで行くのも重要じゃ。周りに振り回されてばっかりじゃと疲れるだけじゃしの」
「やっぱり俺はノービスで」
「次にお待ちのお客様、難易度はいかが致しましょう」
「俺はマスターで」
「畏まりました。では中にある扉の内、右から二番目へご入場ください」
「お先ー」
「いてらー」
「次にお待ちのお客様、難易度はいかが致しましょう」
「俺もマスターで!」
「ではお呼びするまでしばらくお待ち下さいませ。そちらのお客様、難易度はいかが致しましょう」
「これでわかるじゃろうか」
「確かに。では、中にある一番右の扉へご入場ください。そちらのお客様はいかが致しましょう」
「俺はノービスで」
「畏まりました。では中にある扉の内、左から二番目へご入場ください」
「ふぉっふぉっふぉ。楽しみじゃのう」
「じゃあ爺ちゃん、サヨーナラだね。」
「来世も愉しむぞい」
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又聞きした話である。
俺は哲五郎、16歳。将来やりたいことは・・・特に無い。
目下の目標はマスターモードを難なくクリアすることである。
扉を入ってすぐに机が有り、多少の怪我があるかもしれないことへの同意を求められた。
同意書に署名をした後、シューズの履き替えをしてからスタートのようだ。
「おっしゃー。やってやるぜ!」
頬を両側から勢い良く叩き、気合を入れた。
最初は階段か・・・まぁ、裕が地下にあるっつってたしな。当然か。
コツンコツンと音を立てながら、薄暗い階段を降りていく。
しっかし殆ど見えねーな。
しかもクソなげーし。何時になったら着くんだよ・・・
ガコンという音とともに床が抜けた。
「うわああああああ」
ズシャアア
「いってえ・・・。落ちたのか」
周囲を見回すと骸骨と看板がある。
骸骨は雰囲気を出すためか、髪の毛があったり、肉片が残っていたりと、それはもう悍ましいの一言であった。
「良い趣味してんな。さてと、漸くスタートか」
歩き出そうとすると何かに手足を掴まれた。
「うおっと。何だ?」
白く細い何かが掴んでいる。
その先に見えるのは足元にあったものと同じ骸骨ではあるが、動いているのである。
どう見てもワイヤーで動いているようには見えず、中に人がいる気配もない。
ロボットなのかといえば、動きが滑らかすぎるので違うだろう。
「おい、離せよ。進めねーだろが」
ガキーーン。非常に甲高く、それでいて鈍い音がした。
音の先を見ると巨大な刃物を持った骸骨が居た。
「なんだありゃ・・・」
【ようこそ、デッドエンドモードへ】
「はぁー!?俺が選んだのはマスターなんだが」
【お客様が安らかな眠りへ付くお手伝いをさせていただきます】
「おい聞けよ!」
【それでは約1時間。存分にお楽しみください】
プツン。音声終了の音が聞こえた。
「おいおい、冗談きついぜ・・・」
騒いでいる間に例の骸骨はすぐそこまで来ていた。
そのまま大剣を大きく振り上げ、勢い良く振り下ろす。
「うわああー!待て待て待てえええ」
ガシャン。どうやら手足を掴んでいた骨にあたったようだ。
折れても尚手足を掴む骨はこの際無視だ。
息を荒げながら腰を抜かしてしまった。
だが立ち止まっている場合ではない。
足元が覚束ないが、進むしか無い。
骸骨は剣を引き抜き、再び歩き始める。
扉に向かって走っていると急に骨がないツルツルした床に出た。
恐怖のあまり冷静でなかったせいだろうか。
全く気づかなかった。
床は濡れていて今にも滑りそうである。
その時、頬を何かが掠めた。
その物体は扉のすぐ横に突き刺さる。
足を止めて頬を擦ると少し血が出ていた。
鼓動が更に早くなる。
後ろを見ると先ほどの大剣を持っている。
何を投げたのだろうか・・・。
と、その時急に骸骨は走りだした。
それも相当速そうなフォルムで。
ひぃっと声を上げ慌てて走り出すも、滑ってしまった。
「うわああ」
ズシャー。
立ち上がろうと手をつくと何かが手に触れた。
それを見ると生首であった。
「ぎゃああああああああ」
目は引ん剥かれ、口からは舌が垂れ、頭部からは血が流れている。
もう失神寸前である。
掴まれた。
そう例の骸骨に、である。
「うわああ、離せ、離せ、離せよ」
骸骨は無言で俺を引き摺っていく。
反対の手で例の大剣も引き摺り、嫌な音が響き渡る。
とんでもない力であったため、抵抗虚しくどこかに放り込まれた。




