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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
暗黒郷
66/87

実は凄い防災リュック

「全員揃ったわね?」

サシャは双眼鏡を手にしている。確かにそれもあると便利だろうな。

感心していると、それは机に置き去りにされた。

望遠鏡の方を(つか)み、これを見てと言われ、まず最初に俺が(のぞ)く。


うーん。海しか見えないような……?

「青くて綺麗だね……」

何処(どこ)見てるのよ。その辺に船が見えない?」

少し動かすと黒いのか灰色なのかよくわからない船らしいシルエットが見える。

「いたいた」

「次はこっちを見て」

ぐいっと反時計回りに回転させられた。当てている目に食い込みそうになる。

「痛いっ……」

「赤いのが見えない?」

俺の悲鳴は華麗にスルーされる。

確かに赤いというか、橙色のメラメラしたもの。火が燃え上がるような?感じのものがある。

「炎?」

「こっちに向かってきてる船が見えたと同時くらいに燃えたから、恐らく沈められたんだと思うわ」

「こっちに向かってきてるの?」

「恐らくね」

「じゃあ軍艦?」

「まず間違いなく」

……。

退()けよと健十郎に望遠鏡を取られた。


「全速力だと振り切れそう?」

俺は日記帳の切れ端を確認し、無理だと答える。

「それと、定常台風を避けた場合確実に射程に入ると思う」

「その前に追いつかれるだろ」

健十郎の反論が俺に向けられた。

「捕まる前提で考えるとなると、海上戦ってことかな?」

「「だろうね(な)」」

特に話に乗ってきている2人が声を合わせる。

「じゃあ手分けして使えそうなものを準備しよう」

(つい)でに非常用ボートとかも確認しとかなーい?」

「……そうだね」

珍しくミサ婆さんのまともな会話を聞いた気がする。


-------------


今回も4-4で兵器と脱出に分かれて調査を開始した。

使いものにならないと思ったのだが漁業関係のものも見ておいて正解だった。


「それじゃあまず、俺から見つけたものを発表するね」


『漁網射出機』

照準を空中に設定することで船を捕獲できることが判明。


「それだけ?」

「そういう健十郎は何見つけたんだよ」

ちょっとイラッとした。

「艦砲と魚雷だけど?」

「大差ないじゃん。そんなのついてても不思議じゃないよ」

軽く殴っておいた。頭を擦りながら(わめ)いているが気にしない。


女性陣は色々持ってきてくれた。

「このでっかい鞄は何?」

前と左右に網目のポケットが付き、キャリーケースのような取っ手とキャスターが付いたリュックだ。

「非常用防災グッズって書いてあったわ」


中を開けると白色のツルツルした内袋が見える。

中には、ソーラー充電器、保存水、非常食、マスク、歯磨きセット、救急セット、エアマット、レインコート、ブルーシート、サバイバルブランケット、非常灯、懐中電灯、方位磁針付き懐中時計、軍手、ライター、マッチなどが入っていた。

説明書も同封されていて、リュック自体が給水タンクにもなる優れものだった。


「高性能すぎない?」

率直な感想だった。

「取り敢えず、これ1つで3日持つらしいわ」

まぁそう書いてはあるけど……。

「これ1つだけ?」

「もう1つあるわ」

サシャが床から引き上げる。机の影に隠れて見えてなかっただけのようだ。


「救命ボートは2隻あるわね。4人ずつ乗れそうよ」

「荷物はどれくらい乗りそう?」

「そこまで大きくないから、これともう2袋くらいじゃないかしら」

未開封のリュックを軽く叩きながら、ジェスチャーしてくれた。

「布が貴重になるはずだから、1袋は布。もう1袋には飲料を詰めておくね」

「じゃあこっちは飲料1袋と、何か役立ちそうなものを入れておくわ」

サシャのおかげで2班制になったかのようで、非常に楽だ。


そのまま手順説明を行った。

迎撃はまず、漁網射出機でトラップとして2枚を水中に放出。水雷もいくつか絡めておきたい。

次に飛距離のある艦砲で威嚇射撃。

漁網射出機で最後の1枚を空中に投げ、敵艦にぶち当てる。

魚雷を発射して、艦砲で狙いを定める。


「何か質問はある?」

「漁網射出機ってそんなに遠くまで飛ぶのか?」

まずは健十郎か。

「仮に距離が届かなくても、接触すれば爆発してくれるし、トラップとしては使えるよ」

「水雷が爆発しようがしまいが魚雷を放って、誘爆するってことでいいのよね?

直撃させられれば一番なのだろうけど……」

「うん。そんな感じ」

周りを見回したが、端に座っているその他の5人は特に意見なしのようだ。


「最後にもう一つ」

深刻な話なので、大きく息を吸って息を整える。

「逃げ道がないので、最後は定常台風に突っ込もうと思っています」

「おいおい、正気か?」

健十郎は正常な反応だった。

「いや、(むし)ろ一番生存率が高いな」

無道寺(むどうじ)がいつの間にか俺の隣に座っていた。

「どういうことだよ」

何故(なぜ)無道寺(むどうじ)(にら)みつけている。

「つまりね? 曲がったら軍艦に捕捉されて、100%の確率で大破。

しかも此処(ここ)で救命ボートを使うのはかなり厳しい。

逆に中に入れば、生き残れる可能性が微レ存ってこと。

船が壊れても、()ければ救命ボートで脱出できるかもしれないよね?」

「つまりは賭けってことだな?」

そんなに真剣に見つめないでほしいな……。

「そうなっちゃうね……。嫌なら嫌だって言ってよ?」

後でぶつくさ言われるのは嫌だからね。

「納得したからお前を信じるよ。運命共同体だからな」

今叩かれた背中が痛い……。照れると(たま)に暴力的になるから嫌だ。


「トラップの射出は明日の未明に行おうと思う。

明るくなり始めたら威嚇射撃の予定なので、それまで水雷の取り付けと、睡眠をとっておいて欲しい」

俺の大雑把な計画が始まる……。


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