暗中模索
終皇80年8月29日 曇
明日のこの場所では、雨が降るかもしれないな。
朝になって女子共が起きてきた。
「何、お風呂入ったの?」
サシャはクンカクンカしている。俺達から、シャンプーのいい匂いが漂っていたのだ。
「案内した方がいい?」
「後で探すから良いわよ」
あっさりとした返答だった。特に怒ってはいないようだ。
対してミサ婆さんは、火に翳したスルメのようにひっくり返って体をくねらせている。
相当ご不満のようだ。もっと若くて綺麗な顔なら、俺らも惹かれただろうに。残念だ。
取り敢えずご飯を用意してやった。8人分まとめて。
今朝のメニューは乾パン、フリーズドライのチキンシチューだ。
奥から見つかった濃縮液のおかげで、飲み物はジュースとなっている。
「あら美味しい」
口元に運ぶスプーンに手を添える上品さに目を奪われた。
「もっと美味しいのが食べたーい」
君は視界に入れたくないのだが? ちょっと黙ってて欲しい。
「交代のことなんだけど、昼は6時から18時、夜は18時から6時でいいかな?
朝食は6時、夕食は18時に合同で取るということで時間を選んだんだけど……」
俺は時計を見るように促す。
「時計はちゃんとあるのね……。いいんじゃない? 私は異論ないわ」
他の人も特には問題ないとのこと。よって、あっさりと決まった。
「俺らも一応船内を探したけど、他に何か見つけたら教えてほしい」
オレンジ味のジュースを飲み干し、食事を終えた。
俺らが見つけた物を軽く説明する。
「分かったわ。それで、何か必要そうなものはある?」
そうだな……。サバイバルも想定するべきかもしれないな。
「リュックのような鞄と、丈夫な靴。それに点火できるマッチかライターかな。
持ち運びやすい刃物なんかも必要かな……」
「漂流先を想定してるのね?」
できる女だ。完璧だな。
「はい。お願いできますか? 起きている時は俺も探すので」
「お互いのためよ。協力していきましょ」
嬉しさの余り、ついつい手を伸ばして握手を求めてしまった。何よ?と一蹴されてしまったのだが。
「それじゃあ俺らは寝るよ」
軽く挨拶して船首にある部屋を後にする。
「どこで寝るの?」
バタンとドアが閉まると同時に、哲さんが眠そうに寝床を聞いてきた。
「そりゃあゴージャスな部屋だろ!」
健十郎はワクワクしている。女子部屋と男子部屋に分けるくらいには刑務官部屋はあるが……。
悪いが俺は反対だ。
「その辺の雑居房にしよう」
健十郎が、お前バカか?と言いたげな顔をしている。リアクションが大きすぎる……。
「理由を言ってみろ」
腕を組んで聞いてくる。そこまで目くじら立て無くてもいだろ……。
「構造は特に丈夫そうだよね。しかも昼でも寝やすい暗さが確実に確保できる」
俺らがいた独居房に近い構造だ。前の如く、俺らを守ってくれるかもしれない。
希望的観測だろうか……? 分からない。
「それに色々と近いからね」
場所にもよるが、どこからも均等な距離で近い部屋があるのだ。
トイレだけは共用なので部屋の外に行かないといけないが、対応が早く取れそうなんだよね。
結局、健十郎は駄々を捏ね始めたので置いてきた。
屋が開かれる前に手当たり次第に部屋を開けた音が聞こえた。
一人でいい部屋にいったらしいが、寂しくて俺らの部屋に来たようだ。
どの部屋に行ったかは見ていなかったのだから当然だろうか。
「結局戻ってきたのかよ」
「悪いか?」
向けられた呆れ顔が不満だったらしい。
「悪くないよ。別に怒ってないだろ?」
スヤスヤ……。哲さんは既におねんねしている。
「静かにしろよ。布団敷いたら暗くするぞ」
電気を消して布団に入る。
硬い布団だが、大量にあるので満足な寝床だった。
「ところでさ、真っ暗なんだが」
「当たり前のこと言うなよ」
「どうやって電気付けるんだ?」
えっ?っと声を発した後、一瞬間ができてしまった。
「そりゃあ、普通に切った時の逆で……」
「場所覚えてるのか? 寝る前は覚えてたとして、起きた時に直ぐに見つけられるものなのか?」
……。開いた口が塞がらない。
「ちょっと待って、今つける」
慌てて探すものの見つからない。
確かこの辺のはずなんだけど……。
「ごめん、見失ちゃった……」
「しゃーねーな。俺も手伝うから」
結局10分位探して見つかった。
扉を目印に探していたのだが、扉が壁と同一化してわからなくなるギミックだったようだ。
囚人部屋として設計してあるせいなのだろうか? 無駄にめんどくさい。
見つけたボタンの足元に、使用してない布団を置くことで対処することにした。
その夜はここ1年でもっとも気分が良かった。
綺麗な体、新しい服、汚れていない布団。
加えて、心を許せる親友と寝るのだから当然であった。
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まだ真っ暗な……。部屋が真っ暗なので当然だったか。
もう少し寝てようかと思っていたが、急に耳と目に刺激が襲う。
サイレンが鳴り響き、同時に照明勝手に点いた。
トラブルだろうか? 半瞬の後、扉もひとりでに開いた。
バタバタと走ってくる音がする。
廊下に一瞬だけ髪の長い女性が通って行った。
一瞬過ぎて不確かだが、目があった気もする。
その女性はすぐさま戻ってきた。
「大変よ。直ぐに」
2人はまだ寝ている。よくあの音で起きないものだ……。
無駄に感心しながら、俺は寝ている2人を叩き起こす。
何故か、船首側にある船首楼ではなく、船尾側にある船尾楼へと連れてこられた。




