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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
暗黒郷
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船出

Yb-201号艦。型番だろうか。

海岸に敷き詰める巨大な戦艦の1つに乗り込んだ。

囚人自体が大分数が少ないので、選ぼうと思えば選び放題だった。

8人で乗るにはでかすぎる。全長数百メートルはありそうだ……。盛りすぎたか?


ほぼ全自動のため、操縦と見張りくらいでいいらしい。本分は漁業だから、こうなってるんだろう。

「分坦どうするよ」

入り口で健十郎が聞いてきた。

「うーん。やっぱ2交代制じゃない?4-4で」

「俺ら3人は一緒にやるからな」

おい、勝手にきめんな!健十郎の頭を殴りたかったが、

「女子も3人一緒でするわ」

サシャもすかさず同じようなことを……。


無道寺(むどうじ)は嫌だという女性陣の要望により、俺らと無道寺(むどうじ)が仲良く見張りを先行することになった。

俺が(かじ)を取り、健十郎が右舷(うげん)、哲さんが左舷(さげん)無道寺(むどうじ)が船尾から監視する。

面舵(おもかじ)いっぱいで始動した。


窓越しでも()り込む爆音が聞こえる。

他の船とぶつかる戦艦もあり、いきなり沈没している戦艦が2隻程あったのだ。

俺はぶつかりたくないので、進路を南南東にしている。

このまま行けば、定常台風に突き当たるので何処(どこ)かで進路を変えないといけないだろう。

太平洋に浮かぶ巨大な台風は、あらゆる船舶の侵入を現在まで防いだとされる。

航空機が発達できなかったのもあの台風のせいだとも言われていたっけ。


しかし此処(ここ)も広い。会議ができそうなくらい椅子がある。

用途不明の銀色の棒も立っているな。天井でも支えているのだろうか?

お、時計もあるな。これで交代がスムーズになりそうだ。


終皇80年8月28日 晴れ

地震直後の海上なので波はそれなりにある。津波は発生していない。風が強いせいだろう。


現在18時。そろそろ日の入りの時間だ。

俺は自動モードを見つけたので、方角を固定して任せっきりだ。

銀の棒を使って運動をしている真っ最中。

最近はストレッチをまともにできていなかったように思う。

少し体が固くなった気もする。気のせいだと良いのだが……。


「一緒に食おーぜ」

健十郎がサボってご飯を運んできた。

船内調査をまずしていたようだ。

風呂場には石鹸(せっけん)が、囚人用のだが服も沢山、8人で分ければ1年は持ちそうな食料があったらしい。

俺も腹が減っていたので乾パンとスープを、海を眺めながら食べる。

水は持ってきていないようだ。

「水はあったの?」

「あったぜ。海水を飲水にする装置があったからな」

それは便利だな。念の為に汲み置きしておくべきだろうか。

それにしてもスープが美味しい。

「このスープって市販のやつだよね?」

囚人にこんな一般家庭の物が振る舞われるなんてありえない。

「これは刑務官用のだ。今は居ないから食べてしまおうかって」

俺らしか食べる奴は居ないからいいか。


暗くて全く見えないわ、レーダーを参照しての完全自動航行のお陰ですることがない。

俺も健十郎と一緒に船内調査を始めた。

第一に発見したのは、既に夢のなかの哲さんだった……。

どこから持ってきたのか、日光浴で使いそうな椅子に、だ。近くにあった毛布を掛けておく。


シャワーはあるとは思っていたが、本当に風呂まであった。

数人同時に入れる広さだ。石鹸(せっけん)に目が惹かれる。

後で、あれで綺麗に洗いたいな。小さな夢が1つできた。

漁業だけに、調理場は広かった。船の下半分は動力炉などの機械、魚介類を貯めておく貯水槽や冷蔵庫・冷凍庫が(ほとん)どだった。

この辺は使う必要はないかな?

独居房、雑居房も当然ながらあった。刑務官部屋もあったが、俺には豪華すぎた。

寝る時は3人一緒に雑居房かな。


調理場も巨大だった。調理場なのは確かなのだが、解剖室に近い機材の充実度だった。

解体するんだから当然か……。

「何か作る?」

冗談半分で言ってみた。

「俺、料理できねーぞ?」

「俺もできない」

……。ですよねー。

それでも健十郎は近くに備えてあった巨大冷蔵庫の1つを開く。

「そもそも食材がねーよ」

ホントだ。1つもないや……。

「まぁフリーズドライ食品があるし大丈夫だよね」

「乾パンも無駄に山程あるからな」


一通り見て回ったので船首に戻ってきた。レーダーは正常で、問題は見当たらない。

「ねぇ、哲さん起こしてお風呂に入らない?」

俺は自分の(わき)を嗅ぐ。うん、自分の匂いだ。安心する。

「慣れてきたが、確かに汗臭いもんな」

と、何故(なぜ)か俺を嗅ぐ。汗臭いのはそうなんだが……。

「失礼しちゃうよ」

「俺は嫌いじゃないぜ?」

自分の匂いと嗅ぎ比べている。

「……変態」

とはいったものの俺もまんざらではない。

「良い香りのする女子の方がいいが」

「汗臭い女子しか居なかったもんね」

うんうん、と(うなず)きあった。


お風呂も全自動だった。温度設定が可能で、取り敢えず45℃にする。

驚愕の、5分で湯船いっぱいになった。

人が入れそうな太さの筒から勢い良くお湯が出てきていたのだから当然か。


哲さんを無理やり連れて風呂場に入る。

「お風呂?」

久しぶりすぎて、巨躯から驚嘆する声が漏れる。

「早速入ろーぜ」

健十郎が湯船に飛び込もうとしている。

「先に体洗ってよ。綺麗な湯船が汚れる」

「俺が磨いた後の歯ブラシを美味しそうにしゃぶってた奴がよく言うよ」

股間をフリフリしている。下品だな。

「それとこれとは関係ない!」

てか、何時(いつ)の話だよ……。

ぶら下がる物に一発お見舞いしたお陰で大人しくなった。


よく見たらシャンプーもあったため、頭も洗った。

汚れが多すぎて全然泡立たなかったので、3回程洗う羽目になった。

体の上から洗っていくことで、汚れが再付着しないようになると、合宿で言われたっけ……。


「えへへ。(くすぐ)ったいよ……」

今の哲さんは自分の体をうまく洗えないので、健十郎と一緒に洗ってやっている。

「体はもう大人だよな。ボーボーだぜ」

股間にあるスチールウールを引っ張っている。数本抜けているように見えるのだが?

「あっ……」

丁寧に洗ってやれよ。中身はまだガキなんだから……。


綺麗になった俺達は仲良く湯船に使っていると、突然風呂場の扉が開かれた。

「お前ら何をやっている」

無道寺(むどうじ)だった。

凄く怒っていたが、なんやかんや言い訳して切り抜けた。今日は、だが。


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