誘発地震
外に出ると農鉱生産区の外側だった。
手入れされてない木々が生い茂っていたので、すぐにそうだと判った。
巨大な城壁のようなもので覆われているとは聞いていたが、ここまでとは……。
俺はいつも加工ばかりしていたから仕方ないのだが。
『おーい』
遠くに6人がいる。その内の一人が叫んでいて、手も振っている。
遠くからではよくわからないが、手招きしているようにも見える。
『早く逃げろ!』
「何から逃げるんだ?」
1番は俺に尋ねる。俺に聞かれても……。
倒壊の危険性……。火災の危険性……。それに依る爆発の危険性……。
爆発……?
あっ……。
「例のアレだよ。防弾チョッキみたいな……」
「それって事故死でも反応するのか?」
「知らないよ。もししたら、大爆発……」
今爆発しても可怪しくないということになる。
「えっ、やべーじゃん。行くぞ」
再び引っ張られる。1着しか無い俺の服が破れるだろ!
「靴履いた方が良いよ。そのほうが早く走れる」
「そのためだったか。よく見えてんな」
271番はとっくに靴を履いて準備万端だ。但し、彼の場合は遠足気分だが。
走っていると後ろから爆発音が……何故か断続的に聞こえる。
軽く振り向くと、遥か彼方から火花が散っている。
西というか左というか。兎に角左手から順番に爆発している。
農鉱生産区は導線のように次々と火が通り、俺たちの居た場所に迫ってきている。
「おい、よそ見してんなよ」
余所見しているお前も余所見してるよね?
「おい今心の声が聞こえたぞ」
前から……。いや顔を後ろに向けているから後ろから?声が聞こえる。
「気のせいじゃないかな」
「危なかったの」
居たのは刑務官だった。お爺ちゃんの方の。
知らない女3人と夢で見た男2人も一緒だ。何れも囚人だが。
凄まじい爆発音が聞こえた。どうやら僕らの板場所が大爆発したようだ。
火花は尚も右に走っていくが……。
「どちらか……。最悪2人共逝ってしまったかの」
あの爆発を見ればそうなるだろうな。
「あの地震は何だったの?」
まずそこだ。ことの原因はこれなのだから……。
「地震はいつものことでしょ」
564番の女が横から口を出す。
「どういうこと?」
「停電の日は地震が多発するのはいつものことなのよ。今日は特に凄かったってだけ」
「そんな当たり前の事はどうでもいいから、早く行かなーい?」
986番が不貞腐れる。ギャルっぽいババアだな……。
今では600番代以降は殆ど見かけない。つまりそれ以上の番号持ちは確実に古株……。
確かに年季の入った顔だ。スッピンなので余計酷い。
「少し語弊があるの」
割りこまれた話に割り込んできたのは刑務官だった。
「これからの話しは他言無用じゃ。バレたら囚人未満の扱いをされるじゃろ」
「えっ!?じゃあ教えなくて結構です」
「俺は知りたい」
「なら私はあっち行ってるから、終わったら呼びに来て」
129番は知りたそうにしていたが、女性陣に連れられ行ってしまった。
「1番。271番を連れて行ってくれない?」
「俺も聞きたいんだが?」
嫌そうな顔をされた。
「頼むよ!」
土下座一歩手前までした甲斐あって、渋々だが連れて行ってくれた。
「地震は実験の影響じゃ」
端折っているとはいえ、話はそれなりに長かった。
外なる国に対抗するための実験を行うために電力が必要で、その実験の影響で地震が起きている。
所謂人工地震というやつだ。
今回はその直後に誘発地震も起きたのではないかということ。
行ってるそばから余震が襲う。
そんな危ない実験するなよ……。
「仕方ない側面も大いにある。大半の陸地が現在は放射能汚染されているという話じゃしの」
話を聞いていると変な形の雲を見つけた。茸型だ。
「あれがキノコ雲じゃな。どうやら実験が失敗したのは本当らしいの」
あれが核か。あの位置は……。太陽から方角を考えると、北かな?少し西寄りだが。
「あの辺りは生態管理区がある」
「そこには何がある?」
聞いてきたのは110番の男だ。
「ミサイル転用可原子力発電所と精肉工場がある」
ミサイル転用可原子力発電所。
そのままの意味で、平時は発電を行うが、場合によっては発電所ごと発射可能だという。
「じゃああれがそうなの?」
大分変形したキノコ雲を見つめる。
「違うの。実験のために稼働中の発電所を発射することはない。
そもそも実験は地中で行っておるが故の揺れじゃ。あの雲は本当に起きた地震のせいじゃろうのう」
あれはどうやら事故のせいらしい。
ということはあっちにはいけないな。危なすぎる。
「それで……精肉工場は?」
影も薄い932番が急に口を挟む。
「人肉の生産工場じゃ」
あーなんとなく想像できてしまった。
「要するに俺らが運搬された時と似た状況だよね?」
「近いのう。じゃが君らは筋肉質。柔らかくはないのう」
俺を食べ物として見るのはやめていただこうか?
筋肉は少しでも動かすと霜降りにはなりにくい。
動かさないと筋肉の間に脂肪が挟まり柔らかいお肉になるからだ。
ただし、蛋白質が足りない時もそれに近い状態になるとも言っていた。
「つまり、死ぬまで袋の中と……」
「そういうことじゃの。目覚めた時は出荷の時じゃ」
「「「……」」」
当然の反応かもしれない。逃げる余地なんて皆無なのだから。
体育が義務教育なのはもしかして……。深読み早めておこう。それが良い。
「そ、そういう意味じゃ俺らはついているよね!」
「それはまだ分からんの」
一旦は話が終了し、女子会真っ只中の木陰へと来る。
「今後の方針を軽く説明する」
北は放射能汚染、東は農鉱生産区なので現在通行止め。
西か南というところか。
「西は農鉱生産区もあるから、その格好じゃとすぐに捕まるのう」
「そういや何で俺らを助ける気になったんだ?」
何やら懐をゴソゴソとしている。
「これ関係なんじゃが……。更にやばいものじゃが聞きたいかの?」
「言わなくていいわ」
他の人も満場一致のようだ。
ただ俺にはそれが見たことある。色違いだが……。
後でこっそり聞いてみるか。
消去法で南に行くことになるのだが、島の害獣をグルッと囲むようにある漁業戦艦区にぶつかるらしい。
そこで船を強奪するのが取り敢えずの目標らしい。
食料はどうするんだろうか?
サバイバルじゃよ。と楽しそうに返答された。反応に困る……。




