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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
暗黒郷
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計画停電

計画停電。

何処(どこ)かの研究所に電力を集めるらしく、そのせいで停電するらしい。

まぁ名前の通りだった。


問題はその時の暗闇についてだった。

この建物は光が一切出入りせず、電気がないと昼でも真っ暗闇だという。

暗闇への恐怖を思い出してしまった。今回は大丈夫だろうか?


「ただ暗いだけならまだましだろ」

「他にもまだ何かあるの?」

俺らは肉塊から離れた所にテーブルを移動させ、向かい合っている。血肉で汚れないように。

(つい)でに(たの)しもうって事で、殺しあうらしい」

呆れた。

(たの)しむって誰がさ」

「そりゃあ刑務官が、だろ?」

あー、確かにそれ以外無さそうだな。

「で、どんな感じになるんだよ」


停電と同時に扉の施錠ができなくなるが、解錠は自由にできる。

マリオネットの居る部屋は無条件で解錠されるそうだ。

要するに俺も餌というわけか。


「扉を抑えておけばいいんだよね?」

「そんな簡単だと思うのか?」


……。


うん、絶対にないな。

「そろそろだぞ」

俺らの部屋の引き戸は自動で全開になり、音を立ててロックされた。

「へーこれ自動ドアだったんだ……」

パッと暗くなる。急に暗くなったから見えないのか分からないが、全く何も見えない。

(まぶた)の裏で、アメーバのようなものが僅かに光り波打つ。

よく目を(つむ)ると見るあれだな。



(しばら)く経った。暗順応したはずなのに、依然として何も見えない。

スヤスヤと寝息だけが聞こえる。

「暗すぎて誰も動けないんじゃない?」

「かもしれねーな」

それで会話が終了してしまった。

えっ、それだけ?

「271番の所で寝ない?」


……。


応答はない。

「交代で見張りながらさ?」

「まぁいいが……」

全く見えないので、四つん這いになって手探りで進む。

目標は寝息の音。

何度も同じ肌触りの、ザラザラする床を叩いた。多少のクッション性のある床をだ。

そう言えば、床は畳だったっけ。良いところの畳ではないので(わら)を触っているようだ。

もう一つの音源は1番が手探りしている音が聞こえる。


闇雲に探す俺の手は何かに触れた。小さな山に穴2つ。指がちょうど収まる穴だ。

中は毛だらけで、空気の流れも感じる。

近くにもう一つ大きい穴があり、硬い何かと、ザラザラとする湿った物が指に絡みつく。

顔か。

更に手を伸ばすと毛が生えている所にぶち当たった。

これは髪の毛かな?

271番の……だな。間違いない。匂いがそう告げている。

頭をあげると障害物にぶつかった。


「「いっつー……」」


ぶつかった先に手を伸ばすと別の生き物が居た。

「悪い。見えなくて……」

「それは別にいいさ」

俺はそのまま271番の隣に横になった。

恐らく1番は俺とは逆側で横になったと思う。


枕を持ってくるのを忘れていたので、271番の腕を枕代わりにしてみた。

暖かくて寝心地が良い。この部屋は年中快適だが、夏にしては寒すぎるからな。

冷えないように、俺は更に271番に擦り寄る。


突然枕が動き、俺の体を引き寄せる。

勢い余って、俺の顔は271番の胸の上で再び硬いものと激突する。

「いてっ」

声と一緒に1番の匂いが鼻に届いた。俺と同じく引き寄せられたのだろう。

右手を伸ばすと、胸の反対側には確かに頭がある。

「おい。何ベタベタ触ってんだよ」

「えっ? ああ、悪い悪い」

肌触りが良い。あぁ、もっと触っていたい。だから触るのを止めなかった。

1番はそれ以上何も言ってこなかった。


相当の時間()でていると目が重くなってきた。

「ちょっと眠くなってきた……。後は任せるよ」

欠伸(あくび)も出た。

「それは良いが、俺がお前を殺すかもしれねーぞ?」

「それは……別に構わないよ。好きにすれば……」

何か言ってきたような気もするが、夢に吸い込まれる。

見知った匂い、確かなスキンシップ、敵意のない温もりの中で安堵に包まれた。


-------------


目が覚めると、俺は271番の胸の中で……、何故(なぜ)か1番に手を握られていた。

大きな揺れを感じるので、どうやらそれのせいで目が覚めたらしい。

とんでもない揺れだ。だがすぐに終わる。

「倒壊したら俺らは終わりだな」

「よせよ。縁起でもない……」

はははっと笑ってはいたものの、手を強く握り返された。


また地震が起きる。今度の地震は凄まじかった。

揺れ幅も大きいのだが、2つの地震が合わさったかのような気持ち悪い揺れ方だった。

建物がミシミシ……。いやパリパリ? 粉が落ちるような音もする。

「冗談抜きでやばそうだな」

「動く?」

「この暗さじゃ動いても意味はねーだろ」


遠くで何かが崩れる音がした。鉄筋の音も混ざっている。

「……崩れ始めちゃったね」

「言い残さないように何か言っておくか……」

「やめろって……」

「お前らのこと好きだったぜ!」

抱きつかれた。

「はっ……? どういう……」

「2度も言わせんなよ。恥ずかしいな」

暗いからわからないのだろうか。痛い。顔を叩くな。


崩れる音が迫ってくる。俺も2人を抱き返し、目を閉じた。

轟音と粉煙の匂いが満ちている。

うるさすぎてお互いの声がよく聞こえない。271番の寝息もよくわからない。

今度はガラスが割れるような音もする。かなり近い。


爆音が止まった。どうやらまだ生きているようだ。

2人が目に入る。扉は廊下側に倒れ、天井は斜めになっている。

扉と反対側の壁は持ち上げられ、外と繋がったようだ。光はそこから差し込んでいる。

「早く逃げねーと……」

服を引っ張られる。

「逃げるって何処(どこ)に?」

「外だろ? 早く出ないと押し潰されるぞ」

そういう意味じゃないんだけど……。まぁいっか。

兎に角、押しつぶされていない靴を取りに行こう。

「おい、何処(どこ)に行くんだよ」

「靴だよ」

「そんなのどうだって良いだろ?」

俺は必要だと思ったそれを取りに行く。絶対ないと後悔する予感がある。

「すぐ行くから」

低くなった天井に触れないように手を伸ばして3人分を集めた。

もう一つ靴があったが……。俺が殺してしまった奴のだな。ご愁傷様。


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