自発的殺人【※】
久しぶりのご馳走で、はしゃいでしまった。
気分の悪そうな新人も多いが、そのうち慣れるだろう。
腹を撫でながら扉が全開の自室に戻る。
「お、起きたか」
271番は眠そうな目を擦りながら欠伸をしている。
「あ、飛鳥お兄ちゃん。おはよう」
俺が視界に入ってないような目だな。
「もう大丈夫なのか?」
俺は271番の顔を両手で挟み、顔を覗き込む。
「えっ……!? そんなに顔近づけたら……」
目が右往左往する。頬が少し赤いな。
「もう少し休んでた方が良いんじゃないのか?」
「お前な……。それは風邪じゃねーから。気づけよ馬鹿」
「俺は馬鹿じゃない」
振り向くと、呆れ顔の1番が目に映る。
「あーわったわーった」
お前、何時から俺っ子になったんだ? などとブツブツ言いながら壁に凭れたようだ。
ガラッ。閉めたはずの扉が再び開かれる。
居たのは4の番号をつけた巨躯の男だった。俺から見れば、なのだが。
体をできるだけ大きく見せようとしている。
よく見ると、少し震えているようにも見える。虚勢か?
目は色々泳いでいるので、心はそうでも無さそうだな。
「誰?」
4番は俺の顔を見て、動転したのか滑って転けた。
俺の顔に何か付いているのだろうか? 触ってみるが違和感は感じない。
「きょ、今日からこの部屋に……」
「あー新入りだろ? 番号増えてたもんな」
俺は忘れていたが、1番は部屋の前にある札を確認していたようだ。
「さっさと入れよ。扉は閉めてこいよ?」
とろとろとした遅さでやって来た。
俺は机に頬杖を突いて小さなテーブルの向かい側に居る4番を見つめる。
1番は相変わらず壁に凭れているが、271番は4番の後ろでゴロゴロしている。
俺は机に頬杖を突いて小さなテーブルの向かい側に居る4番を見つめる。
何故か正座をしている。着席するなりタカと名乗り、そのまま沈黙している。
「で、何?」
……。
応答は返ってこない。俺の顔は徐々に降下する。
「何もないなら寝てくれないかな? そろそろ消灯だし」
とうとう俺の顎が机に触れる。
だるいなー……。
「お前、よくもあんな事を出来たもんだな」
何だ? 少し目に光が宿った気がする。
「あんな事ってなんだよ」
ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないから。
「殺人と……、それに晩飯の事だよ」
怒りが声に滲み出ている。
「そんな事かよ。それがここのルールだ。郷に従えないなら死ぬしか無いぞ?」
一瞬怯んだのか、一瞬だけ悲鳴が微かに聞こえた。
「それに美味しかっただろ? あれが一番のご馳走だ。あれがないと恐らく俺らは餓死するからな」
「だからって」
テーブルを叩く音と同時に怒鳴られた。
危ないので、俺はテーブルを横に退ける。
やれやれと一瞬だけ目を離し、再び前を見ると違う番号がそこにいる。
271番が首を締められた状態で。首元には……フォークか?
「お前、何してるんだ?」
訳が分からない。どうしてこうなる?
「俺は聞いたんだよ。こいつを人質に取れば言う事を聞かせられるって」
初耳だ。というか誰に聞いたんだよそれ。確かに困りもするが……。
「誰に吹きこまれた? えぇっ!?」
じわじわと怒りがこみ上げてくる。その何者かとコイツの両方に、だ。
271番は動揺しているが、一切喋らない。それが正しいと分かっているようだ。
俺の威嚇が強すぎたせいか、フォークが首に減り込み、赤い雫が1滴滴る。
「分かった。今271番を開放すれば情状酌量するよ」
許す気など無いがな。離した途端ぶっ殺す。271番は身内、4番はそれ以外の物だから。
……。
離す気は毛頭ないようだ。1番は依然として壁に寄り添う。
「おい、1番。俺を手伝え。4番を殺す」
反応がない。一瞬見たが、寝たふりをしているのだろうか?
「手伝わないなら後でお前も肉にするぞ」
「やってもいいが、後で大変な事になるが?」
俺の殺意を受け漸く反応した。
「構わないから手伝え。俺が右、お前が左だ」
4番の声は一切俺には届かない。余計な物を排除する必要があるのだから。
俺がフォークを持つ腕を絞り上げる。271番につきつけられた凶器は床に転げ落ち、後はボコるだけだ。
正直一人でできた気もする。いや、共同作業をする事にメリットはあったはずだ。
引き剥がした4番の足を払い、床に押し倒す。
その上に跨がり、綺麗な方の腕を捻り上げて拘束する。
そのままひっくり返し腹に渾身の一撃を見舞う。4番は唾と混ざった血を吐き、腹を抱えた。
容赦はしない、だが即死はさせない。
顔が無防備なので、蹴った。鼻は折れ、口が切れたのか、更に少量の血が床に飛び散る。
背中を蹴ると血が吹き出す。胴にダメージを与えると、ポンプを押したように口から液体が飛び出すようだ。
足を踏みつけると鈍い音と共に普段と違う方向に曲がった。
髪を鷲掴みして頭を床に叩きつけると、喋らなくなった。
まだ意識はあるのか目は開かれている。
僅かに潤む瞳は後悔に塗れ、慈悲を乞うている。
畳に突き刺さったフォークが視界に入る。よし、これも使おう。
俺はフォークを手に取り、俺を否定したその目を潰した。
反応がなくなっていた4番は再び騒ぎ、身動ぎ始める。
両の目を潰した後は髪を毟り取った。頭皮も一緒に剥がれ、出血し始める。
頭蓋骨がヌルッと光を反射しながら顔を出した。
汚いボロ雑巾を延々と殴り、蹴り、刺し続けた。
気が付くと、青く腫れ上がったモンスターは赤い布を纏って、体は蜂の巣になっていた。
感想は1つ。不味そうな肉だ。
それよりも、時計が可怪しいのか? まだ消灯しない。
「今日は消灯しないのか?」
271番は既に寝ていた。呑気なものだ。
「明日は計画停電だからな。今日は0時まで明かりは付いてるぞ」
「え、何だって?」
急に俺の知らない単語が耳に入ってきた。




