ヘドロジュース
マジドナルドにはドナルドという、ネズミーランドに居る雄のアヒルに非常に似ているピエロがイメージキャラとして居る。
「まだ11時なのに人多すぎだろ」
既に行列も行列。大行列なのだ。
「じゃー並ぶわよ」
「あ!」
「裕、どうした」
「財布忘れてきた……。
後で持って行こうと思って鞄の上に出したまでは良かったんだけど……」
俺も財布持ってるか一応ポケットを擦り確認する。
「それなら心配いらねーよ。俺は持ってくる気すらなかったからな」
堂々と言えるあたりが凄い。褒めてはいない。
「よく恥ずかし気もなく言えるわね」
百合姉も財布を取り出す。
「気にしてねーからこそ恥ずかしくねーんだろ?バカか」
「バカにバカって言われたんだけどー」
財布にいくらあるか確認しているようだ。
「健は持ってきたのか?」
持ってきてない哲兄に言われても……。
「俺はちゃんとしてるからな。ほら。でもお金全然ないから皆の分は無理」
「百合姉、奢って欲しい!」
「仕方ないわね。ついでに健ちゃんの分も出してあげるわ」
ラッキー!
「俺も俺も!」
俺に集れないから、今度は百合姉に擦り寄る。
「あんたは後で返しなさいよ?」
意外だった。あんだけ仲悪そうだったのに。
「わかってるって!」
無邪気な笑顔から白く綺麗な歯をちらつかせる。憎めない兄貴だ。
「絶対わかってないでしょ……」
溜息が聞こえた気がする。
『『いらっしゃいませー』』
「こちらでお召し上がりですか?」
明らかに席は混雑している。
「混んでるようなのでテイクアウトで」
「畏まりました。ご注文をお伺いいたします」
「俺はマグマバーガーセットと熱々ナゲットで、ドリンクはコーラ、ソースはバーベキュー」
「じゃあ私はテリヤキバーガーセットで、ドリンクはコーヒーかな。健ちゃんは何にするの?」
「んー、俺はダブルチーズバーガーとキンキンバーガーとグレープソーダのMサイズでいいかな」
キンキンするほど冷たいなら夏場にピッタリそうだという理由で選んだ。
「悩むなあ」
メニューを見ながら口がへの字になっている。
「裕は、さっき言ってたヘドロジュースとデスバーガーにしろよ」
「うーん……そうだね。俺はデスバーガーセットでヘドロジュースお願いします!」
「畏まりました。お会計は4310円になります」
「これで」
「5010円お預かりいたします。700円のお返しになります。
レシートに書かれた注文番号をお呼びするまで脇に逸れてお待ち下さい。
ご注文内容はレシートにてご確認お願い致します」
「で、ヘドロジュースってどんななの?」
「飲んでからのお楽しみだろ!」
「うーん……そうだね!」
「俺は暑いから冷たそうなの頼んだが、哲兄は熱そうなの頼んで平気?」
「暑いからこそ辛く熱々のを食べるのが良いんだろ」
「熱中症起こしても面倒見ないからね」
「俺がそんな軟弱な訳ねーだろ」
「奢ってあげたんだから、あんた達取ってきて頂戴。
あそこのベンチに先行ってるから。これレシートね」
「305番だな」
『注文番号305番の方ー』
「はーい!今行きまーす!」
「俺に任せろ!」
「流石に一人じゃ無理だろ。潰すなよ」
「哲って自分のものに関わると繊細になるよね」
「ねぇ、百合姉の貧乏ゆすり始まってるよ?」
「やべ、急ごう!」
「百合が怒っても痛くも痒くもねーけどな」
「「いただきまーす」」
「哲、頂きますは?」
俺の前を、寒気のする視線が通る。
「母さんでもねーのに一々うるせーぞ。
ほっふほっふ、こぉの、ゴクン。ピリ辛で激アツな感じがサイコーだな!」
「ぱっと目はマグマがグツグツしてる様だね」
ボコっという音まで聞こえる……。
俺も一口……。
「んーーあーーーーきぃーーー。頭にキーンと来る……」
「そりゃあキンキンバーガーだしな。当然だろ」
衝撃の冷たさだった。味はしっかりあるのに冷たい。
アイス並みか? それ以上かもしれない。
「ホント物好きよね、あんた達は」
「デスバーガーってのが謎だよね。どんな味するんだろ」
一口頬張る……
「んー美味し……かっらーー!水!水!水を!」
「味がわかるように、辛味は後からくる様になってるらしいぜ。持ち上げて落とすパターンだな!」
「哲兄、はいヘドロジュース」
勢い良くヘドロジュースを飲むが、
「!?げほげほっ。ぜーはー……ぜーはー……」
「ちょっと大丈夫なの?」
「大丈夫、ほっとけばすぐ治るから」
「俺死ぬかと思ったよ……」
「喉に死ぬほどの激痛が走るように出来てるからな。
ただ、激痛が走るだけで炎症は起きねーから問題ねーよ」
「でも……この組み合わせ最高だね!癖になる!ひいー辛いぃ!
ゴクン、げほっげほっ、ぜーはー……ふぅー。サイコー!」
「裕ってもしかして対抗恐怖症になった?」
「対抗恐怖症って何さ」
「思わず逃げ出したくなるような危険な状況に身を置かずにはいられなくなる症状のことよ」
「そう? 気のせいだと思うよ!」
俺には単なるスリル好きに見えるが……。
「今のとこ平気そうだし問題ないんじゃねーか?」
「楽しそうじゃのう」
「「ひゃあっ!」」
爺ちゃんが急に耳元で囁いたのだ。
「お爺ちゃん驚かさないでください」
「いやぁスマンスマン。楽しそうじゃったからつい、な」
「あなた達、変なことしてなかったでしょうね」
どうやら2人で来たようだ。
「花姉、私は何もしてないわ。哲がわざと財布忘れてきたくらいよ」
ちらっと哲の方に視線が集まるが、すぐにそれは散った。
「これから心臓発作屋敷に行って幕を閉じようと思っとるんじゃが、どうじゃ。
お前たちも行くかの?」
「「行く行く!」」
要するに、超絶怖いただのお化け屋敷だもんな。乗り物じゃないから平気だ。
「すっごい面白そう!」
「お爺ちゃんのとこは私が見るから、花姉は他の所お願い」
「百合は哲に一々過剰反応しなければいいのだけど……。
まぁ任せたわ。それじゃあね」
花姉はモデルのような歩き方だ……。人混みで見えなくなるまで、少し見とれてしまった。
「屋敷はあっちだって」
「いやこっちだろ」
地図を見ながらもめている。全く逆を指差し合って。
「方向音痴の哲が合ってるわけ無いでしょ。行くわよ」
「ふぉっふぉっふぉ。仲良くのぅ?」
「「へーい」」
「楽しみ!」
『やぁみんなぁ。楽しんでるかい?』
移動中、唐突に裏声じみた甲高い声が響き渡る。
『『『「はーい!』』』
『そんな君達には、友だちになった証として風船をあげるよお!』
「あれがネズミーマウスか?」
「当たり前だろ。耳が捥げてるからな」
「じゃー隣りにいるのがネズミニマウスかな」
ネズミニは沢山の風船を持ち、それをネズミーに1つずつ手渡すだけの係のようだ。
「隣りにいるネズミニは単なるパシリじゃん」
「パシリじゃないわよ。
ネズミーは旅立つ者に、ネズミニは今を生きる若者に祝福を与えるって設定よ。
旅立つ者っていうのはあの世へだけじゃなく、帰宅とか移動も当てはまるから、入場ゲートに居なかったのはそういう事情よ」
「百合ちゃんは物知りじゃのう。感心感心」
「俺、風船もらってこようかな!」
「お前年いくつだと思ってんだよ」
「年なんてどうでもいいじゃん!欲しいから貰う、ただそれだけ!」
「いいんじゃないかしら。ねぇお爺ちゃん?」
「そうじゃのう、好きにするとええんじゃないかの」
「健の分ももらってくるね!」
はっ……!?
「俺のはいいよ、邪魔になるし……」
オブラートに包んで拒否した。
「え、知らないの?最近の風船は邪魔にならないんだよー」
「どういうことだ?」
俺の質問を横取りされた。
「哲兄。それはね、入場する時に風船からガスを抜いて、出る時にまた入れてもらうんだよ。
万が一空に飛んでいった時なんかは勝手にガスが抜けてゆっくり降りてくるようになってるし」
「無駄にハイテクだな」
「でも恥ずかしいしいらない」
「もらってくるなら早くしてよ」
『すみませーん。風船2つもらえませんか?』
『ほほっ!大きくなっても無邪気さを忘れない君には特別サービスだよ!』
『やったー!大好きネズミー☆』
『ふっふふ!』
ホントに無邪気に走ってくる……。
「もらってきちゃった!はいどうぞ!」
「え、要らないよ……」
今すぐにでも風船を割りたいレベルなんだが……。
「はぁー代わりに私が持っててあげるわ」




