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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
暗黒郷
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僕の殺意

どうしてそんな顔をするの?

僕だって焦ることはあるんだよ?

そう言う前に、健十郎は口を開けた。


「な、何であんなことしたんだよ……」

少し震えていた。

「起こさないとまずかったから……」

「だからって、殺す事ないだろ?」

少し見下してきた。後退(あとずさ)りながら。

「わざとじゃない。起きなかったらどっち道殺されてた」

僕は距離を詰めた。健十郎が後ずさった分を。

「じゃあなんで笑ってたんだ!?」

少し怒気を帯びていた。今度は逆に近づいて。


「えっ……?今なんて言ったの?」

突然の事で思考が停止しかかる。

「だから、何であんな楽しそうに殴ってたんだっつーのを聞いてんだよ」

更に近づき、最早完全に怒っている。

「僕はそんなことしてない」

真剣に言った。嘘偽りはない。

「……」

健十郎は黙ってしまう。敵意を剥き出しにして。


(しばら)くすると、再び声をかけられた。

「じゃあ俺を殺す気はないんだな?」

(まさ)に、生存本能が働いているかのような顔をしている。

「さっきからどうしてそんな顔するの?僕は健十郎を殺すわけな……」

「いい加減にしろよ」

言い終わる前に話を遮られた。

「あの後、俺を見たよな?なぁ見たよな?」

「……」


そう。確かに健十郎を見たことは見たのだが。

「しかも俺に殺意が飛んできてたんだよ」

寝耳に水だ。

(あまつさ)え、笑ってたんだよ」

「僕はそんなヤバイやつじゃない」

必至に理解を求める。

「じゃああの時のことを思い出してみろよ」

何処(どこ)を……?」

「決まってるだろ?お前が人を殺してた時だよ」

健十郎はイライラしている。


そう、あの時は……。倒れた人に命の危険があった。

起こさなければ。ただそれだけだったはずなんだ。

なかなか起きないので叩いて、殴って、蹴って、殺してしまった。

「鏡を見て自分の顔でも見てみろよ」

健十郎の指差す先には確かに鏡があった。

健十郎の顔に注意を取られ、どうやら気づかなかったようだ。


鏡には一人が写っていた居た。

僕の容姿をした“何か”が。

「やっぱり(なぶ)り殺したんだろ?」

怒る気はもう無いようだ。

「違う」

「じゃあ何故(なぜ)今笑ってたんだ?」

健十郎には恐怖が募ってきている。

「そんなの僕にも分からないよ。でも信じてよ。僕は健十郎を殺したりしないから……」

僕は一生懸命誠意を伝える。しかし鏡に写るのは不敵な笑みだ。


僕はどうしてしまったんだろうか?

自分の表情すら制御できていない。


「その笑いだけならまだ良かったんだ。お前の殺意が怖い。心底怖かったんだ」

後退(あとずさ)りすぎて、壁に背中がぶつかってしまっている。

僕は親友に拒絶される恐怖で、衝動的に手を伸ばす。

「くっ、来るな!助けてくれ」

自衛するその姿を見て僕は伸ばした手を引っ込めた。

「僕の方が助けてほしいよ……」

僕は少し悲しくなった。涙は……、何故か出る気配は全く無かった。


「お前から感じる得体のしれない何かが、俺の一生の中で一番怖かったんだ。

それがとんでもない殺意を放ってたんだ。だけど幼馴染のお前とは、できれば……。

元通りになりたい」

僕の名前は呼んでくれない。でも、希望があると分かり僕は嬉しくなった。

そのせいで少し近づいてしまったようだ。足が一歩前へ出ていたのだ。

「ひっ」とそんな声が聞こえる。

鏡には僕の怪しい笑いがまだ写っている。


「わ、分かったから、これ以上近づくな。今後ゆっくり距離を詰めよう。なっ?

だから今はできるだけ離れろ。俺から離れろ。もっと。そしてその変な笑いをやめろ」

健十郎は腰が抜けてしまっている。


「おーい何やってるんだ?」

声の方向を見ると裕さんと哲さんがいた。


「2人とも無事だったんですね」

僕はホッとしたように話しかけた。2人共僕を拒絶したりはしない。

「勿論だよ。まぁかなり疲れたんだけどね……」

「労働……ですか」

「そうなんだ」

裕さんは苦笑いしている。疲労が顔に出ている。

「裕兄、眠い……」

本当に眠そうだ。


皆何処(どこ)で寝る?」

そう。4人部屋の何処(どこ)で寝るかという話だ。

ベッドなどはないから布団を敷いて寝るのだが。

「2人は仲がいいから隣同士で……」

気を利かせた裕さんの言葉は健十郎によって遮られる。

「嫌だ!」

何を想像したのか、失禁間際の様相だった。


「健、大丈夫なのかい?」

裕さんは健十郎を介抱しようとする。

「寝る場所は……僕と健十郎は反対側で、間にお兄さんたちが入ってくれませんか?」

話がややこしくなる前に、取り敢えず僕も寝たいのだ。

「それはいいけど……」

「助かります!では僕も寝ますね。お休みなさい」

話を聞かれそうだったので、打ち切って寝ることにした。

「……うん。おやすみ」


その後健十郎は眠れず、翌朝目に(くま)ができていた。


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