表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
暗黒郷
50/87

ニンニク【※】

「よし。全員よく聞け。これから、そこにある物の解体を行う」

そこにある物。つまりは死体のことだろう。


「資料は見たが、人体解剖は全員履修済みだな?」

誰も異論は言わない。あっても言えそうにはないのだが。

「ならば、各自作業に取りかかれ。機材はそこに有る」

そう指差されたところを見ると、解体用具があった。

それ以外にも気付いたことがあった。


解体用具の近くには先輩と思われる囚人が居た。まるでマネキンのようにピクリとも動かない。

255番、288番、296番、301番、404番と書かれているな。

29番はというと……先程殺した物を黙々と解体中だ。


状況的には解体用具という名の武器が与えられ、女性刑務官は無防備だ。

絶好のチャンスではあるが、先輩囚人という不確定要素がそこにいる。

僕なら動かないな。絶対にね。


1人のバカは解体用具を手に、先輩囚人の近くで素振りを始めた。

様子を見ているのだろうか?

分からないが、結果を言えば先輩囚人は微動だにしなかった。


それで行けると思ったのか、走り出したのだが……

走り出したと同時に首が()ねられた。

胴体は噴水となり、棒のように倒れ、反動で足が僅かにリバウンドし、動かなくなった。

首は宙を舞い、鈍い音を発して床に落ちた。僕の目の前で。

少し目が動いた気がする。僕を見つめたのだろうか?

定かではないが。


「抵抗しようとする馬鹿が多いとは思っていたが、そう言えば言い忘れていたな。

刑務にあたる者は皆、爆発物を装着し、センサーも装着している。

万が一殺されるようなことがあれば、この建物ごと木っ端微塵になる。

我々を殺せば君らは全員死に、殺さなければ永遠の奴隷だ。

まぁ頑張ると良い。奴隷として長生きできるように、な」


……。


なるほど。そういう事だったのか。

此処(ここ)でも規則に縛られ、従順でなければならないのか。

死が蔓延(はびこ)る分、此処(ここ)の方が(ひど)そうではあるのだが。


-------------


僕らは死にたての肉も、豚の屠殺(とさつ)の様に処理をした。

爪、体毛、骨、リンパなどの部位はゴミ処分場行きになった。

じゃあ残りはどうするのだろうか?

その答えはすぐに(わか)った。


「残りの肉を持って調理場に行く」

「えっ?」やら「はっ?」やら、様々な疑問文が発せられた。

「これを調理してもらう。出来た料理は今晩の貴様らの食事になるからな」

と、女性刑務官は気持ち悪い事を平然と言って退()ける。

想像して気分が悪くなったのか、失神した者も居た。


「気分が悪そうだが、既にお前たちは食べた事があるはずだぞ?

ニン↑ニク↓という国産肉だ。人の肉、つまり人肉(ニンニク)の事だな」

止めの一言で、ゲロった者もいた。


「その汚物は自分で掃除しておけよ?終わらなかったらお前も食卓に上がってもらう事になるな」

それを聞き、吐いた者は慌てて、しかも必至に正気を保とうと奮い立つ。震える体で。


「そこのお前!」

え、僕?自分を指さし刑務官に問いかける。

「そうだ。お前はその倒れてる奴を叩き起こせ。直ぐに起きないようなら食材にでもしようか」

いやいやそれはないだろう。


僕は倒れる男を起こそうと()するが、起きない。


頬を叩く。尚も起きない。


殴る。それも手加減無しで。しかし起きない。


死ぬよりはマシだろうと思い、蹴る。完膚無きまでに。一向に起きる気配がない。


エスカレートしていった。それでも起きない。

「起きないのなら諦めてもいいぞ?」

彼女は優しく微笑んできた。

僕は返って焦ってしまったようだ。更に強く殴り蹴り、僕の手足も痛くなった。

(しま)いには頭を床に叩きつけていた。


結局起きなかった。そればかりか、殺してしまった。

僕は冷静だったつもりだったのだ。そのフリをすることで立っていられたのだと気付く。

そして、健十郎の青褪(あおざ)めた顔が目に入った。僕の顔を見ている。

その顔のお陰で冷静になれた。同時に“違う”と叫びたくなる気持ちが湧き上がった。

対照的に刑務官は嬉しそうだ。可憐(かれん)とも言える笑顔を僕に向けて。


-------------


料理のメニューは様々だったが、ローストニンニクもあった。

クリスマスに食べたメニューだ。

あの時は美味しそうに食べたのだ。知らなかったが故に。


人によって出された物は違った。

ある者には乳房のステーキが。

ある者には男性性器のフランクが。

ある者には(タン)の焼き肉が。


僕にはロースト人肉(ニンニク)だった。よりにもよって、だ。


『残飯を出した者も明日の材料になってもらうから、そのつもりで』

女性刑務官は大声でそう叫ぶ。皆に聞こえるようにだ。

『では合唱』

「「「いただきまーす」」」

気分が優れないのか、声が大きかったのは先輩囚人達だけだったように思う。

『声が小さい!もう一度だ。合唱!』

怒鳴るような強烈な声量にびっくりしてしまった。

「「「「「「いただきまーす」」」」」」

さっきよりも多くの人が大きな声で言った。

自棄糞(やけくそ)といった声が多かっただろう。僕のも含めて。


ロースト人肉(ニンニク)酷かった。

筋肉質なので硬いのだが、味付けは良く、本来ならば“美味しい”との評価になるはずだった。

但し、今回は同種族の肉であった事から脳が拒絶反応を起こす。


美味しいローストニンニクの旨味がする。

しかし気分が悪い。脳から脳にロースト人肉(ニンニク)悪味(あくみ)信号が送られて来るのだから。


脳は拒絶するのに、舌は美味しいと感じている。その差が吐き気を促す。

吐きそうなそれを水で無理やり腹にかき込んだ。

生きるために仕方なく。

吐いた者もいた。だが生きるために嘔吐(おうと)物も再び腹に収めたようだ。


-------------


食後に初日は施設の説明と明日からの役割分担の説明を受け、割り当てられた雑居房にいく。

僕は健十郎、裕さん、哲さんと一緒だった。

2人は先に連れてこられたのだろう。

4人部屋なので丁度いいのだが、臭い雰囲気が漂う。

ただ、その考えも一瞬で吹き飛んだ。


健十郎が信じられないというような顔を僕に向けていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ