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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
5/87

ネズミーランド

恐らく、終皇79年7月20日 晴れ

黒山の人だかりだったようだ。


『到着よ。全員荷物持って集合』

「ホテルじゃねーのかよ」

第一声は哲兄だった。ウキウキが一瞬で消滅している。

もうこれでもかって程がっかりもしている。

「寧ろ旅館の方が良いでしょ」

「そうだな、(のぞ)けるかもしれんしな」

立ち直りも早かった。確かに旅館だと温泉だが……。

「変態」

百合姉は何故か胸を抑える。下じゃないんだ?

「何、無いもの隠してるんだよ。お前のなんか見たくもねーわ」

「一応女の子なんだし気を使ってあげたら?」

俺は百合姉をフォローした。

「一応って……もういいわ」

うん。フォロー失敗だったようだ。


『それじゃ、荷物を部屋においたら風呂入って御飯ね。御飯は19時の予定だから遅れないように』

「「「「はーい」」」」

確実に(ほとん)どの兄弟たちは返事をしていないな。

俺もしてないが。内緒だぞ?


男女それぞれ別で、大広間を2つも貸し切りにしたようだ。

その辺の仲居さんに聞いたら、スカイ首吊りタワーは東京にある一番高いタワーで、スカイダイビングが出来るらしい。年寄り用に、切れやすいロープもあったりという。

ウェルテル恐竜博物館は古代生物の発掘・研究・展示を行っていて、恐竜時代を再現するアトラクションもあるとのこと。


-------------


翌日、朝食を食べたら早速ネズミーランドへ行った。

夏休みともあって凄まじい人数である。


近くにいる花姉と母さんの応答が聞こえてくる。

「ねぇ、来るの遅かったんじゃない?」

花姉が心配する程の人集(ひとだか)りのようだ。

「大丈夫よ、満了者(ターミナス)優遇券持ってきたから」

母さんはヒラヒラと優遇権を見せる。

「流石ね」

「花ちゃん皆に入場券配っといて」

どうやら家族全員分あるらしい。40枚弱か? 札束のようだ。

「わかったわ。お婆ちゃん後ほど」

「はいはい」

手を振る花姉に母さんも手を振り返している。


花姉が俺らに券を配り、他の兄弟達に配りに少し遠くまで行く。

「いい子に育ったものね」

婆ちゃんはしみじみとしている。

「ええ、長男長女は特に優秀ね。この2人がいればお婆ちゃんが居なくなっても大丈夫そうね」

母さんも負けじと感慨に(ふけ)る。

「そうねぇ。でもあんたはよくドジしてたけど今じゃ面影すら無いわ」

突然母さんの顔が真っ赤になる。こんな顔は初めて見た。間違いない。

「やめてください、昔のことは。墓まで持って行ってもらえると助かります」

声はまともだが、手の仕草と表情が確実に焦っていることを示している。

「ふふ、そうしておくわ」

母さんの昔の話が飛び出そうとしてきたが、聞けそうになかった。

「お客様、整理番号をお配りしております。満了者(ターミナス)優遇券はお持ちでしょうか?」

係員がやって来た。そろそろか?

「ちょっと待って。えっと……これね。はいどうぞ」

「何名様でしょうか?」

「37人よ」

「畏まりました。ではこちらへどうぞ。向こうで券を確認いたします」

「さぁー、いくわよおー。全員ついてきなさい」

「「「はーい」」」

37人の大所帯が一斉に動き始めた。


-------------


今日は4人での行動かな?


「うおーー、ひっろー」

手スリに乗って叫んでいる。哲兄がガキのようだ。

「当たり前でしょ。敷地面積は確か……100万㎡よ」

とんでもない広さだな。叫ばないまでも、驚きを隠せない。

「それで、どこいくの?」

裕兄はパンフレットを広げて皆に尋ねてくる。

「そりゃあまずは絶叫マシンだろ」

絶叫マシンはっと……。これか。

「スペーススパイラルだね。俺も哲兄と同じ」

「じゃあ私もそれでいいわ。特に何かしたいものもないし」

「僕はそういうのはちょっと……」

裕兄だけ嫌そうな顔をしている。

「裕、ビビってんのか?」

「裕兄ってこういうの苦手だよな」

裕兄は怖いものを先に排除してしまう傾向にあるからな。

「そうだよ、悪い?」

開き直りの速さは家系だろうか……。

「大丈夫。気持ち悪くなったら優しく診てあげるから」

「え、う、うん。わかったよ」

裕兄は百合姉に()でられて、恥ずかしながらも、まんざらでもない顔をしている。

「俺には?」

そお。俺も欲しい!優しい抱擁が!

「健ちゃんは無くても大丈夫でしょ」

「ちぇー」

残念。


【本日は通常運転です。】

そう看板には書かれている。


「今日は通常運転だとさ。通常以外に何があるんだよ」

「休止中とか?」

哲兄も裕兄も知らないようだ。

「他には特殊運転とかあるわよ」

博識だなーと感心する。

「なんだそれ」

「例のあれよ。この世とお別れするー」

説明も上手い。ピンとくるような事を言う辺りが凄いのだが。

「あー、なるほどな」

「その意味では安心だね」

俺もまだ死にたくないな。もっと遊び倒したい。

「いや、特殊運転でも若者に死傷者なんて出ないわよ?」

「え、そういうもの?」

「稀に間違って死んじゃうらしいけど、運が悪かったと笑って流すものよ。

所謂事故ってやつね。事故のない完璧な物なんて存在しないから」

さらっとすごい事言ったような気もするが、普通の事だな。

「哲兄、早く順番ならぼーぜ」

「おう」

「あ、うん。そうだね」


【しばらくお待ちください。】


「やっと順番来たぞ。優先されても20分待ちとか」

「もう疲れた、怠い」

長く待たされ(ようや)く乗り物に乗り、安全バーが降りる。

刺激がなさすぎて疲れたのだ。

「やっぱり乗りたくない……」

ここまで来て裕兄が駄々をこね始める。そもそももう降りられないが。

「ここまで来てそりゃあないぜ」

「裕ちゃんいい子いい子。大丈夫だから、ね?」

百合姉が裕兄の隣に座り、頭を()でている。

「う、うん」

『それでは皆様、よい旅を~』

ガコン

「う、動いちゃった……」

「いってらっしゃいませ~』

「あ、う、漏れるかもしれない……」

裕兄が爆弾発言をする。

「おいやめろ、ぶち()けるなよ?」

俺からも頼むから、マジで漏らさないで欲しい。

「多分大丈ぶわああああああああああああああ」

第1ウェーブに入った。

「いえーーい」

「ひっ……」

「少し刺激が足りないかしら」

「強がんなくてもいいぞ。やほーーい」

第2ウェーブに入った。

「あーーーーーーーー」

「強がってません」

「……」

「もっと声出して行けよ。盛り上がんねーな。もういっちょー」

第3ウェーブに入った。

「あはっ!あはははははは!俺に任せろおおお」

「おーいいねぇ。俺も負けてらんねえわ」


―10分経過―


「1回が長いね」

計30ウェーブもあるのだから当然だ。しかも最終ウェーブですら最高速度を叩き出せる。

「そうね。何しろ斜面に建ててあるから、どの落差もだいたい同じよ」

「後半のほうが面白かったな。地下まで行くとは思わなかったぜ」

「俺、もう一回乗りたい!」

「裕ちゃん大丈夫なの?」

「さぁ? 裕はいつもなら“僕”って言ってたよな」

「あはは!いつもと一緒だよ!えへへへ」

「ならいいけど……。健ちゃんはいつになく静かね」

「ちょっと……気分が悪い。トイレ行ってくる」

吐き気がする。乗り物酔いのような……。

「情けねーな。裕とは正反対で枯れちまったか?」

哲兄に背中を叩かれ、ホントにゲロりそうになった。

「行くなら2人でいってなさい。私は健ちゃんを診てるから」

「はーい。哲、行くよ」

「何でお前が仕切ってるんだよ。付いて来るのはお前の方だぞ」

「そんなのどっちでも良いよ」


「健ちゃん、気分はどう?」

百合姉は優しい。叩いたりせず、()でてくれる。

「さっきよりは良いけど、まだ……」

「ここで待ってましょ。少し横になってなさい」

横になっていると百合姉が風を送ってくれた。涼しい。

「ありがとう、百合姉」

「どういたしまして」


―40分後―


「復活!」

元気いっぱいを体で表現する。

「健ちゃんは絶叫マシンにはもう乗らない方が良いわね」

「心配しなくても乗らないよ」

乗る気は全くない。一生乗らないと思う。


『やっほー』

裕兄の陽気な声が聞こえる。

「戻ってきたようね」

「面白いことは面白いが、2回目じゃスリル半減だな」

刺激が足りないといった様相だ。それでも満面の笑みだ。

「えー、超面白かったよ?俺何度でも乗れる気がする!」

「俺は二度と無理だな」

「健はまだまだ中身はお子様だったってことだ」

「年は関係ないと思うよ?」

「で、次何処(どこ)行く?」

「御飯にしましょ。早く行かないと混み過ぎて買えなくなるかもしれないし」

百合姉は既に地図を開いている。

「確かに!」

「俺、マジドナルドがいい」

「そんなのここじゃなくても食べれるでしょ」

「ちっちっち!それが違うんだな。ヘドロジュースやデスバーガーとか色いろあるんだぜ?」

得意げだ。

「面白そう。そこにしよ?」

裕兄はワクワクしている。

「健ちゃんはそれでいい?」

「うん、別に構わないよ」

所詮は食べ物だからな。問題はないだろう。

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