刑務官
隣で開封された袋の中には健十郎が居たのだ。
幼なじみなので、すぐに分かったのだ。
拘束具が外されていく。だが、気分は悪そうだ。
そういえば、乗り物に弱いんだったっけ……。
「健十郎!」
「飛鳥!俺は一体……」
『そこ!静かにしろ!』
刑務官が大声を出した。
よく見ると軍服に近いが、少し違うな。非常に目立ちそうな服だ。
警棒も手にしているが、オートマチックピストル、フルオートライフル、ショットガンを装備している。
しかも何やら防弾ジョッキのような凄まじく頑丈そうな何かもくっついている。
そう言えば誰も喋らないな……。
刑務官の存在が原因なのだろうか?
『いやっ……、誰か助けて!!』
急に大きな悲鳴が上がる。遠くからでもよく聞こえる。
どうやら女性が騒いでいるらしい。
仕方ないだろう。こんな状況でしかも……。
『おい、お前。静かにしろ!』
先ほどの刑務官は再び怒鳴る。僕らの時よりも大声で。
しかし、女性の叫び声は静まらない。
『何で私、こんなところにいるの?ねえ、誰か知らないの?』
『静かにしろっつーのが聞こえねーのかっ!?』
刑務官の声は更に大きくなり、ズカズカと歩く音も聞こえる。
刑務官と出会ったのだろうか?
『お願い助けて。私何もしてないわ!』
『お前が何したかは関係ねーんだよ』
刑務官がそう言い終わる前に、女性は再び騒ぎ始めた。
その装備を見たせいだろう。
『うるせーな。始末するか』
その声に反応したかのように、周囲は更に静かに、しかし女性は更に大声で。
ガチャガチャと何かの銃を弄る音がした後、発砲音がした。
一発ではない。無数の音だ。マシンガンのような連射性の有る銃が使われたと思われる。
少しだけ周囲がざわついた。
見るつもりはなかったのだが、周囲に居た人が距離を取るため後退ったのだろう。
開けた所が目に入った。
血の海は女性の体のみからとは到底思えない量だった。
当然だ。近くにいる人も巻き込まれていた。
老若男女問わず、沢山。未だ袋詰めされたままの人すらも。
袋の中で息絶えた人は、自分のせいでもなく、事体も分からずに旅立ったようだ。
『此処に来た時点で人生は終わりなんだよ。諦めろ。
無駄な抵抗はするなよ?こいつのようになりたくなければな』
なんだか刑務官はすっきりしたような顔をしていた。
ストレス解消のために、序でに周囲も殺したのではないか、という疑問が頭を過る。
発砲事件の後、誰一人騒ぐ人は居なかった。
何しろ大量の死体と血溜まりがそこにあったのだから。
その源流は全て剥き出しの肉と袋だったのだから。
僕は服を着せられた。汚くはない。ただ、見窄らしいのだ。
下着はトランクス、ズボン、半袖を着ると集合させられた。
僕は服に291番のプレートが付けられた。
全員が揃うまで暫く待たされた。
絶対に身動き一つするなと言われたため、状況は殆どわからない。
新たに分かったことは、先住民、つまり僕らより先に放り込まれた人たちも整列していることだろうか。
健十郎は何処だろうか?心配だ。
人の心配をしている余裕が有るのかはわからない。
ただ、健十郎のことを考えている間は冷静でいられそうだ。
そんな気がしたのだ。
刑務官がやって来た。一人ではなかった。
若い男が1人、それよりは年上そうな女が1人、お爺ちゃんが1人だ。
お爺ちゃんと言っても、ムキムキなのだが。
女性の刑務官が高台にのぼる。学校の運動会で校長が登りそうな感じのやつにだ。
名前はなんて言ったかな?忘れた。
気づいた事があった。
3人共が武器を1つも持っていないのだ。警棒すら。
謎の防弾ジョッキは着ていたのだが。
それに気づいたのか、服の擦れる音、呼吸の音、歯の軋む音などが聞こえた気がする。
『諸君、おはよう』
どうやら朝なのだろう。
『今日来たばかりの者もいるだろうから、これから軽く説明する』
そういうと女性は淡々と話し始めた。
此処は強制労働施設で、主に農業・加工・工業を扱っているらしい。
他には精肉工場、漁業戦艦、研究施設があるらしい。
詳しくは教えてくれなかった。
説明がどんどん進んでいく間にまた騒ぎが起こる。
最前列に居た誰かが女性刑務官に襲いかかろうとしたのだ。
しかし、他の刑務官は動かない。狙われている当の本人すらも。
そのまま襲いかかれるのかと思ったが、止められた。
僕らと同じ服を着た囚人に。それも6人も。
彼らは問題児を捉えたばかりではなく絶命させた。
『よくやった29番。貴様にはそれをくれてやる』
女性刑務官はそう言うと、29番と思われる男は無言で、しかし丁寧にお辞儀をする。
人間とは思えない程の完璧さで。
29番と思われる男が止めを刺したか、最初に飛び出したかしたのだろう。
“それ”が何を指すのかは分からなかった。分かりたくなかった。
また、何に使うのかも分からない。
その光景を見たせいか、誰もが静かにしていた。
説明が完全に終わり、指示された。
『先ほど出た死体の処理を行ってもらう。
此処での規則でもある。体で覚えるよう、新入りだけで行ってもらう』
そう言うと、僕らは既に固まり始めた紅い部屋に連れて行かれた。




