袋の中で
深夜の学校にやってきた。全力で走ったので直ぐに着いた。
いつもなら既に真っ暗なのだが、僕が眠りこけた日のように明かりが付いている。
こっちへ来いと言わんばかりの一直線状に、だ。
光に誘われるまま進むと、明かりのついた部屋があった。3年5組と書かれた部屋から、だ。
何故この部屋なのだろうか?わからない。
そーっと覗くが誰かがいる気配はない。
安心して足を踏み入れたその時、扉が閉まった。
後ろを振り返るが誰もいない。扉を開けようとするが滑らない。
何かに挟まっているのか、誰かがそうしているのかまではわからないが。
反対側の扉に行く。こちらもびくともしない。
ガギがないのに閉まるということがありえない。
窓は開いている。だが、頑丈な鉄格子のせいで通れそうにない。
窓も最新の強化ガラスのため、割ることは不可能だろう。
可能性を吟味していると、後ろのドアが開き、見知った人が入ってきた。
僕の担任だ。予想は十分出来たが、遠回りにやって来た意図がわからない。
「やぁ飛鳥。調子はどうだい?」
いつも通り話しかけてくる所が気持ち悪い。
「先生。これはどういう……」
「見てわからないのかい?」
よく見るといつもと服装が違った。軍服を着ている。
「僕をどうするつもり?」
「まだどうもしないさ」
やれやれといった仕草だった気がする。
「じゃあ聞くけど、健十郎たちは何処?」
「健十郎は保護してあるから大丈夫だぞ?後でお前の所に返してやる」
「裕さんと哲さんはどうしたの?」
「飛鳥は分かってるんだろ?」
不敵な笑みだった。
「神隠し……」
「なら話は早い。彼らについては諦めるんだ」
僕に近寄り、慰めるかのように背中を軽く叩く。
「それでも納得出来ない!」
「納得できなかったらどうするんだ?」
先生は作り笑いとも言える笑みを僕に向ける。
「それは……」
言うべきか言わざるべきか……。いや、言うべきだろう。
「この国は可怪しい」
「それで、どうする?」
笑いが少し真顔に近くなった気がする。
「国を乗っ取るとか……、国を潰すとか……」
「そんなことが出来るとでも?」
既に笑いがない。残念そうな顔をしている。
「やってみないとわからないよ」
「心配しなくても、叶うことはないよ」
再び慰めるように、今度は頭を撫でられた。
「どうして?」
「どうして?それはお前が大人になる前に消えるからだよ。
不穏分子やそうなる可能性、国のためにならない者は全て排除される。
今の飛鳥や、そうだな哲くんのような壊れ物もだな」
そう、消すならもっと早く出来たはずだ。
「何でもっと早く消さなかったの?いくらでもタイミングあったじゃないか!」
「それはね……」
そう言うと首に痛みが走った。
「痛っ!!」
首を擦るが傷などは一切ない。
「何をしたの?」
「話の続きをしよう」
スルーされた。
「私が飛鳥のお母さんと付き合っているのは知っているね?
できれば飛鳥には元気になってもらって“良い子”として僕らと一緒に暮らして欲しかったんだ。
だが、百合が余計なことを吹き込んだせいで台無しだ」
ニヤニヤしている。
「やっぱり先生が……」
「そうだな。手引は私がしたが、やったのは私ではないな。
今となっては、飛鳥に消えてもらい、その悲しみの支えとして私が滑り込むことになるな
心配はいらないよ。お前のお母さんは私が責任をもって守ってやろう」
「くそったれがー!」
殴りかかろうとするが、左脚の力が抜け床に崩れ落ちた。
「そろそろ効いてきたかな?」
さっきの痛み……。
「そうだ。さっき麻酔を打っておいた。もう暫くしたら眠りにつけるだろう」
床に倒れる僕に、そう話しかけながらしゃがむ。
「僕を殺すんじゃないのか?」
「そんなことをしなくても大丈夫だ。暗黒郷へ送られるんだ。殺す必要なんて無いな」
「それは……?」
全身が麻痺してきた。
「最後に幾つか教えておこう。無くなった3つの鍵がキーだったな」
健十郎が無くした鍵しか分からない。
「……?」
分からないというような顔をしたと思う。
「ここは笑うところだろ?」
先生はそう微笑した。
「健十郎の鍵、百合の鍵、お前のお父さんの鍵、だ」
えっ!?
「あのセキュリティーの厳しい部屋は百合の部屋だったからな。
君のお父さんについては最早闇の中だから言う必要はないだろう」
意識に靄がかかり始める。
「おっと良い忘れていた。あの戯言がお前を暗黒郷行きにしたんだ。
健十郎はお前の下に返してやる。お前と同じ暗黒郷にな」
悔しい。そう思いながら意識が闇に囚われた。
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目が覚めると真っ暗だった。無音で身動きもできない。
どうやら遺体収納袋のような物に入れられているようだ。
体感で裸だと分かった。
そして様々なものが体に取り付いている。
耳は耳栓で、目はアイマスクだろうか?
鼻や口から複数のチューブが入り込み、喉の奥まで入っているようだ。
マスクのような物が口と鼻を覆い、空気が出たり入ったりする。
口には猿轡もされていた。
排泄器官周囲にはオムツのように自動排泄処理装置がついてるようだ。
手足どころか首も動かせない。
そうこうしている内に、耳栓から音声が流れてきた。
【ようこそ、暗黒郷へ】




