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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
45/87

二手

放課後、裕さんたちの部屋に来た。絵里と一緒に。

ピンポーン。チャイムを押した。


何の返事もない。

可怪(おか)しいな。誰も居ないのかな?」

「もう一度押してみたら?」

ピンポーン。絵里の提案通り、、もう一度押す。


やはり返事がない。

「出かけてるのかな?」

「かもしれないわね」

「実家の方にも行ってみるか」

「そうね」


入れ違いになるとアレなので、簡単な置き手紙をポストに入れておいた。

~今日何かあった? 飛鳥より~


エントランスホールを後にし、牧長(まきなが)家へと向かう。


-------------


玄関は全開だった。

ピンポーン。チャイムを押す。

「「ごめんくださーい」」

(つい)でに声もかけておいた。

『はーい。寛九郎(かんくろう)、ちょっと出てくれる?』

『へーい』


ドタドタドタと誰か出てきた。指を口に(くわ)え、辿々(たどたど)しい足取りの。


「こんにちは?」

その小さい男の子は疑問形で挨拶をしてきた。

誰だっけ……、思い出せない。

「僕、お名前は?」

「ネジ」

あー、ネジ……何番目だったっけ。忘れたな。


考え込んでいると、もう一人、僕と同い年くらいの男の子がやってきた。

「おい音十(ねじ)、何やってるんだよ」

非常にやる気のない音声だった。

ネジ君は首を傾げて、「なーに?」といった仕草だった。


「「こんにちは」」

その声に反応し、寛九郎(かんくろう)くんがこっちを見る……、睨んでいる……?

「何の用?」

どうでもよさ気な、しかし冷たく鋭い目で僕を見ている。やはり睨んでいるのだろうか。

「健十郎が今日学校休んだんだけど、何かあったのかなって」

「さぁ?ボッチの事は、俺知らないけど」

やはりどうでも良さそうな返事だった。

「俺にはわからないから、母さん呼んでくるよ」

「あ、ありがとう」

親切なのではなく、丸投げしたい。そんな感じがした。


「行くぞ音十(ねじ)

「うん」

そう言って寛九郎(かんくろう)に反対の手を引かれて見えなくなった。


(しばら)くすると「どちら様ー?」という声が近づいてくる。

「「こんにちは」」と言い終わると同時におばさんが出てきた。

「あら、飛鳥くんに絵里ちゃん、こんにちは。どうかしたの?」

「おばさん、健十郎は今何処(どこ)に居るんですか?」

「健ちゃんとは学校で会わなかったの?」

寧ろ質問を返された。

「健十郎は今日、学校休んでて……」

「あら、そうなの……。昨日は当番じゃなかったから、裕ちゃん達の所で寝たはずよ。

だからそこから登校したものだとばかり……」

少し心配そうな顔をしている。


「裕さんの所は鍵がかかってて誰も居なかったんだ」

「まぁすぐ戻ってくるんじゃないかしら。いつもなら夕飯の材料買いに行く時間だから」

確かにそうだった。

「お友達を待たせるのもあれだから、鍵は渡しておくわね」

そう言うと奥からスペアキーを持ってきてくれた。


「ありがとう、おばさん」

「何で休んだのか、聞いておいてね」

「はーい」

「おばさん、さようなら」

「ばいばい」

おばさんは優しく手を振り、見送ってくれた。


-------------


再び裕さんたちの部屋があるエントランスホールに戻ってきた。

僕らは本来単独で入れないのだが、門衛が生体認証などをスルーさせてくれた。

どうやらしょっちゅう来ていたせいだろう。

「走るなよ?」とだけ言われた。


鍵を開けて入るが、靴がないので誰も居ないことが直ぐ分かった。

奥のダイニングに繋がる扉を開けると、物が散乱していた。

「何これ!?」

散乱してはいるが、破片が飛び散っているということではない。

テーブルの上には食べかけの、昨日の夕食と思われる物が置かれている。

コップは倒れ、水垢を作っていた。

床にはフォークや箸、倒れた椅子、時計、服などがあった。


軽く見回した後、僕は慌てて他の部屋を見に行った。

他の部屋は綺麗だった。正確には荒らされてなかったというべきか。

哲さんの部屋はいつも通りの汚さだったのだから。

絵里はダイニングにずっと居たようだ。


戻ってきた僕に絵里は手渡された。

「ねぇこれ見て」

手紙のようだ。封蝋(ふうろう)がしてあるという手の込み具合が嫌らしい。

開けてみるとなにか書かれていた


-------------


卍山下(まんざんか)飛鳥へ


日記が欲しければ図書館へ

健十郎が欲しければ学校へ

母親が欲しければ自宅へ


一人で来るように。


-------------


「どういうこと?日記持ってないの?」

最初にそれを突っ込まれた。

「ごめん。実は紛失したんだ」

「何で言わなかったの?」

「だって、巻き込むなって絵里が言ったでしょ?だから、」

「……」

どうやら絵里は反論できないようだ。


「それでどうするの?」

「日記に書かれていた古本屋の手がかりはもう持ってるんだ。だから僕は学校に行くよ」

そう。日記はもう必要ない。あれば尚良いのだが、なかったらなかったでいいのだ。

健十郎は取り返さないといけない。

お母さんは心配だが絵里に行かせようかと思う。

「私も行く」

「ダメだよ」

僕は即答する。

「でも」

「絵里は巻き込ませられないよ。さっきも言ったよね?絵里が自分で言ったこと。

どうしてもって言うなら、僕の家に行って欲しいかな。お母さんが心配だし」

「……わかったわ」

渋々だが了承を得た。


僕らはマンションの外で分かれ、僕は学校へと向かう。

既に真っ暗闇だ。

風が少し強い午後7時過ぎだった。


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