人体解剖【※】
終皇80年5月15日 晴れ
花粉が酷い。マスクをしている人が増えた。
今日は人体解剖の日だ。
今回は1体の遺体が運ばれてきた。
前の4体とは顔が違ったので、新品なのだろうか。
前回より機材が多い。手術用具からチェーンソーまであった。
前回も実はマスクも、青緑色の医療用白衣であるスクラブも着用していた。
今回は手袋は全員常時装着だった。
「今日は1体を先生が実演して解剖する。飛び散るから絶対マスクを外すなよ。
質問は随時受け付けるからな」
そう言うと早速腹をメスで切開した。図説で見た通りの中身だった。
図とは色がちょっと違ったけど、図は分かりやすさ重視だったのだろう。写真は正しかったのだが。
小腸、大腸などが次々取り出される。
大腸は肛門と繋がっていたが、切断されて取り出された。そのせいで肛門はただの穴になった。
臓器はまだいいのだが、血管がたくさんあった。特に心臓周囲が凄い。
どうするのだろうか。
そう思っていると、先生は下大静脈は切断せずにチェーンソーを取り出した。
「肺や心臓は取り出しにくい。肋骨が邪魔だからな。
そこで、チェーンソーで骨を斬って外してしまうぞ」
ウィーンと凄い音を出しながら肋骨に接触する。
骨や肉の小さな破片が、木屑のようにブワブワと飛び散る。
先生は、臓器を傷つけないように、大胆かつ繊細に斬り進める。
胸部に当たる部分の肋骨が蓋のように取り除かれ、綺麗な肺が顔を出す。
取り出された蓋には、乳首などの肉がついたままで、薄い胸板になっていた。
金属トレーには取り出された部位が徐々に増えていく。
心臓は下大静脈や大動脈弓などの、繋がっている血管を切らないまま取り出された。
股間あたりに飛び出す臓器は未だ繋がってはいるが、胸腔、腹腔どちらも空になった。
「次は、頭部を外してから、頭部以外の肉の裁断だ」
先生がそう言うと頭部がバッサリと切断された。
転がり落ちないように生徒が頭蓋を支えていたので、転がり落ちはしない。
その生首は断面が見えるように金属トレーに横にして置かれた。
半開きの口から歯が少し覗く。弛緩し乾いた舌も多少飛び出していた。
当然だがザラザラとしている。僕は触っていないのだが。
血管もあるのだが、喉と思われる穴もあった。
誰かがそこに指を突っ込んでいたので聞くと、指が口から出てくるか試したと言っていた。
お前の指はそんなに長いのか?と言うのはやめておいた。
切りにくいので、まずは大まかなパーツに分解された。右腕、左腕、右脚、左脚、胴体だ。
まず、右腕が台に置かれる。魚のようにプルンとした気がする。
薄くはないが、ハムのように切り落とされる。骨があるので当然チェーンソーでだ。
丸い板のような肉は最早人間を連想するのは難しい。パックに詰めたら何かわからないかもしれない。
先生は右半身と左半身で切断面を変えていた。
右は輪切りに、左は縦というか少し斜めに斬っていた。取り敢えず横ではないということだ。
先生は胴体は股間に付く臓器を切り取り、袋を開け玉を取り出したり、バナナを分解してみたりしてた。
その後、背骨と肉を切り離し、骨髄などが顕になった。
「最後は頭部を解体するぞ」
間も無く、河童の皿のように頭頂部が切り離される。中には当然脳みそが入っている。
切る時に髪の毛も多少切れるため、飛び散った。邪魔なので飛び散ったそれを掃除する。
ここまで慣れたものだ。誰一人吐きもしない。
最近の僕も大概なのだが。
解剖されている遺体の生前を全く知らないため、そこまで深い思いは抱かなかったのだから。
その後、三半規管や眼球などが次々取り除かれるのだが、これは気持ち悪かった……。
顔だということが影響したのだろうか。気分が悪い。
舌は辛子明太子のような状態で、目はハロウィンのデザートを連想できたので多少は大丈夫だったが。
全て終わると壮観だった。
金属トレーには……最早人間とは思えない、原型を留めていないパーツで溢れかえる。
この日はこれらを観察しスケッチを作り、レポート提出で終わった。
授業後は、授業中に出来たパーツをゴミ袋に入れて、ゴミ捨て場に捨てに行った。
“生ごみ”に、だ。
骨は生ごみなのだろうか?
深く聞かないでおこう。変な理由が浮上してしまうかもしれない。
肥料にするとでも思うことにしよう。
後日、評価が記載されたレポートが返却された。
最高評価だった。嬉しいかは微妙であるが。
-------------
終皇80年5月16日 小雨
今日は湿気のせいで花粉が少ない。
今日は健十郎が休みだった。先生もわからないという。
どうしたのだろうか……。
放課後、裕さんたちの部屋にでも行くか。




