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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
43/87

湯灌【※】

終皇79年5月10日 雨

雨粒の温度も大分上がってきた。


今日の理科は、人体解剖演習の前段階に当たる、湯灌(ゆかん)実習だった。


保健の授業で自分の性別と同じ身体の勉強がひと通り終わったからだ。

2人一組になり全身を(くま)無く触り合う授業もあった。

その時は僕は仲がいいからと健十郎と組まされた。

(くま)無く触るということで肛門周辺も触られたのだが、意外と気持ちよかった。

背中を触られた時は凄くゾクッとした。特に縦に指を撫で下ろした時なんかは……。

足の裏は(くすぐ)ったくて耐えられず、お腹も無理だった。

当然僕も健十郎の前身を隈無く触ったのだが、健十郎は硬くなっていた。

僕が触りすぎたのか、健十郎が変態だったのかはわからなかったが。


そんなこんなで“生きている”人間は大分理解したように感じる。

今日は霊安室の隣りにある解剖室に来ている。

ここはある程度大きい生物を扱う部屋だ。

理科室のようにテーブルが配置されているが、それは遺体を置く台である。

湯灌(ゆかん)場がその横に併設してある。

遺体は今朝、寝台車で運ばれてきて、今は霊安室にある冷蔵庫の中だ。


人間の遺体は重いので、生物係が手伝っている。

4体の遺体が、台に載せられて運ばれてきた。当然だが遺体は全裸だ。

全く隠す気がなく、顔も股間もフルオープンだった。どれも全身が綺麗だった。

足の親指についていたタグを確認すると、40代前半、20代後半、18歳、14歳の、全て男性だった。

男子は男の、女子は女の遺体を解剖するため、部屋は別々だ。

何しろ僕らは保健で、男女混合の授業は未だなのだから。


「よーし。今日は、納棺までをやるぞ」

「「「はーい」」」

「その前に年齢による、身体の違いを見ていく」

そう言うと先生は違いを実際に触りながら見ていった。

今日はエンバーミングと、エンゼルメイクはやらないようだ。


-------------


14歳は包茎、それ以外は露茎だった。

サイズは14歳が最も小さく肌の色そのもの、18歳は大きくなっており色は肌色に未だ近い。

20代後半は茶色になり始めている。40代前半は黒ずんできていた。

これは、(こす)る過ぎると起こるらしい。

何も股間にが斬った話ではなく、肌ならどこでも起こる現象らしい。


14歳は股間に毛が生え始めていているが薄く、18歳は(ほとん)ど生えきっており、20代後半は個人差によるが、(へそ)周辺まで生え際が伸びている。


14歳は肩幅は未だそこまで広くないが、それ以外は広かった。がっしりしている。


14歳は産毛だが、18歳以上は(ひげ)が生えていた。18歳は薄く、40代前半は濃かった。

脇毛も同様だった。


頭は年齢が上がるに連れ大きくなっていた。これは、先生が長さを図っていた。

頭蓋骨は成長と共に大きくなっていくそうだ。但し、頭蓋骨の成長は遅くとも25歳で止まるので、40代前半と20代後半の差は(ほとん)ど無いようだ。


40代前半の顔には(しわ)があった。しかも肌は荒い。対する10代の2体はピチピチだった。


-------------


「次は、鼻、口、耳、肛門に脱脂綿を詰めて、内容物が出てこないようにするぞ」


肛門からは排泄物が垂れ流されるかららしい。

鼻や口を塞がないと腹水(ふくすい)という体液や血液が出てきて酷い悪臭がするらしい。

また、耳からも血液が出てくるそうだ。

(はえ)などの虫の侵入を防ぐ意味合いもあるとのこと。


ただその前に、中身をある程度除去する。


口や鼻は、チューブを入れ吸引して取り除く。

肛門は、手に手袋をし、指を入れて掻き出す。


-------------


「最後は遺体を洗う、湯灌(ゆかん)を行う。これは、感染予防のためにも必要なものだからな」

先生はそう言うと、手順説明を行った。

その後取り敢えずやってみて、うまく行かなかったら先生がフォローする方針だ。


湯灌(ゆかん)場という浴槽(よくそう)に水を入れ、水にお湯を足す逆さ水という方法で温度調節をする。


裸の遺体をバスタオルで覆い、浴槽(よくそう)に入れる。


シャンプーで丁寧に優しく洗髪し、顔()りをする。(ひげ)がある人は髭剃りも行われる。

あまり強く洗うと髪の毛が抜けるので注意が必要らしい。


シャワーで身体を綺麗に洗い流す。


髪を整え、爪を切り、最後に服を着せて棺桶に入れる。

化粧はエンバーミングの授業で行うそうだ。


-------------


結構な重労働だった。死体の肌触りが独特で好きになれない。

健十郎は僕と違い、4体の遺体の肌を触り比べていた程だ。


「ねぇ。何でそんなにベタベタ触ってるの?しかも4体とも」

「ん?ああ。前に触ったのとどれくらい違うのか確かめたくてな」

そう言いながらもまだ触っている。というか()でている。

「えっ。何時(いつ)触ったの?」

「去年の夏休みに行ったスカイ首吊りタワーで、だ」

初耳だった。驚きを隠せない。

「そんな話聞いてないよ?」

「聞かれたのは哲兄の状況だったよな?多分。

だから、飛鳥に余計な事連想させないように俺なりの配慮をだな」

意外だった。健十郎の口から配慮なんて出てくるとは。

「取り敢えず、手伝ってくれない?」

そう。まだ内容物を取り出したところなのだ。気になってることがある。

「この頭、ごろんごろん動くんだけど……」

「ちゃんと枕敷いたか?」

先生がフォローしてくれた。

「忘れてた……」

「しっかりしろよ」

さぼってた奴に言われたのでカチンと来た。

「じゃーお前がやれよー」

「面倒くせー」

ぶーぶー言いながらも健十郎は作業を手伝う。


-------------


脱脂綿は手分けして入れた。僕はジャンケンで負けたので肛門だ。

手袋をして指を突っ込むのだが、弛緩(しかん)しているせいですんなり挿入できた。

()き出すと……出るわ出るわ。そう、うんちだ。

まるで袋から()き出しているかのようだ。


口や鼻はチューブで吸引するので、吸引音が部屋に響き渡っている。


-------------


湯灌(ゆかん)では、大凡(おおよそ)問題なかった。

力を入れすぎて洗った馬鹿が居て、そのせいで髪の毛がかなり抜けてしまった班があった。

僕らの班は滑らせて頭ごと湯船に入ってしまったが……まぁなんとかなった。


-------------


後は服を着せて納棺した。次回の生物は解剖らしい。めんどくさいな。


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