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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
42/87

マラソンでの遠足

終皇80年4月7日 春雷

場所によっては(ひょう)が降ったようだ。


翌日学校に行くと先生達は普通だった。

あまりに普通すぎて、仮面を被っているように見えてくる。

とりあえず、紛失した事を皆に伝えるべきか?

いや、余計な事をしてかえって悪化するかもしれない。

紛失したことは秘密にすることにした。

日記がなくても道のりは分かっているのだから。


-------------


終皇80年4月20日 曇

数日ぶり久しぶりに寒い風が吹いた。


今日は性教育が本格始動した。

男女別れて行った。

授業の最初に全員裸にさせられた。

そして、ランダムに選ばれた生徒の体を触り、全身の部位の説明を行った。

最後に、その生徒を先生が実際に触り、その生徒は気持ちよさそうにしていた。

その後は一人ひとりを()(ほぐ)し、自分でマッサージする自習となった。


将来的には男女の交わりまで授業で扱うらしい。

高校生では稀に、授業のせいで子供を(はら)むらしい。その場合は産むそうだが。


-------------


終皇80年5月5日 晴れ

遠足日和だ。


今日は遠足なので、皆弁当、水分、カメラ等、色々持ち込んでいた。

中学にもなればスマホを持つ人もいるのだが、遠足には持ち込み禁止だ。

見つかったら大変なことになる。まぁ僕は持っていないのだが。


『4人1組になるようにー』

先生の声が響き渡る。

僕たちはいつもの3人組+大輝だ。

「大輝と一緒とか嫌なんだけど…」

僕はそう(つぶや)いた。

「俺って嫌われてたのか…」

「大輝の何処(どこ)が嫌いなんだ?」

「私も面白い人だと思う」

2人共口を揃えて大輝を擁護する。

「ガーン。男の子とすら行ってもらえなかったよ…」

大輝は無駄に大きなリアクションを取る。

「嫌いっていうか苦手?なんだ」

「どう苦手なの?」

「どうって…」

何故(なぜ)か少し言い難いが、今日は本音を吐いた。

「マラソンの時とかに1位だったからって勝ち誇った顔で僕のこと(いじ)るんだもん」

「それって、単なる嫉妬じゃない」

絵里は、「呆れたー」そんな呟きが聞こえそうな表情だった。


遠足はマラソンのように行われる。

目的地は隣の区にある山だ。

6年間鍛えられた中学生たちはリュックを担いで尚涼しい顔で走る。

片道4時間位だろうか。休憩は班ごとに行って良いことになっている。


健十郎が一番最初に息が切れてきた。

「この班、化物が、多すぎ、なんだよっ」

「休む?」

僕は涼しい顔でそう聞いた。まぁ汗は()いているのだが。

「無理しても仕方ないぞ?」

大輝も休憩を促す。

「俺だっってなー。負け、られねーん、だよ!」

「好きにさせたら?」

絵里は突き放すように言う。

「ここでそんなに頑張ってどうするの?向こうで疲れきって遊べないよ?」

「頑張るって言うなら走らせておこうぜ」

大輝はあっさり絵里の方についてしまった。


-------------


言わんこっちゃない。

2時間ぶっ通しで走ったため、健十郎はダウンした。

ということで休憩に入ったのだが…。

「こいつ、爆睡してないか?」

そう、健十郎は爆睡しているのだ。(いびき)を掻いて。

「こんなに寝れるなら余裕じゃない?」

絵里はゴミを見るような……、程は酷くはないのだが、似たような感じの目だった。

「どうなんだろ。僕にはわからないな」

「この開いた口に詰め物でも」

大輝が健十郎の口に、健十郎のタオルを入れようとしている。

「止めなよ」

絵里は止めなかったが、僕は止めた。


-------------


20分位すると健十郎は起きてきた。

仮眠と呼ばれる時間内だった。

「どう。回復した?」

僕の問に「ああ」とだけ返してきた。

(いびき)うるさかったぞ」

大輝は(いびき)を全然木にしていなかったのだが、冗談でも言ったようだ。

「しゃーねーだろ。疲れてたんだから」

対照的に、健十郎は真面目に答えている。

「寝ても臭い息をばら()かないでよね」

「なんだ?俺の口にキスでもしようとしたのか?」

「違うわよ」

絵里は鬼の形相になった。僕と大輝もビビってしまう。

健十郎はというと……、笑っていた。

流石、デリカシーが無いだけある。世界一なのではないだろうか?


休憩も終わり、再び走り始めた。


今度は2時間ぶっ通しで走り、昼ごはんギリギリで到着した。

帰りに胃が痛くならないよう、早めに食べ終わりたい所。

例の如く、僕の弁当はキャラ弁だったが、他の3人も似たようなものだった。


「俺こういうの好きじゃねーんだよなー。女子だけにしよろっ」

「じゃー言えばいいじゃん」

絵里が即答でぶった斬る。

「言えるわけねーだろ。せっかく作ってくれたんだしな」

「じゃー我慢するしか無いね」

「……」

どうやら健十郎は開いた口が塞がらないようだ。

口の中に有る、唾液と混ざった物体を(さら)け出しながら。

「俺は美味しいなら何でも」

大輝は全く気にしていないようだ。

「僕は寧ろ好きかな」

僕の答えに絵里が一瞬反応した気がした。気がしたのだ。


健十郎は、クッチャクッチャと食べながら文句を言いつつ、食べきったようだ。

後は遊ぶだけなのだが……、健十郎は食べたら速攻寝てしまった。

「どんだけ寝れば気が済むの……」

絵里は再び呆れている。

今度は横になって寝ているため、スヤスヤと静かに寝ていた。

寝姿が少しかわいいな、と思うのだった。

「お前、何ジロジロ見てるんだ?」

僕が健十郎を見ているのを、大輝は見ていたのだ。

「べ、べっつに?寝姿が無邪気だなって思っただけだよ」

ちょっと声が震えてしまった。気づかれていなければ良いのだが。

大輝が顔を近づけて、僕の顔を覗き込むが、「ふーん」と言って遊びに行ってしまった。


僕は虫を(いじ)ったり、木登したりしていた。

絵里はそんな僕を見ながら涼んでいた。寝ている健十郎の隣で。


帰りは行きの逆で、大したことは起きなかった。

いつもこんなに走らないから、足がパンパンだ。

帰ったら少し()(ほぐ)しておくか。

明日は筋肉痛になってそうで、辛いな……。


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