マラソンでの遠足
終皇80年4月7日 春雷
場所によっては雹が降ったようだ。
翌日学校に行くと先生達は普通だった。
あまりに普通すぎて、仮面を被っているように見えてくる。
とりあえず、紛失した事を皆に伝えるべきか?
いや、余計な事をしてかえって悪化するかもしれない。
紛失したことは秘密にすることにした。
日記がなくても道のりは分かっているのだから。
-------------
終皇80年4月20日 曇
数日ぶり久しぶりに寒い風が吹いた。
今日は性教育が本格始動した。
男女別れて行った。
授業の最初に全員裸にさせられた。
そして、ランダムに選ばれた生徒の体を触り、全身の部位の説明を行った。
最後に、その生徒を先生が実際に触り、その生徒は気持ちよさそうにしていた。
その後は一人ひとりを揉み解し、自分でマッサージする自習となった。
将来的には男女の交わりまで授業で扱うらしい。
高校生では稀に、授業のせいで子供を孕むらしい。その場合は産むそうだが。
-------------
終皇80年5月5日 晴れ
遠足日和だ。
今日は遠足なので、皆弁当、水分、カメラ等、色々持ち込んでいた。
中学にもなればスマホを持つ人もいるのだが、遠足には持ち込み禁止だ。
見つかったら大変なことになる。まぁ僕は持っていないのだが。
『4人1組になるようにー』
先生の声が響き渡る。
僕たちはいつもの3人組+大輝だ。
「大輝と一緒とか嫌なんだけど…」
僕はそう呟いた。
「俺って嫌われてたのか…」
「大輝の何処が嫌いなんだ?」
「私も面白い人だと思う」
2人共口を揃えて大輝を擁護する。
「ガーン。男の子とすら行ってもらえなかったよ…」
大輝は無駄に大きなリアクションを取る。
「嫌いっていうか苦手?なんだ」
「どう苦手なの?」
「どうって…」
何故か少し言い難いが、今日は本音を吐いた。
「マラソンの時とかに1位だったからって勝ち誇った顔で僕のこと弄るんだもん」
「それって、単なる嫉妬じゃない」
絵里は、「呆れたー」そんな呟きが聞こえそうな表情だった。
遠足はマラソンのように行われる。
目的地は隣の区にある山だ。
6年間鍛えられた中学生たちはリュックを担いで尚涼しい顔で走る。
片道4時間位だろうか。休憩は班ごとに行って良いことになっている。
健十郎が一番最初に息が切れてきた。
「この班、化物が、多すぎ、なんだよっ」
「休む?」
僕は涼しい顔でそう聞いた。まぁ汗は掻いているのだが。
「無理しても仕方ないぞ?」
大輝も休憩を促す。
「俺だっってなー。負け、られねーん、だよ!」
「好きにさせたら?」
絵里は突き放すように言う。
「ここでそんなに頑張ってどうするの?向こうで疲れきって遊べないよ?」
「頑張るって言うなら走らせておこうぜ」
大輝はあっさり絵里の方についてしまった。
-------------
言わんこっちゃない。
2時間ぶっ通しで走ったため、健十郎はダウンした。
ということで休憩に入ったのだが…。
「こいつ、爆睡してないか?」
そう、健十郎は爆睡しているのだ。鼾を掻いて。
「こんなに寝れるなら余裕じゃない?」
絵里はゴミを見るような……、程は酷くはないのだが、似たような感じの目だった。
「どうなんだろ。僕にはわからないな」
「この開いた口に詰め物でも」
大輝が健十郎の口に、健十郎のタオルを入れようとしている。
「止めなよ」
絵里は止めなかったが、僕は止めた。
-------------
20分位すると健十郎は起きてきた。
仮眠と呼ばれる時間内だった。
「どう。回復した?」
僕の問に「ああ」とだけ返してきた。
「鼾うるさかったぞ」
大輝は鼾を全然木にしていなかったのだが、冗談でも言ったようだ。
「しゃーねーだろ。疲れてたんだから」
対照的に、健十郎は真面目に答えている。
「寝ても臭い息をばら撒かないでよね」
「なんだ?俺の口にキスでもしようとしたのか?」
「違うわよ」
絵里は鬼の形相になった。僕と大輝もビビってしまう。
健十郎はというと……、笑っていた。
流石、デリカシーが無いだけある。世界一なのではないだろうか?
休憩も終わり、再び走り始めた。
今度は2時間ぶっ通しで走り、昼ごはんギリギリで到着した。
帰りに胃が痛くならないよう、早めに食べ終わりたい所。
例の如く、僕の弁当はキャラ弁だったが、他の3人も似たようなものだった。
「俺こういうの好きじゃねーんだよなー。女子だけにしよろっ」
「じゃー言えばいいじゃん」
絵里が即答でぶった斬る。
「言えるわけねーだろ。せっかく作ってくれたんだしな」
「じゃー我慢するしか無いね」
「……」
どうやら健十郎は開いた口が塞がらないようだ。
口の中に有る、唾液と混ざった物体を曝け出しながら。
「俺は美味しいなら何でも」
大輝は全く気にしていないようだ。
「僕は寧ろ好きかな」
僕の答えに絵里が一瞬反応した気がした。気がしたのだ。
健十郎は、クッチャクッチャと食べながら文句を言いつつ、食べきったようだ。
後は遊ぶだけなのだが……、健十郎は食べたら速攻寝てしまった。
「どんだけ寝れば気が済むの……」
絵里は再び呆れている。
今度は横になって寝ているため、スヤスヤと静かに寝ていた。
寝姿が少しかわいいな、と思うのだった。
「お前、何ジロジロ見てるんだ?」
僕が健十郎を見ているのを、大輝は見ていたのだ。
「べ、べっつに?寝姿が無邪気だなって思っただけだよ」
ちょっと声が震えてしまった。気づかれていなければ良いのだが。
大輝が顔を近づけて、僕の顔を覗き込むが、「ふーん」と言って遊びに行ってしまった。
僕は虫を弄ったり、木登したりしていた。
絵里はそんな僕を見ながら涼んでいた。寝ている健十郎の隣で。
帰りは行きの逆で、大したことは起きなかった。
いつもこんなに走らないから、足がパンパンだ。
帰ったら少し揉み解しておくか。
明日は筋肉痛になってそうで、辛いな……。




