進級試験
目的が決まった。
だからだろうか?国語がどんどん頭に入ってくる。
絵里が、もう心配は無さそうね、と声をかけてきた日もあった。
終皇80年3月20日 快晴
今日は暖かかった。
今日は僕の進級試験の結果が発表される日だ。
結果を見るために、僕は試験会場となった区立大学に来ている。
今日のニュースは、部分日食と合格発表で盛り上がっていた。
部分日食は見てみたいが、今日の部分日食は全然欠けないから面白味がないと思う。
中学への進級試験は、受験科目が国語、算数、理科、体育、図工の5科目だった。
1日目は筆記、2日目は実技、3日目は面接と小論文だ。
実技は体育、解剖、図工がある。
因みに、小論文は国語の配点の中にある。
高校への進級試験では、算数が数学に、体育が保健・体育に、図工が技術になるようだ。
悲しいことだが受験番号はなく、合格番号だけあるのだ。それも欠番が一切ない状態の。
不合格者は戸籍から“除名”されるため、番号を振る事すらされない。だから合格率は100%だ。
受験はマイナンバーによって管理されているため、番号が必要ないのも理由だろうか。
そんなことを思いながら合格番号を探す。
これは日記が情報源だ。
僕のマイナンバーはっと・・・。
探すだけで一苦労である。
番号順になっているわけでもなく、所属順になっているわけでもない。
膨大な番号の中を探すのだ。
見つけたらその札と、自分のマイナンバーカードを持って合格面談に入る。
1時間かけて番号を探しだした。
なかったらもう一周するハメになる。
番号があっても、見つけられなかったら合格面談が受けられず、進級出来ないのだ。
だから皆、合格発表の日も体調と到着時刻を調整している。
日記には書いてなかったが、これすらも刷り込みなのだろうな。
マイナンバーカードと番号札を持って、面談会場に向かう。
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すでにたくさんの列ができていた。
僕の順番は何時頃になるのだろうか。
暇だからといって寝る訳にもいかない。寝て、飛ばされでもしたら最後尾行きなのだから。
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3時間待った。
まだ順番が来そうにないのでごはんを食べることにした。
こういうこともあるため、誰もが弁当を持参している。
僕の今日の弁当はお母さんの手作りだ。
学校では給食だったから、弁当自体久しぶりかもしれないな。
前に食べたのは・・・、そう。遠足の時か。5月ごろに行われたっけ。
年1回の行事だからな。それも徒歩で。
いや、徒歩ではないな。マラソンに近いな。
今日のメニューはっと、
となりのトロロのおにぎり、薔薇型のハム&チーズ、竹輪のマヨ焼き、野菜だった。
『となりのトロロのおにぎり』
人気キャラクター“となりのトロロ”の形を再現したおにぎり。弁当の主役だ。
材料はご飯、黒すりごま、海苔、スライスチーズ、パスタだ。
“となりのトロロ”は、昨日は居た隣の人が溶けて居なくなるという話で出てくる。
当然国語だ。
『バラ型のハム&チーズ』
ハムとチーズを巻き、爪楊枝で刺して固定し、薔薇型を作ったもの。
ドリーム・カム・トゥルーという、黄色とピンクが鮮やかな薔薇を模している。
弁当に彩りを出している。
『ちくわのマヨ焼き』
竹輪にマヨネーズを入れ、1口サイズに切った後、焼き上げたもの。
雲を演出している。
『野菜』
これは手抜きか?一応は草原というか森というか、緑を演出して入る。
ただ単にレタスやキュウリなどが盛りつけられてあるようだ。
頑張って作ったんだろう。
僕はもったいないと思いつつも、美味しく頂いた。
最近はキャラ弁が流行っていて、男子の弁当にもこのようなデコレーションがしてある。
目で愉しむことを学ばせようとでもしているのだろうか。
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食べ終わって暫くすると順番が回ってきた。
面接室に入ると、思い出せないが何処か見た人が居た。思い出せない。
その女の人は僕の面接を始めた。
「まずは、試験合格おめでとうございます。点数の開示は必要ですか?」
「お願いします」
そう言うと、成績表が渡された。
答案用紙、実技映像、作品は返却されないようだ。
国語:89点(重み4.5)
算数:100点(重み0.125)
理科:100点(重み0.125)
体育:98(重み0.125)
図工:95点(重み0.125)
総合点:449.625点
1ヶ月前の僕なら300点もなかっただろう。
「国語が低いですね」
「そうでしょうか」
「ええ。大抵は国語が一番高くなるものなんです。勉強に手を抜いては居ませんでしたか?」
言われてみればそうだった。ここは勢いで押し切ろう。
「いえ!試験前は毎日みっちりと国語ばかり勉強していました!」
「そうですか。では、実技についてですが、解剖は素晴らしい出来でした。
正確に部位を切り分け、内容物を丁寧に取り除き、関節を綺麗に外す。
そうですね。プラモデルをバラしているかのように綺麗でした」
自分でやったことなのだが、言葉にされると少しだけ生々しさがあった。
「そうですか・・・?」
「もっと自信を持ってくださいね」
「は、はぁ」
「論文はまぁ・・・可もなく不可もなくでしょうか」
「覚えるのは行けたですが、考えて書くのが難しくて・・・」
「徐々にうまくなっていきましょうね」
まるで一緒にやろうと言っているような・・・
「良い忘れていましたが、4月から私は中学校の教員になります。これからよろしくお願いしますね」
そうだったのか。でもやはり思い出せない。
「はい、よろしくお願いします」
面接はこの程度で終わった。




