新しい部屋
終皇80年1月24日 晴れ
溶けた雪が凍りつき、よく滑る。
久しぶりに学校に来た。
「おい、大丈夫なのか?」
そういえば、今日は来ないと思ったらしく、健十郎も絵里も迎えに来ていなかったな。
「うん、大丈夫だよ!」
「本当にか?昨日倒れただろ」
「平気平気」
その後、先生や絵里に色々聞かれたのだが、大体同じような事を返しておいた。
暫く寝ていたため少し体が鈍ったようだ。
体育では何時になく息が上がってしまった。
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放課後、裕さんたちの部屋に行こうと思うっていたのだが・・・。
「何処行く気?」
絵里の声に引き止められた。健十郎も一緒だった。
「裕さんたちの居るとこに・・・」
「それな。事件があったから今も立入禁止になってるんだよな」
「じゃあ、今は何処に住んでるの?」
「一度実家に戻ってきてたんだが、哲兄が他の兄弟に侮蔑されてな」
「・・・」
簡単に想像できてしまい、言葉が出ない。
「今は実家の隣に部屋を借りてるかな」
「行っても大丈夫そう?」
「問題はないかな」
「ダメよ」
絵里が遮る。
「なんで?」
「はい、これ」
ノートを手渡された。
「何これ・・・」
「休んでいた分の授業のノート。飛鳥は国語ダメなんだからしっかりしないと」
そう、結構休んでしまったからだ。
しまった、受け取ってしまったよ・・・。
ノートで思い出した。
「そういえばあの日記は?部屋から無くなってたけど・・・」
話を逸らせるか・・・?
「あれは私がちゃんと引き取ったから」
「そっか、なら安心だね!」
ノートをランドセルに仕舞う。
「日記ってなんだ?」
健十郎には言ってなかったんだっけ・・・。
「百合さんの日記だよ」
「そんなのがあったのか・・・。お前らコソコソ何かやってるのか?」
問い詰めてきているのかな?
「何もない。兄弟にだって知られたくないことって有るでしょ?」
「そ、そうだよ。デリカシーは大切だよ!」
慌てて絵里に合わせておいた。
間違いとは言い切れないから、問題はないか。
「知られたくないことは俺にはねーし。
そもそもデリカシーがねーのは今に始まったことじゃねーしな」
後半は開き直りとも取れる発言だった。
「まぁその日記は暫く絵里が預かっといて。その方が色々安全だと思うからね」
「わかった」
「健十郎も百合さんの日記のことは秘密にしてくれると助かるんだけど・・・」
「まぁ分かったよ。深くは聞かないでおくよ」
「ありがとう!」
僕の満面の笑みを受けて、健十郎は「おう」と照れくさそうに返事をした。
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裕さんたちが住む、新しい部屋にやって来た。
今回はセキュリティーが強化された所らしい。
パスワードのみならず、指紋認証に網膜認証などの生体認証まで多数採用されている。
急に入居者が増え、価格が高騰してるらしい。
ニュースでも話題になっていたが、切り裂きサンタが世間を賑わせているからだろう。
一体警察は何をやっているのやら。
そもそもこの過度の相互監視の元バレないほうが可怪しいと言うのに・・・。
・・・・・・。
そう、可怪しいのだ。
百合さんの行動や僕の行動がバレていないのが。
もしバレているなら、何を探しているのか・・・
「着いたぞ」
健十郎の声で、我に返った。
「「こんにちは」」
健十郎は相変わらず挨拶しない。
まぁ自分の家に近いからなのかもしれないが、それでも「ただいま」くらい言えばいいのにね。
「飛鳥くん、大丈夫なの!?」
裕さんが僕を心配してくれているようだ。
「ありがとう、でも大丈夫です!」
「なら良かった。いきなり倒れたからね」
「俺も最後のメッセージかと思ったくらいだしな」
「縁起でもない」
2人は笑っていたが、絵里は冗談じゃないよという顔をしている。
「それで哲さんの事なんだけど・・・」
「哲がどうしたの?」
「根本的な問題が解決されれば元に戻ると思うんだよね」
「「あるの(か)!?」」
兄弟2人は声を揃えて尋ねてくる。
どうやら絵里は理解したようだ。
「飛鳥、それ以上はダメ」
「絵里は黙ってて。大事な話だから」
「そうだぞ。よくわかんが」
「それで原因は何だと思うの?」
「ジパングの消滅だよ」
「「・・・・・・」」
暫く呆然と立ち尽くし、沈黙が流れる。
「そ、それはちょっと無理じゃないかな・・・」
「だ、だよなー」
「私もそう思う。大体、そんな事考えてるってバレたら・・・」
「凄く言いにくいんだけど・・・、もうバレてるかもしれないんだ」
「「えっ?」」
絵里は薄々気づいているのだろう。何も言わなかった。
「あのサンタは多分・・・国の人だと思う」
「それってナマ 」
「そう。僕はそう思ってるよ」
「「・・・・・・」」
「百合さんが狙われたのは古本屋が原因だと思う」
「古本屋?都市伝説のか?」
「そう。百合さんはそこから情報を得てたって言ってたから・・・」
「お、俺はこの話は、聞かなかったことにするね!」
そう言うと、裕さんは奥に行ってしまった。
「健十郎は」
「俺はもう帰るよ。流石にまだ死にたくない。
だけどお前にも死んでほしくもないから、これ以上は手を出すな」
緊迫した表情だった気がする。
「珍しく健十郎と同意見」
絵里はいつも通りだが、目には力が込もっていたように思う。
その日は気まずいまま解散となった。




