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1億総活躍社会のディストピア  作者: シャム猫ジャム
ジパング
35/87

以心伝心

声の先を見ると、哲さんが居た。

僕と同じような幽体離脱したかのような状態だ。


「哲さん?」

「おう」

「久しぶりに声を聞いた気がします」

「俺もだな」

「もしかして全部見ていたんですか?」

「1つ残らずな」

「何が起こったのか教えてくれませんか?」

「教えられねーな」

「なぜですか?」

「自分で考えろ。まずお前は何を忘れた?」

「何を忘れているのかすら思い出せません・・・」

「俺はこうして全部覚えている。幼少を除いて、な。

つまり、トラウマは俺が持っているってわけだ。

だが、体はトラウマを切り離した。俺ごとな。

だからトラウマを更に切り取らない限り、俺は戻れない」

「じゃあ僕はどうなんですか?」

「お前は最近の記憶がなくなってるんだろ?

なら、トラウマはまだ体にあるはずだ。

お前が弾き出されたのは別の理由だ。

それを突き止めれば必ず元に戻る。

何だと思う?」


全くわからない。

「哲さんならわかりますか?」

「己の心の弱さそのものだろう。俺は見てたからな。お前の腰が引けていたのも」

「・・・」


「あの時、殺人鬼が来たんだ。

百合を滅多刺しにしてたな。

お前は百合が刺された時に包丁を持って突っ込んだが全く刃が立たなかった。

その時に覚悟を決めていれば違ったかもしれないな。

あの状況から俺はそう思ったよ」


そうか。

「僕は自分への自身が足りなかったんだ」

「いいか?お前が戻っても俺は戻れない。俺のことをよろしく頼む。

それと、裕と健によろしく伝えてくれ。一緒にいる限り見守っているから」


-------------


「どうしたんだろ」

「俺に聞かれても・・・」

哲と飛鳥くんは見つめあってピクリとも動かない。

「嫌な予感がするな・・・」

「おい、起きろ飛鳥」

健十郎が飛鳥くんの目の前で手を振り、頬を叩く。

やはり反応は皆無だった。

「どうしよう」

健十郎は震えている。

更にどん底に落とされる気がしたから。


「健十郎・・・」

「飛鳥!?」

俺も飛鳥の顔を直視する。

「ただいま」


-------------


「飛鳥・・・」

健十郎がまた泣き始めた。

意外と涙脆(もろ)かったことに気づいた。

「ごめんね。心配かけちゃって」

「謝る相手は俺だけじゃねーだろが」

いつの間にか嬉し泣きに変わっていた。

いい笑顔だ。

一生忘れないだろう。

僕の親友は最高だよ!


「飛鳥くん無事で何よりだよ・・・」

「それで、2人に話があるんだ。哲さんの記憶と心はまだ生きてるよ」

「戻せるの!?」

「それは無理だって哲さんが直接教えてくれたよ。似通った症状だったから、通じたんだと思う」

今度は裕さんから涙が(こぼ)れ落ちる。

「今までありがとう。いつも見守ってるよ。これからもよろしく頼む。そう言ってたよ」

裕さんは崩れ落ち、号泣しだした。

何事かとお母さんも出てきた。


「お母さん、ただいま」

「飛鳥・・・」

「迷惑かけてごめんね」

「いいのよ」

お母さんは流石に泣きはしなかった。

だが、優しく僕を胸に抱き、頭をなでてくれた。

すごくホッとする。


突然記憶が戻ってきた。

フラッシュバックにより気絶したようだ。


-------------


終皇79年X月X日 不明


夢を見た。悪夢なのだろうが、不思議と恐怖は伝わってこない。

哲さんの記憶のようだ。

夢だと分かっているものの、自分の夢じゃないため操作はできない。


虹のオーロラがある白い世界だ。

そこには裕さんと黒い悪魔がいた。

悪魔は裕さんを追いかけ、徐々に距離が詰まる。

(ひび)割れた大地が悪魔を闇に落とし、オーロラに依って瞬く間に見えなくなる。


あの悪魔こそがトラウマの正体か。

ならば、ジパングさえなければもしかしたら・・・。


夢はそこで覚めた。


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