2人の自分
終皇80年1月20日 不明
あまりの出来事のため、天気が思い出せない。
僕の体が動いたのだ。
僕の体だったそれは、僕の意思とは独立して行動している。
そう、新しい意識が芽生えたかのようだ。
僕の記憶とどれくらい共有しているのだろうか。
僕の持っていない記憶を、彼は持っているのだろうか。
暫く様子を見ていた。
まるで赤子のようだ。
恐らく意味のない声を発したのだと思う。
お母さんが困ったような顔を一瞬したからだ。
その後ハイハイして直ぐに立てるようになった。
まだ歩けはしないようだ。
筋力的には歩けるはずなのだが、脳の問題だろうか。
まるで脳の大部分を何かの処理に使われているような・・・。
あっ。僕だな。
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終皇80年1月21日 晴れ
雲量は8くらいか。
今日、彼の名前を嚮後と名付けた。
嚮後くんは今日も成長を続ける。
トイレも自分でできるようになった。
自分の体がトイレをする姿を覗いたわけなのだが・・・。
自分の体を覗いただけなので、合法なのである。
今日のお遊びは積み木。
絵里と仲良く積み木でお家を作っていた。
というより、積み木が未だに家にあったのか・・・。
何処に閉まってあったのだろう。
更に言えば、何時取り出してきたのか。
僕は家にずっと居たのにわからなかった。
僕は何時寝ているんだったか。
そういえば、嚮後が布団で眠りに就いたのを見た後に、電気が消えたように急に真っ暗になった気がする。
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終皇80年1月22日 晴れ
雲は昨日よりは少ない・・・気がする。
今日は健十郎が来てくれた。
哲さんの時みたいにやらかさないでよ?
だが、杞憂に終わった。
2人はすごく楽しそうに、おもちゃで遊び始めた。
健十郎が持ってきた、飛行機のおもちゃで、だ。
「ブーン」
そういう声を出して遊んでいるのがよく分かる。
嚮後くんは飛行機を持って走り回っているのだから。
健十郎は悲しそうに彼を見つめる。
僅かに開いていた扉を少し開け、外を覗いた。
僕も覗いたが誰も居なかった。
そっと扉を閉じ、彼の元へ行く。
彼の頭を優しく撫で、徐々に目に涙が溜まってきた。
とうとう健十郎は泣き出してしまう。
抱きつかれた俺の体の持ち主は慌てふためく。
今日は家に泊まるようだ。
お泊りか。
懐かしいな。
1回だけお互いにやったことがある。
おもちゃを壊されて大泣きしたような気がする。
代わりに貰ったらしい図鑑が部屋にはあったかな?
健十郎と嚮後くんは仲良くお風呂に入った。
嚮後くんは頭を洗うのを嫌がっていた。
お母さんがシャンプーハットを持ってきたので、なんとか洗えたようだ。
そう、今回も覗いていたのだ。
だが、目撃者は居ない。
問題ない。
今なら女子を覗いてもバレそうにないな・・・。
まぁ見た所で興奮できそうにないのだが。
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終皇80年1月23日 快晴
放射冷却に依り、非常に寒い。
今日は朝から裕さんと哲ちゃんが来ていた。
「久しぶりだな」
3週間ぶりくらいに直接的な音を聞いた。




